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「日曜美術館」ブログ|NHK日曜美術館

アートコラム

#アートシェア2021 ~今、見てほしいこの一作~

2021年1月 3日

あけましておめでとうございます。2021年のスタートを飾る「日曜美術館 新春スペシャル #アートシェア2021」。まだまだ先行きが見えない状況が続いています。「この時代だからこそ、みなさんにもぜひ見てほしい」。さまざまなジャンルで活躍する方々に、おすすめの一作を選んでもらいました。

●井浦 新(俳優)

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選んだ作品:国宝「火焔型土器」

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〜火焔型土器の装飾は炎を表していると考えられていますが、今回、博物館の学芸員にちょっと違った見方を教えてもらいました。 火焔型土器が川の流域で見つかっていることから、土器の装飾は炎ではなく水を表しているのではないか、というのです。この見方を聞いた井浦さんに、感じたことを語ってもらいました。〜

コメント: 信濃川流域の縄文人たちは、川に近いところで住んでいたからこそ、雨が降ったり嵐が来たりしたら、それはもう恐ろしいことになっていたと思うんです。それでも、もう駄目だと他の地域に行くんじゃなくて、水を表すような造形物を精密に作って、それに祈りを捧げた。畏怖の念のもとに、こういう物を作って乗り越えていこうとする力が縄文人にはあったし、現代の人間にも、きっとあるものだっていう風に思いたいですよね。
こういうもの目の前にすると、お前たちも頑張れよってバトンを渡されているように感じますし、逆境だからこそ生まれてくる形もあるのではないかと思います。

 

●石黒 浩(大阪大学教授・ロボット学者)

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選んだ作品:ジャコメッティ「歩く男Ⅰ」

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コメント:僕も人を理解したい。それをアンドロイドで表現したいと思っているんですけど、人ってどういうものかっていうのを徹底して表現しようとしたアーティストがジャコメッティだという気がするんです。
「歩く男」が一番シンプルで好きですね。削ぎ落とし削ぎ落とし、人間のいろんな物を最小限に表現したらああいう形になるんじゃないかっていう共感を覚える。
僕がつくっているのは一見人間っぽいんだけれど、アンドロイドの本当の姿って、もっと機械がむき出しになった、余計なものを削ぎ落とした姿の方がかえって人の想像をうまく喚起して、みんなが関われるようなものになるのではという気がしています。
技術がどんどん進んでくると、人はより根源的な問題により興味を持つようになるし、その根源的な興味に向かっていた一人がジャコメッティなんだろうなと思う。

 

●塩田千春(美術家)

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選んだ作品:ゴヤ 「我が子を食らうサトゥルヌス」

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コメント:すごく気になった作品がゴヤの「自分の息子を食うサトゥルヌス」。サトゥルヌスってサタンの意味で、ギリシャ・ローマ神話におけるサトゥルヌスが自分の子どもの一人に倒されるという予言を恐れるあまり、子どもが生まれるごとに食べていくという様子を描いた絵。 人はどういったときに、不安や恐怖を持つのか。それがどういった形で作品になるんだろう。
ゴヤは宮殿のお抱え画家なのにすごく暗い面をもっていて、不思議でしょうがないけれども、この世界にすごく惹かれるところがあって。それはここに描かれているのが人間に共通する暗い部分だからなのかもしれない。
私は去年、森美術館で個展があったのですが、片岡館長からその企画について最初に知らせてもらった次の日にがんになったんですね。手術もして、抗がん剤治療もして。抗がん剤治療を行うかたわら、抗がん剤治療用のプラスチックバックにクリスマス・イルミネーションを入れた作品を作っていた。やっぱり死ぬことは怖かったし、がんになってしまってどうしていいかもわからなかった。だから、抗がん剤治療のバックを集めて、その中にイルミネーションの光を入れてピカピカさせる中で、生きている自分を感じたかったんです。
負の気持ちって作品になるんです。人間、楽しくて幸せに生きたいのは本当だけど、でもやっぱり楽しいことだけじゃなくて、解決しえない自分の心もある。うまく言えない気持ちがあって、それが芸術で協和されていく部分ってあると思う。

 

●山口 晃(画家)

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選んだ作品:雪舟「四季山水図(山水長巻)」

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コメント:雪舟は無駄なことをしない人だと思うんですね。実際に見ていただけるとわかると思うんですが、手数が恐ろしく少ない。ズッ!バッ!ダッ!シャー!でできているっていうか。
ひょろっとした木1本見ても、「ああ、やられた」とガツンとくるんです。
そのときにしか出ない線というのが水墨の醍醐味であるわけですが、早描きであるために即興性があって、見ている者をぐいぐい引っ張っていく。その辺の魅力がありますね。
それから作者が見たものの追体験といいますか、そこに引きこまれる快楽なのか、危険な罠なのか知りませんけども。そういうところがあります。
シェアって、どうなんでしょうね。あんまり作品が癒やしと言われるのも「いやいや」って思っちゃう方なんですけど。作品を見るときは高揚感といいますか、たぶん脳内物質が出ていると思うんです。ある種の過剰な興奮っていうものは器官を痛めますから、本当に元気なとき、年に1度ぐらいでいいのかなと。癒やされて、っていうのにはならないと思います。止むに止まれず近寄っていっちゃう、そういうものじゃないでしょうか。

 

●大林剛郎(企業経営者)

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選んだ作品:杉本博司「究竟頂(くっきょうちょう)」

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コメント:ピラミッド、あるいは古墳の中にいるような、石室という感じがあるんですけど、そこに数理模型をモチーフにした、杉本博司による彫刻が天井からぶら下がっているという作品です。
実はこの円錐、下に向かってずっと細くなってきているのですが、(想像上ではその続きが)地球を突き抜けブラジルのどこかで数ミクロンになって、さらにそれが宇宙の果てまで永遠に続いていくというイメージなのです。
人間、無限とか宇宙に憧れるじゃないですか。日々コロナの話題でなかなか大変な時ですが、宇宙に想いをはせる、あるいは無限なものを見るというのは何か励まされるところがあるように思うんです。
皆さんにこれを見てもらいたい、元気になってもらいたいなという思いで紹介させていただきました。

 

●ヤマザキマリ(漫画家)

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選んだ作品:Jordan Belson 「Fountain of Dreams」

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コメント:ジョーダン・ベルソンっていう作家がいまして、抽象的な光とか色彩がクラシック音楽と一体化してずっとその映像が流れているっていうものなんですけど。細かい光の粒が上昇していき、やがて空の星と融合するシーンがあるのですが、そこがすごく好き。生まれてきたものがやがて消滅して、宇宙の中に吸い込まれていくみたいな。宇宙旅行をしているような気分になる映像です。
私にとって旅はなくてはならない栄養素なのですが、それを(コロナで)断たれちゃったんですね。最初の2、3か月は、大丈夫って思ったんだけれども、夏ぐらいから段々気が滅入ってきて。でもこれを見ていると少し想像力が潤ってくる。自分が生きているところって、こんな狭いところじゃないはずだよなっていう気づきを今までは旅からもらっていた。でも今はジョーダン・ベルソンがいるから、旅しなくても大丈夫かな。そのくらい楽観的な気持ちにさせてもらいました。

 

●山口一郎(ミュージシャン)

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選んだ作品:松江泰治「SPK 44134」

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コメント:僕が紹介するのは、松江泰治さんの写真作品。
北海道・札幌の航空写真なんですよ。
冬に撮影した写真らしくて雪が降っている。
偶然、僕が当時初めて一人暮らしした場所がこの写真に収められているんです。
ここが大通りで、僕が住んでいたのはこのマンション。家賃3万円でした。
当時全然お金が無くて、電気もガスも、最後に水道も止まって。
僕は少年時代に戻りたいとか、自分が多感だった時期にどんな音楽を作ろうとしていたのか、そのときの感覚に戻りたいっていつも思いながら葛藤しているんですけど、何かこの写真を見ていると北海道で、自分がまだデビューもしていない頃、たくさんの誰かのためではなくて、誰か一人のためであったり、自分のために音楽を作っていた時のことを思い出すことができる。
松江さんの写真って感情が無いんですけど、でもだからこそ僕の中で、エモーショナルなものを入れられるっていうか。僕の中では生を感じることができるんですよ。

 

●片岡真実さん(森美術館館長/国際美術館会議会長)

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選んだ作品:河原 温「Today」シリーズ

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コメント:私からは、現代アーティスト・河原温さんの「Today」というシリーズを紹介したいと思います。
1966年に始められた作品。その日の日付だけを、無地の背景のうえに、その日に滞在していた場所の言語で表記した手書きの絵画。その日の新聞とともに箱に収められた。その日中に描き終えられないものは破棄されるというルールがありました。
キャンバスに色を施し、日付を描き入れるという行為は、河原がその日一日を生きたことの証。
外出自粛を経験した世界中の人々にとって、2020年は先の見通しがきかない中で「生きること」の意味を考えさせられた1年でした。
ただそれでも、生きられる人は生きられなかった人のためにも生きなければなりません。芸術の持つ想像力と創造力は、こうした時代を生きるためのヒントに溢れています。2021年を「生きる」という強い意志と、未来への希望のために、この作品シリーズをシェアしたい。


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