2018年3月18日
「井浦新 “にっぽん”美の旅」。今回は古代、縄文時代からつらなる“アニミズム”を求めて、番組MC井浦新が北へ南へ、日本を旅しました。旅の中から見つけたものとは果たして――。振り返って話してもらいました(聞き手/出かけよう日美旅 編集部)。
秋田・マタギに案内していただき、山の神のふところへ赴く井浦新。
奄美大島で旧暦の8月、アラセツ(新節)の行事として行われる「平瀬マンカイ」。新米でつくった赤飯を平たいサンゴ石に挟んで、供える。
――まずは南、奄美大島へ。五穀豊じょうを祈って旧暦8月に行われる島の神事「平瀬マンカイ」は、ずっと前から見たいと思っていたそうですね。
僕は日本の島の中でも奄美大島に縁があって、2013年、NHKの「島の先生」というドラマに出演させていただいたとき奄美大島と加計呂麻島(かけろまじま)で長期間のロケ撮影をしたんです。奄美大島にこれほど長く滞在できるのはまたとない機会。事前に調べておいて、撮影の合間を縫ってレンタカーを借り自分で運転して、いろいろなところを巡りました。今日は撮影開始まで何時間あるからここまで行ってみよう、その次のときにはさらに先の集落まで足を伸ばしてみよう、そんな感じで。写真を撮りながらフィールドワークをしていました。その中で奄美大島では集落ごとにいろんな神事があることも知りました。
また「平瀬マンカイ」についてはそれより前から興味を持っていたので、神事が行われる浜まで行って、写真でだけ見たことのあった、ノロが祈りを捧げる場所の岩を見つけて、ここか!とひとりで思いをはせたりしました。いつか必ずこの目で神事を見てみたいと思っていたので、今回願いがかなって興奮しました。
――実際にその場に立ち会ってみていかがでしたか?
アラセツの行事は日の出前、「ショチョガマ」と呼ばれる、わらぶきの屋根に乗る男たちの祭りから始まる。
行く前は、映像などで見る「平瀬マンカイ」の、しめ縄を張った大きな岩の上でノロ(※)が一列に座って祈りをささげる様子が印象的で、ある意味自分の頭の中でイメージをつくり上げて神格化していたところがあったように思います。でも実際にその場に居合わせることができたおかげで、そこだけではなく、もっと全体に触れられた。神事が終わった後の、集落の家族、親戚、友人、県外から祭りを見に来た人までみんなで集まって、それぞれの人が持ち寄った食べ物をそこにいる全員に振る舞いながら、今年も無事に神事を行うことができたと感謝しつつ食事しているときの様子とか。そこで生きる人々の笑顔がとても印象に残りました。
※ノロ……神に祈りをささげる女性の司祭。平瀬マンカイを行う集落ではノロが途絶えているため、集落の女性たちがノロ役をつとめる形で神事を行っている。
夕方から行われる「平瀬マンカイ」。しめ縄を張った海岸の岩にノロ役が登って豊作を祈っているところ。
――今回特別に、ノロの神事のときの衣装も見せていただきました。
平瀬マンカイ。集落の人々による踊りの様子。
見せていただいた着物はサイズが小さめだったのですが、聞いたところでは、初めてノロの神事に参加する少女が着たものではないかということでした。ノロは神や霊魂や自然の中の精霊と対話する立場。またその着物は三角の布がパッチワークのように組み合わされているのですが、三角は蝶(ちょう)や蛾(が)を表しているとも言い、蛾にはご先祖様の魂を乗せてくるとの言い伝えもあるとか。つまり三角形=霊を表す。一方で、三角形には着ている者を守る意味も込められているという。今回見せていただいた着物は、おそらくこれを着たであろう少女、まだ霊力が弱い可能性がある少女をより厳重に守ろうと、ここまでびっしり三角形がほどこされているんじゃないかというお話でした。
それは、霊と交流するためのものでありながら、同時に、精霊や霊魂に連れていかれないように大人たちが子を思い、気持ちを込めてつくったものでもあるのだと感じ入りました。
ノロの神事にまつわるとされる江戸時代の着物。三角形のパッチワークのようになっている。宇検村生涯学習センター元気の出る館・蔵
――神事でありつつ、同時に人の営みでもある。
そうなんです。アニミズムというと、神事としての祭りも、あるいは精霊や霊魂といったものとの対話も、日常と切り離された向こう側の出来事とイメージしてしまいがちですが、今回「平瀬マンカイ」を直に見たことで、「本当はそうではなくて日々の生活と切り離せないところにあるものなんだ」ということが強く感じられました。奄美の自然と密着した人々の生活があり、そこで暮らしているからこその自然への畏怖、逆にそこからいただく恵みがあり感謝があって……。精霊も霊魂も神も、生活の一部としてそこにありました。
マタギ小屋。
――奄美大島の後は福岡、熊本。それから北へ、秋田にも行きました。
秋田ではマタギの人たちに同行させてもらい、彼らの暮らしをかいま見ることができたのですが、そこでの「マタギ勘定」という考え方が鮮烈に記憶に残りました。仲間のうちのひとりだけが狩猟に成功して獲物を得ることができて、他の人が取れていなくても、常にマタギの人たちは肉も骨も厳密に均等に仲間と分配をするんです。
また彼らは「狩った」とは決して言わない。「授かった」と言う。
マタギ……東北地方などの山岳地帯に住み、独自の技術を持ち、集団で熊や鹿などの狩猟をすることを生業としている人々。
阿仁地区のマタギたちの猟場。
マタギと行動を共にさせてもらう井浦 新。
マタギの人たちから山の神について話を聞かせてもらいました。猟に行くときは、たとえば奥さんのマフラーであるとか、周りの女性が着ていたものを身につけた状態では絶対に山に入っていってはいけない。山の神が嫉妬するからだと。山の神は女性で、怒らせてしまうとそこからの恵みを「授かる」ことはできなくなる。
山の神の像をご神体として代々まつってきた「根子山神社」。
縄文の痕跡が残る秋田の「伊勢堂岱縄文館」で見つけた、珍しい板状土偶。○△□のかたちからできている!
福岡や熊本では、古代の「装飾古墳」を見学。写真は福岡県うきは市にある「日岡(ひのおか)古墳」。同心円の模様が印象的。
秋田の遺跡「大湯環状列石」から出土した土版(どばん)。人体のようにも見える。
――改めて、今回の旅を通じて井浦さんが触れて感じた○△□とは? アニミズムとは?
鹿児島県の奄美大島でも、その次に訪れた九州の熊本や福岡で見た装飾古墳でも、また秋田でも思ったのですが、○△□が自然の中から生まれた根源的なかたちであることは間違いない。ただ、そこは出発点というか。なぜそれが生まれてきたのかを知る手がかりを得る旅になりました。
古来、日々の暮らしは自然とものすごく密着していた。そして家族だったり、ともに生きる仲間だったり、集落の人々だったり、そうした大事な人の存在を思い、一心に何かを願う気持ちがあった。そうした“祈り”があって、太陽や月や星や山や川……自然の中からのかたちが表出されることになったのでは。つまり、○△□とは、人の “心”から生み出されたかたち。「人が人のことを真剣に思う気持ち」から生まれた自然信仰、それこそがアニミズムなのではないか。それを肌で感じられたことが今回の旅で得られた一番の収穫だった気がしています。
真剣な面持ちで奄美大島・平瀬マンカイの様子を眺める井浦 新。
今回、番組で訪れた場所をご紹介します。
●奄美大島
・秋名アラセツ行事(「ショチョガマ」「平瀬マンカイ」からなる)
鹿児島県大島郡龍郷町秋名 秋名集落内
日時 旧暦8月初丙(ひのえ)の日 場所 秋名湾西岸
お問い合わせ 0997-69-4512(龍郷町役場 企画観光課)
交通アクセス
名瀬新港~秋名集落 (大熊経由 )車で 40 分程度/奄美空港~秋名集落 車で 45 分程度/芦徳~秋名集落 車で 30 分程度 龍郷町役場~秋名集落 20 分程度
・宇検村生涯学習センター 元気の出る館
鹿児島県大島郡宇検村大字湯湾2937-83
開館 午前8時30分~午後5時 日祝休
※ノロの神事に使っていたものが常設展示されている。神事をしている様子のパネルの展示も有り。(番組で登場した、ノロの神事にまつわる着物は写真で見られる。実物は展示されていません)
●福岡県
・日岡(ひのおか)古墳
福岡県うきは市吉井町若宮366-1
原則毎月第3土曜日、午前10時と午後2時で古墳見学案内時のみ公開
お問い合わせ 0943-75-3120(うきは市立吉井歴史民俗資料館 月曜休館) /0943-75-3343(うきは市教育委員会 生涯学習課)
※見学は必ず公開日5日前までに要予約。
●熊本県
・チブサン古墳・オブサン古墳
熊本県山鹿市城字西福寺
アクセス 鹿児島本線「玉名駅」もしくはJR「熊本駅」からバス「山鹿バスセンター」~「博物館前」下車
午前10時と午後2時に内部を見学できます。ご希望の方は、事前に博物館で受付をしてください。
公開日 山鹿市立博物館の開館日(月曜休館、月曜が祝日のときはその翌日)
お問い合わせ 0968-43-1145(山鹿市立博物館)
●秋田県
・大湯環状列石・大湯ストーンサークル館
秋田県鹿角市十和田大湯字万座45
開館 4月〜10月 午前9時〜午後6時/11月~3月 午前9時~午後4時
休館 4月〜10月 無休/11月~3月 月曜(月曜が祝日の時は翌日)/12/29~1/3
アクセス JR花輪線「鹿角花輪駅」よりバス「大湯温泉」行で25分、「環状列石前」下車/東北縦貫道十和田ICより、十和田湖方面に車で15分
お問い合わせ 0186-37-3822(鹿角市教育委員会 大湯ストーンサークル館)
・伊勢堂岱遺跡・伊勢堂岱縄文館
秋田県北秋田市脇神字小ヶ田中田100-1
開館時間 午前9時~午後5時まで 休館 月曜(祝日の場合はその翌日)/年末年始(12月29日~1月3日)
※縄文館は通年開館、遺跡の公開は4月下旬頃~10月末まで。縄文館が休館日の場合は遺跡も閉鎖となります。
アクセス 秋田内陸縦貫鉄道小ヶ田駅より徒歩5分/JR奥羽本線鷹ノ巣駅より車で15分/大館能代空港より車で5分
お問い合わせ 0186-62-6618(北秋田市教育委員会 生涯学習課)
・マタギ資料館
秋田県北秋田市阿仁打当字仙北渡道上ミ67
開館 午前9時~午後5時
お問い合わせ先 0186-84-2612(マタギの里観光開発株式会社)