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2021年9月23日

コラム 横尾忠則のふるさと、西脇のまち散歩

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横尾さんが高校生の頃にデザインした包装紙を現在も使用している和菓子屋「住吉屋」にて。

9/26放送「横尾忠則 ART IS LIFE」、いかがでしたか? 番組をもっと楽しんでもらえるように、日曜美術館のサイトでは放送と関連するトピックを毎回独自にお送りしています。

今回は、横尾さんの生まれ故郷、兵庫県西脇市を散歩してきました!

「母が横尾さんと小学校の同級生」

西脇市は兵庫県のほぼ中央に位置、東経135度、北緯35度の交差点があることから「日本のへそ」と呼ばれたりもしています。
播州織(ばんしゅうおり)という、木綿の糸を染めて織った織物の産業で栄えてきた町で横尾さんが少年だった戦後直後の頃はまさに黄金期、町のあちこちで一日中ガチャ、ガチャという織り機の音が響き渡っていたそうです。

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かつての工場跡を活用した「播州織工房館」。播州織の製品が見られるだけでなく、まちのマップなどももらえる。

通りで道を聞いたのですが、この町には横尾さんの同級生の方もいらっしゃるんですよね…、ボソッとつぶやいたところ、「私の母、小学校時代の同級生よ」「!」。お話したのは、この町で4代続く薬屋の娘さん。何年か前にも横尾さんが薬を買いに来られたとか。横尾さんの実家が市内の南旭町の辺りにあったことも教えてもらいました。

早速、その辺りに向かってぶらぶら。かつては町の至るところにあったという、のこぎり屋根の織物工場跡や、女工さんたちの宿舎だったという木造建築を見かけました。

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通りを歩けば、のこぎり屋根の工場や工員さんたちの宿舎跡がちらほら。

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共同宿舎として使われていた「旭マーケット」

「旭マーケット」は播州織の工場で働く女工さんの共同宿舎としてつくられ、戦後の最盛期には飲食店もひしめきあっていた場所。今や全国的にも珍しい木造のアーケード。

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銭湯「日の出湯」跡。2011年に閉業。

民家と思って通り過ぎかけたのですが、よく見ると1階の玄関が2つ(男湯と女湯の入り口)。大正創業の銭湯「日の出湯」だった建物。実は横尾さんも通った銭湯です。

そしてY字路。以下の2つは住所から察するに、横尾さんの実家があった場所のすぐ近所ではないでしょうか?

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「暗夜行路N市-Ⅴ」のモチーフになったY字路。

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「暗夜行路N市-Ⅱ」で描かれた場所。町の子どもたちと遭遇。

横尾さんが高校生だった頃に包装紙のデザインを手がけたという和菓子店も訪れてみました。

「お店は昭和4年の創業ですが、父が店主をしていた頃、高校の美術部の先生が横尾さんと来られて、包装紙を彼にデザインさせてもらえませんか? と相談されたんです。じゃあお願いしよかということになったのですが、まさかこんな有名になられるなんて、とよく言ってましたわ。
西脇から越された後でも、こっちに戻ってこられると寄ってくださって。方言もそのまんまで、同窓生と来られたり、普通におしゃべりもしますよ」

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和菓子屋「住吉屋」。

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「横尾さん、西脇に戻られると寄ってくださいますよ」。にこやかに話してくださった店主さん。

横尾さんはいつも何を買っていかれるのですか?
「あの方は決まって粒あんのおはぎ(笑)」

町の方たちが今も横尾さんのことを身近な感覚で語られるのが印象的でした。

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「住吉屋」のすぐ裏は、Y字路シリーズ「榎のある風景」のモチーフとなった場所。

Y字路は横尾さんの少年時代とつながっている

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童子山からの眺め。

西脇市内のY字路ポイントを歩いて回っていると横尾さんの少年時代の思い出が詰まった場所と関係しているのではないか、ということに想いが至ります。

「N市 霧の夜」のモチーフがあるのは、横尾さんが通っていた県立西脇高等学校があった童子山から町へ降りる坂の途中(※現在、高校は市内の別の場所に移転)。「暗夜行路N市-Ⅱ」「暗夜行路N市—Ⅴ」は、おそらく西脇のご実家のすぐ近所。「榎のある風景」は、横尾さんが高校時代に包装紙のデザインを手がけた和菓子屋のすぐ裏。

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Y字路シリーズの記念すべき1作目「暗夜行路N市-Ⅰ」のモチーフとなった場所は横尾少年が行きつけだった模型店の跡地。

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「N市 霧の夜」のモチーフとなった場所は童子山公園のそば。

また道中、杉原川という小川を横切るのですが、そこでは学校帰りとおぼしき学生たちが水にドボンと浸かったり、竿をたれて魚釣りをして遊んでいるのを見かけました。横尾さんが西脇での少年時代を回想した著書では、学校から帰ってくるとすぐ小川に魚を獲りに行くのが日課だったというエピソードが出てきますが、イメージが重なりました。

Y字路巡りは、西脇の町の歴史に思いをはせることができるのと同時に、かつての横尾少年の足跡をたどって歩く気分にもなれます。皆さんも機会があれば西脇Y字路巡礼、ぜひ。

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杉原川の川原で遊ぶ少年たち。

家族で楽しい「日本へそ公園」

西脇市の中心市街地から車で10分東に進んだところにある「日本へそ公園」には横尾さんの作品を収蔵し、数年に一度のペースで展覧会も行っている岡之山美術館があります。普段は現代美術作家の個展が開かれていますが、毎回ポスターは横尾さんがデザインしています。
へそ公園は子どもを遊ばせる場所としてもおすすめなので、お出かけの際はこちらもお立ち寄りください。

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日本へそ公園内にある「西脇市岡之山美術館」。設計は磯崎新。

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直方体の部屋が直列したような展示室。取材時は現代美術作家・堀尾昭子さんの個展が行われていた。

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公園内にあるにしわき経度緯度地球科学館「テラ・ドーム」の設計はポストモダン建築の毛綱毅曠(もづなきこう)氏による。