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「日曜美術館」ブログ|NHK日曜美術館

アートコラム

コラム 日本伝統工芸展、受賞作家の作品はどこで出会える?

2021年9月19日

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第68回日本伝統工芸展で新人賞を受賞した知念冬馬さんによる琉球紅型の反物。 写真提供=知念琉球紅型研究所

9/19放送「第68回日本伝統工芸展」、お楽しみいただけましたか。

番組をもっと楽しんでもらえるように、日曜美術館のホームページでは放送と関連するトピックを毎回紹介しています。

江戸小紋 小宮康義さんの作品と出会うには?

今年の日本伝統工芸展では、若手作家たちの意欲的な挑戦を感じる作品が目立ちました。では、そうした作家の作品は普段どこで見たり買ったりすることができるのでしょう。取材してきました。

最初に伺ったのは、東京・中野区沼袋にある「シルクラブ 中野山田屋」。こちらは東京で四代続く呉服店の中野山田屋が1988年に設けた、つくり手と一般の方たちとの距離を近づけるための予約制サロンです。そして、今回の日本伝統工芸展で奨励賞を受賞した小宮康義さんも一員である、小宮染物工場(葛飾区)の反物を取り扱っている場所のひとつです。

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東京・中野区沼袋にある「シルクラブ」は、1988年に山田呉服屋がつくり手と一般の人々の出会いの機会を増やす目的でつくったスペース。

――日本伝統工芸展で受賞した新進作家の作品は普段どこで見られるのかと、まずこちらに伺ったのですが、小宮康義さんの江戸小紋はありますでしょうか?

(シルクラブ 中野山田屋 代表 西村花子さん)

「先代の小宮康孝先生や三代目の康正先生のものは常備しているのですが、康義さんのものとなると小宮染織工場の展示会のときに数点入ることはある、という感じですね」。 今回は取材ということで、小宮さんのところに連絡を取ってくださり、特別に康義さんの江戸小紋を取り寄せてくださいました。

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第68回日本伝統工芸展奨励賞の小宮康義さんによる江戸小紋。落ち着いた小紋だが、モチーフのヒントにしたのは「ペンギン」。近づいてじっくり見ると、なるほど……。

「江戸小紋の良いところは、決して華美ではないけれど、『整然とした美しさ』があって、そこに格好良さを感じるんです。中でも小宮先生のつくられるものは型が究極に整っていて、だからか身につけると心がスーッと静かになって落ち着きます。

また、康義さんは、この『ペンギン』や、以前の日本伝統工芸展に出品された『トランプ』にしてもそうですが、型のモチーフに新しい息吹がありますよね。江戸小紋の型は伝統的にも『厄除け』『大根おろし』『初鰹』などとても多様でユニークな一面もありますし、康義さんの作品を見てもわかる通り、さりげなく新しい試みが凝らされていたりします」

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小宮康義さんの父、人間国宝にも指定されている三代目・小宮康正さんの反物も見せていただく。

着物にもともと精通している人でなくても、接するきっかけが得られるようにと、「シルクラブ」では、染織の展示会の他、音楽会やカフェなども行っているとのこと。

「触ってみますか?」。取材中には、人間国宝・小宮康正さんや康義さんの反物にも触れさせていただきました。「いいんですか?」「だって、触らなかったらわからないじゃないですか?ぜひ」。その軽やかさ、こまやかさ、肌触りが、手からじかに伝わってきた瞬間、急にその存在が近くなった気がしました。

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「シルクラブ」一軒家の中にショールーム、展示会場、カフェ、ライブラリーなどがある。

琉球紅型着物 知念冬馬さんの作品と出会うには?

次に話を伺ったのは沖縄・那覇市を拠点に紅型(びんがた)の着物を染めている知念紅型研究所の知念冬馬さんです。冬馬さんは琉球王朝時代から紅型を作り続けている知念家の後継として、祖父から継いで30代前半にして工房の代表を務めています。今回の日本伝統工芸展では自身の作品が新人賞を受賞しました。

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知念紅型研究所・知念冬馬さん。リモートで那覇とつないでインタビューを行った。

――知念冬馬さんの作品は普段どこに行けば見られるのでしょうか。

「私の、ということでなく知念紅型研究所として、という話になりますが、現状は本土では常時作品を見てもらえる場所はなく、沖縄にある私たちの工房に来ていただいた場合だったら確実に見られます。本土でももちろん見たり買えたりする機会はあるのですが、着物は基本、問屋さんを通じて、そこと取引のある呉服屋さんに卸される流通形式なので、私たちの方でいつ、どこで売られているか、十分に把握することはできないのです。

ただ、『出会える場』を増やしていかないといけないとは常に思っています。なぜなら呉服業界で紅型のことを知っている人がいても、そこの世界を一歩出るとほとんど誰も知らないからです。インスタグラムやTwitterといったSNSを定期的に更新したり、制作工程を動画に収めて発信したりもしていますが、呉服や工芸にまったく興味がなかった人たちを引き込むきっかけにしたいからです」

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知念紅型研究所のHPより。紅型ができる工程や、工房の日常などを動画で発信、「知ってもらう」ための活動も日々行っている。

「私たちの工房ではここ数年毎年のように人を雇うようにしています。それは今後に向けて育成が大事だと思っているからですが、こうした雇用ができているのは、問屋さんが一定の本数、反物を買い取ってくれるからですし、私たちはそのおかげで安心して生産数を確保することができている。

でも、業界のシステムは今後必ず変わっていくに違いないでしょう。SNSをはじめ『出会える仕組み』の開拓に余念がないのは、この先どう転換しても困らないように今から布石を置いておこう、という気持ちの表れです」

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スタッフの育成・雇用を積極的に行いながら、次代の職人がつくり続けていける環境づくりも常に考えているという。 写真提供=知念紅型研究所

「今、興味があるのは、ライブコマースです。動画のリアルタイム配信を使い、紅型着物のことを説明しながら、販売もする試み。紅型という伝統工芸を継承するために、また今学んでいる人たちが将来的にも仕事として続けていけるように、新しい取り組みは積み重ねていかなければと思っています」

(取材時期 2021年9月)


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