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2020年12月20日

コラム 工芸王国・金沢 その美の環境

12/20放送「至高の工芸をあなたに〜金沢 国立工芸館〜」いかがでしたか? 日美ブログでは国立工芸館とその周辺について、金沢の美の見どころを紹介します。こちらも合わせてどうぞ。

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金沢市、本多の森公園内にオープンした国立工芸館。現存する明治期の建築が展示施設として使用されている。

工芸王国へようこそ

2020年10月25日、東京国立近代美術館工芸館がそれまでの東京の竹橋から、石川県金沢市に移転しました。国立美術館が日本海側に開設されるのは初のことです。

石川、富山、福井など北陸は工芸の一大拠点であり続けてきました。現在行われている開館記念展Ⅰ(〜2021年1月11日)に出品されている第一級の工芸作家の顔ぶれにもそれは表れています。九谷焼の作家である三代目徳田八十吉、陶芸の石黒宗麿、漆芸の松田権六、ガラス工芸の小島有香子などは出身や活動拠点が北陸です。またこの他にも、実は北陸にゆかりが深いという作家は少なくありません。たとえば北大路魯山人が陶芸を始めたのは石川県加賀市で手ほどきを受けたことがきっかけです。富本憲吉は奈良県出身ですが、色絵を研究するにあたり石川県に滞在して九谷焼きの技法を取り入れました。板谷波山は茨城県出身ですが石川県工業学校の彫刻科で教鞭を取り多くの後進に影響を与えました。 

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開館記念展「工の芸術--素材・わざ・風土」より 三代徳田八十吉 「燿彩鉢 創生」 1991年

金沢美術工芸大学、富山ガラス造形研究所、金沢卯辰山工芸工房など、工芸関連の教育機関も北陸地方は充実。事実、これらの学校・施設から工芸の世界に新風を吹かせる作家も数多く輩出されています。加えてここ数年、金沢で工芸関連のフェスティバルが増えており、2010年には工芸の公募/企画展を組み合わせた「金沢・世界工芸トリエンナーレ」がスタート。昨年2019年の開催で第4回を数えました。2016年からは「金沢21世紀工芸祭」も始まりました。こちらは工芸を取り扱う市内のギャラリーやミュージアムなどが連携して行っている地域のイベントです。

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(左)色絵の魅力を堪能できる富本憲吉 「色絵更紗文捻徳利」 1939年(右)北出塔次郎 「色絵魚貝図水指」 1954年頃。

また金沢は加賀料理で知られる和食文化の中で美しい漆器や焼き物などが日常的に使われています。このたび国立工芸館が移転開館したことにより、普段から生活の中で地元の作家の工芸品に身近に接することができるのに加えて、日本全国の一級品の工芸までが見られる環境となった凄さがあります。

一級の美が楽しめるミュージアム群

今回、国立工芸館が設置された場所は兼六園と隣接する本多の森公園内ですが、その中と周りには魅力的なミュージアムが集中しています。
まず国立工芸館のお隣にある石川県立美術館では地元の工芸作家の展示が充実しています。取材時には石川の截金(きりかね)作家の企画展示などが行われていました。
※截金…金などの箔を線状や四角などに切って貼りながら装飾する工芸技法。

本多の森公園の中の「緑の小径」を歩いていくと、数分で世界的に知られる金沢出身の禅の思想家・鈴木大拙のミュージアム「鈴木大拙館」に着きます。建築を手がけたのはニューヨーク近代美術館などの設計で知られる谷口吉生。その空間の一部である「水鏡の庭」は季節や天候・時間帯によって見え方が違い、そのときごとの楽しみがあります。

そして、工芸館からも鈴木大拙館からも徒歩約8分のところに金沢21世紀美術館。言うまでもなく、全国でも屈指の現代アートの美術館です。

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金沢21世紀美術館。国立工芸館から徒歩で行き来しやすい距離にある。

ちなみに、鈴木大拙館を設計した谷口吉生の父親は東京国立近代美術館本館や帝国劇場を設計したことで知られる建築家・谷口吉郎で、竹橋時代の東京国立近代美術館工芸館が1977年につくられたとき、館内の内装を手がけた人でもあります。谷口吉郎は金沢生まれで、実家は九谷焼の窯元です。

2019年には谷口吉郎の金沢の住居跡が谷口吉郎・吉生記念金沢建築館というミュージアムになりました。館の設計はもちろん谷口吉生。館内には谷口吉郎がかつて手がけた迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」の広間と茶室が再現されています。

工芸から現代アート、建築まで、コンパクトな都市の中に一流の美が集積した金沢。ぜひミュージアム巡りを軸にした金沢観光を楽しんでいただきたいところです。 

本当は、国立工芸館では開館記念の一環として、若手工芸作家の器を使ったお茶会のイベントなども催される予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、実施を見合わせざるを得なかったとのこと。一日も早く安心できる日常が戻って、十分な体験が気兼ねなくできるようになることを祈るばかりです。 

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国立工芸館の2階には設置された茶室。その中には開館に合わせて行ったクラウドファンディングを通じて購入した若手作家の器が並ぶ。これらの作品を使ったお茶会が開催される予定だった。

◎国立工芸館(東京国立近代美術館工芸館)
石川県金沢市出羽町3-2
開館時間:9:30〜17:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜/年末年始(12月28日~1月1日)

展覧会情報

国立工芸館石川移転開館記念展Ⅰ 「工(たくみ)の芸術 素材・わざ・風土」
10/25-2021/1/11 
※事前予約制


国立工芸館石川移転開館記念展Ⅱ 「うちにこんなのあったら展 気になるデザイン✕工芸コレクション」
2021/1/30-4/15
※事前予約制