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2021年10月10日

谷内六郎を見に「横須賀美術館」へ行ってきました。

10/10放送「遠い日の風景〜谷内六郎の世界〜」いかがでしたか?
番組をもっと楽しんでもらえるように、日曜美術館のサイトでは放送と関連したトピックをお送りしています。

今回は、番組で登場した横須賀美術館についてレポートします!

谷内六郎の常設展示がある美術館

横須賀美術館は谷内六郎の常設展示がある国内唯一の美術館。
『週刊新潮』表紙絵など、いつ行っても作品を見ることができますが(※休館日は除きます)、12月12日までは生誕100年を記念して特別展が開催中です。

早速、三浦半島の最東端、観音崎へ。最寄りは京急本線・馬堀海岸駅。ここからバスに乗るとちょうど美術館前まで海岸沿い道路となるので、車窓から気持ち良い景色が続きます。 

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美術館への通路。実は彫刻家、若林奮の作品。

美術館前で降りるとまず彫刻家、若林奮(いさむ)による鉄板の作品「VALLEYS」がお出迎え。無骨な鉄塊の谷に樹木の落ち葉が溜まって自然と一体化しています。

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横須賀美術館

「VALLEYS」を抜けると目に飛び込んでくる一面の芝生。そしてガラス張りのミュージアム。横須賀美術館は背後を山に囲まれ正面は海という、ロケーションに優れた美術館。ここから見える夕日は美しく、また夜、月が出ているときには海に月光の道ができるそうです。

通常は別館の谷内六郎館が専用の展示室なのですが現在は改修中。今回は特別に本館地下の展示室を使って生誕100年展が行われています。

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生誕100年 谷内六郎展の模様。

「ライフワークである『週刊新潮』の表紙絵はもちろんですが、ファンの方にも、初めて六郎さんの作品を観るという方にとっても、こういう一面もあるんだという発見が得られるかと思います。初出品の作品も多く、画家の全貌が知れる展覧会になっています」(横須賀美術館学芸員 立浪佐和子さん)

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谷内六郎が原画提供したお店の包装紙や紙袋。

谷内六郎の代名詞である「週刊新潮」表紙絵については番組内で紹介しましたので、それ以外についてレポートします。

点数は300を超え、中には谷内六郎が原画提供したお店の包装紙や紙袋などもありました。妙蓮寺にあった風月堂や、いなり寿司で知られる神田志乃多寿司、福岡のデパート岩田屋など。現在では使われていないものもありましたが、復刻してほしい!と唸ってしまう可愛さです。

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谷内六郎が手がけたモザイクタイル壁画の原画。

モザイク壁画の原画もありました。もっとも有名なのは東京・表参道交差点にある山陽堂書店の壁画でしょう。街のランドマークとして、今日でも人々の待ち合わせ場所になっていますよね。

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エレベーターで最上階に上がるとこの景色!

横須賀美術館は地下と1階に展示室、2階が図書室や情報スペース、そして最上階は屋上広場。外に出ると一面の海。この辺りはタンカー、護衛艦、ヨット……、さまざまな種類の船舶が通る海上交通の要衝です。
船が行き交うさまは谷内六郎も好きだった風景で、週刊新潮の表紙絵でも船舶が多く描かれています。

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美術館に隣接したレストランで食事をしている人々の向こうも海。この丸窓自体が絵の一部のよう。 

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美術館のエントランスを出たら芝生越しの海。ピクニックシートを広げてつい座ってしまいますよね。

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屋上広場。屋上の高さと水平線のそれが同じくらいに感じるような設計。

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屋上から観音崎公園にダイレクトに行くことができる。

美術館は地形の勾配を生かして建てられています。ペントハウスが背面に位置する観音崎公園とつながっており、そのまま散歩に出られます。

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背面から見た美術館。潮風の塩害から建物を守るため鉄板でできた外壁をさらにガラスウォールで囲むという、独特な工法が使われている。

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美術館と外の風景がつながって感じられる。

開館は2007年。建築家・山本理顕(やまもとりけん)が初めて美術館を設計したことでも話題になりました。各所に外の環境とつながる工夫がされていますが、作品の保存に気を配りつつ自然光を取り込んで作品を見るようになっているのはなかなか他で見ない仕掛けです。

画家の見ていた景色を追体験する

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遠方から来訪された方も一日横須賀を楽しめるようにと美術館スタッフが描いた近隣マップ。

美術館を見終わった後は美術館スタッフがイラストで表現した「横須賀美術館おさんぽマップ」を頼りに周辺散策。情報密度があって初めてこの辺りに来る人でも困りません。

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マップに載っていた食事処でいただいた、すき身丼。このすき身の量!

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この先に観音埼灯台がある。

美術館から海沿いの道を浦賀方面に歩くと、地元の方々がパドルボードをしたり蟹をつかまえたりしている風景に出会いました。

さらに少し歩けば観音埼灯台が見えてきます。谷内六郎は一日灯台長を務めたこともあります。谷内さん、灯台好きで知られており『週刊新潮』表紙絵の中で灯台は18回も登場しています。

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たたら浜。観音崎で穴場のビーチ。

谷内六郎が最初に観音崎に滞在したのは子どもの健康のことを考え、環境の良い場所を求めて行き着いたとのこと。観音崎京急ホテル(当時はモーテル)のプールで娘さんと一日遊んだ話など、家族の思い出がこの地にはたくさん詰まっています。

気持ち良い秋晴れの日、美術館で谷内六郎を見て、その後画家が見ていた景色を追体験する一日。少し時間を掛けても行く甲斐ありです。

展覧会情報

「生誕100年 谷内六郎展 いつまで見ててもつきない夢」
12月12日まで開催中