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2021年10月31日

コラム 手島圭三郎 あなたを大自然に返す

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「しまふくろう・とぶ」 苫小牧市美術博物館蔵 画像提供=苫小牧市美術博物館
*同館で開催中の「鳥のいる風景」展で出品されています。

10月31日放送「北の息吹を刻む〜絵本作家・手島圭三郎 最終作へ〜」、いかがでしたか?
番組をもっと楽しんでもらえるように、日曜美術館のホームページでは放送と関連したトピックをお送りしています。

大自然に向かっている感触

「実際に自然に接したときの記憶や、印象が甦ってくるような表現であってほしい」
手島圭三郎さんは自らの創作について書き綴った文章のなかで、このように語っています。
(絵本塾出版・刊『手島圭三郎全仕事』より)

「北海道にいながら街なかにいるとその自然に触れることがなかなかないのが実際のところ。それだけに、手島先生の絵本によって私自身、北海道の自然について、新たな気づきを与えてもらっています」
つい先日まで原画展を開催していた(※10月17日で終了)北海道立文学館学芸課・丹伊田範子さんは語ってくれました。

「あなたを大自然に返すために、ぼくは絵本をつくっている」

これはかつて出版社がつくった手島さんの絵本広告用のキャッチコピーです。
冬の冷たい空気、月明かりのもとで樹氷がなにかの形に見立てられる瞬間、くるくると風に吹き上げられて踊る枯れ葉の様子など、本当にその絵本の1ページ1ページには、自然と接しているかのような感覚を呼び起こす力があります。

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4月17日から6月27日まで北海道立帯広美術館で開催された「森といのちの交響詩 手島圭三郎 絵本原画展」より、絵本『おおはくちょうのそら』原画。 
写真提供=北海道立帯広美術館

開館30周年を記念して大規模な絵本原画展を今年春に開催した、北海道立帯広美術館担当学芸員の福地大輔さんのコメントです。
「帯広美術館は緑ヶ丘公園という比較的大きい公園内にありまして、木立も多く、エゾリスの姿をよく見かけます。また市街地から少し離れたところでキタキツネやエゾシカを見た経験を持つ北海道民は少なくないと思います。でも、オオハクチョウなどはバードウォッチングをする人でなければ身近に見ることは少ないでしょうし、シマフクロウに至っては特別天然記念物、『神の使い』と称されてきた希少な生き物。手島さんの絵本は、私たち北海道民でもめったに見ることのできない、知らない自然やアイヌの伝承を再発見させてくれます」

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苫小牧市美術博物館から車で20〜30分行ったところにあるウトナイ湖には多くの水鳥が訪れる。オオハクチョウは毎年10月頃に渡来。湖畔には日本野鳥の会の活動拠点である「ウトナイ湖サンクチュアリ ネイチャーセンター」も設置されている。(土・日・祝日開館)
写真提供=公益財団法人 日本野鳥の会

なおニューヨークタイムズ・世界の絵本ベストテン(1988年)にも選出された絵本『おおはくちょうのそら』。そのモチーフとなったオオハクチョウは、渡り鳥の中継地点として知られる苫小牧市・ウトナイ湖などで見ることができます。10月中旬になると毎年渡ってきて、一部は湖で越冬します。

ウトナイ湖から車で30分弱のところにある苫小牧市美術博物館では北海道・苫小牧の豊かな自然環境の中で生きる鳥たちにスポットをあてた展覧会「鳥のいる風景」が12月12日まで開催されており、その中では手島圭三郎さんのシマフクロウをテーマにした木版画4点(「しまふくろう・とぶ」、「しまふくろうと月」2点、「雪の夜」)が出品されています。

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10月17日まで北海道立文学館で開催されていた「彫り続けた北の自然-絵本画家・手島圭三郎の40年」展示の様子。 画像提供=北海道立文学館

冒頭にコメントをご紹介した北海道立文学館(札幌市)では10月17日に終了したばかりの原画展を含め過去3回、手島圭三郎展を行っています。また、文学館の常設コーナー「北海道の文学」の中に児童文学の一角があり、そこに絵本『カムイチカプ』の原画でもあるシマフクロウの木版画が1枚掛けられています。こちらは常設なのでいつ行っても見ることができます。

これから見られる手島圭三郎の展示

現在開催中の苫小牧市美術博物館「鳥のいる風景展」の他、各地の図書館でも手島圭三郎の絵本原画展が今後予定されています。
大自然に向かっている感覚を味わえる手島圭三郎さんの作品を、絵本で、また原画展でお楽しみください!

展覧会情報

◎収蔵品展「鳥のいる風景」 
10月9日〜12月12日 苫小牧市美術博物館(北海道)

◎各地の図書館で行われる手島圭三郎絵本原画展示
9月13日~11月15日 長野県塩尻市立図書館(長野)*『おおはくちょうのそら』『きたきつねのしあわせ』原画展示
10月19日~11月23日 函館市中央図書館(北海道)*『きたきつねとはるのいのち』原画展示
11月1日~12月15日 江東区立東大島図書館(東京) *『きたきつねのゆめ』原画展示