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2021年7月11日

コラム 日本各地に残るイサム・ノグチの作品たち

7/11放送「わたしとイサム・ノグチ サカナクション 山口一郎」いかがでしたか? 日曜美術館の公式ブログ「日美ブログ」では、番組でクローズアップされた香川県高松市牟礼町のイサム・ノグチ庭園美術館、北海道札幌市のモエレ沼公園以外で、日本各地に残るイサム・ノグチの作品にスポットをあてます。こちらもあわせてどうぞ。

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大通公園「ブラック・スライド・マントラ」 写真提供=大通公園

【北海道】札幌・大通公園 「ブラック・スライド・マントラ」

札幌市の中心部に位置する大通公園の真ん中辺りに現在も置かれ(西8丁目)、地元の子どもたちが遊んでいる黒い滑り台。正式名称は「ブラック・スライド・マントラ」。

イサム・ノグチは古代の遺跡をたくさん見て回った時期があり、マチュピチュの古代インカ遺跡の石の坂をお尻で滑りながら「スライド・マントラ」のアイデアを思いついたと言います。インドの「YANTRA MANTRA」という天文観測台からもインスピレーションを受けています。黒い花崗岩でつくったのは、北海道の冬を象徴する白い雪との対比を考えてのこと。1992年に大通公園で除幕式が行われました。ノグチは生前に語りました。「これはまだ完成ではない。子どもたちが何度も滑り、そのお尻でなじむようなかたちになって、初めて完成と言える」。

 

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草月会館「天国」 写真提供:一般財団法人 草月会 撮影:中野義樹

【東京】赤坂・草月会館1階の石庭「天国」

日本の近現代建築を牽引した丹下健三が1977年に設計した草月会館の1階「草月プラザ」に設置された石庭も、イサム・ノグチによるものです。 

天井から豊かに降り注ぐ光が白く明るい石を照らしながら時間と共に移ろい、どこか雲の上にいるような感覚に襲われる庭。
草月流の創始者・勅使河原蒼風とノグチは、1951年、リーダーズ・ダイジェスト東京支社ビル(※現存せず)の落成式で花をいけたのが蒼風で、ビルの庭園を手がけたのがノグチであったことが縁で知り合いました。ノグチは蒼風との間に「共感の絆」があったと語っています。会館の庭をノグチに依頼した蒼風は「花がいけられるように」という要望を伝えた以外は、全面的な信頼のもと一任したと言われています。 

今日まで、草月流いけばなの展示の舞台として、またジャンルを超えたさまざまな創造活動の発表の場として広く使われ続けています。

 

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「こどもの国」の遊具「オクテトラ」 写真提供=横浜こどもの国

【神奈川】横浜「こどもの国」の遊具

1965年、皇太子殿下(現 上皇陛下)と美智子さまのご結婚を記念してつくられた「こどもの国」。その中の児童遊園の設計をノグチが手がけました。

もともとノグチは1940年、ハワイのアラモアナ公園のために考えた子どもの遊具の構想があったのですが実現に至らず。それだけにとても思い入れがある仕事でした。「30年の設計の体験をすべて生かした。子どもの遊び場には自然を残し、自然を生かさなければならない。遊んでいて心のたかぶりを覚えるようなものをつくりたいという私の夢を実現した」。

また「こどもの国」はノグチ以外に、建築家の黒川紀章、菊竹清訓、大谷幸夫などが意欲的な建物を設置したことでも知られています。歳月が経ちそれらの建物の多くは解体され、ノグチの手がけた児童遊園も遊具「オクテトラ」「丸山(滑り台)」が残るのみとなっています。しかし、児童遊園に至る入り口の通路や遊具の丘に入るまえのコンクリートのアーチなどにノグチが設計した景観デザインの痕跡が残っており、当時の様子に思いを馳せることができます。

 

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万博記念公園「夢の池」噴水彫刻群 ※現在は水は出ません 写真提供=大阪府

【大阪】万博記念公園「夢の池」の噴水彫刻群

1970年の大阪万博に合わせて近未来的な噴水をつくってほしいという依頼を受けて、「宇宙空間の夢」と題されたユニークな噴水彫刻をノグチが設計しました。

黒と黄色のドーム状噴水器が水面に浮上したり水中に潜ったりする「宇宙船」。十字にクロスした円盤が回転しながら水を噴き上げる「惑星」。下面から滝のように水が流れ落ちて長い尾のように見える「彗星」。円筒全体から霧が出て巨大な霧の塔と化した「星雲」など、6種9基の彫刻が設置されました。噴水の機能は停止していますが、現在も万博記念公園「夢の池」にオブジェとして残っています。

 

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平和大橋 ※2019年2月撮影

【広島】平和大橋・西平和大橋 

広島平和記念公園を取り囲む元安川と本川に掛かる平和大橋・西平和大橋。ノグチがその欄干を設計し1952年に完成しました。広島で育った人は少なからず、子ども時代にこの橋を手でなでながら通った経験を持っていると言います。広島市出身のファッション・デザイナー、三宅一生さんもその一人。高校時代、毎日ノグチがデザインした2つの橋を見ながら通学していました。2つの橋は対をなしており、平和大橋の欄干には生を象徴する昇る太陽の形が付いています。西平和大橋は、エジプトの死者の船の思想に由来するかたちであり、「ぼくらのだれもがしなければならないように(死へと)出発するための船だ」とノグチは生前語りました。


1988年にこの世を去ったイサム・ノグチの、インタビューの言葉から抜粋します。

「ある彫刻がもはやそれを彫刻とは意識しないほどに必要不可欠な要素となれば、そのときにはそれは良い彫刻だと思う」。
「ぼくが考えたのは自分が去ったあと、これがただ終了してしまうのは嫌だなということだった。継続してほしい。とにかく、しばらくのあいだは。もしあるものが生きた伝統であるのなら、それは生きなければならない。つまり、その有用性は継続しなければならない。」
「私の創作に対する情熱の根底にあるものは、このような『役に立つこと』という点にあるのだと思います。それはスペースに、そして彫刻に人間性を与えるという意味でもあります」

イサム・ノグチが残した彫刻たちは、今もその有用性と共に私たちの生活に溶け込んでいます。

各スポットの情報

◎大通公園「ブラック・スライド・マントラ」
北海道札幌市中央区大通西8
見学自由

◎草月会館「天国」
東京都港区赤坂7-2-21
見学は要予約 

◎こどもの国
神奈川県横浜市青葉区奈良町700
開園 9時半~16時半(最終入園時間 15時半)
※7~8月は17時まで開園します。(最終入園時間 16時)※入園料が必要
休園日/水曜(水曜が祝日の場合開園)、12/31、1/1

◎万博記念公園
大阪府吹田市千里万博公園
開園 9時半〜17時(最終入園時間16時半)
休園日/水曜(水曜が祝日の場合は翌日の木曜)※4月1日からゴールデンウィーク・10月・11月は無休

◎平和大橋・西平和大橋
広島県広島市中区中島町
見学自由

上記のほか、日本国内に残るイサム・ノグチの作品としては、土門拳記念館の庭園(山形・1983年)、東京国立近代美術館「門」(東京・1969年)、慶應義塾大学三田キャンパス萬來舎(東京・1951年 ※2005年にリニューアル)、最高裁判所「つくばい」(東京・1974年 ※一般見学不可)、高松空港「タイム・アンド・スペース」(香川・1989年)などがあります。

展覧会情報

「イサム・ノグチ 発見の道」
8月29日まで
東京都美術館(東京・上野)