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2018年1月28日 / 旅の紹介 第61回 クリムトと世紀末ウィーンの旅

2018年はクリムト没後100年。クリムトが生涯を通じて活動の拠点としたウィーンの街を旅し、彼が生きた時代とその作品を肌で感じます。

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ウィーン市内にある「美術史美術館」。階段ホールの装飾壁画の一部をクリムトが担当した。

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グスタフ・クリムト(1862-1918)は19世紀末から20世紀初頭にかけてのオーストリアを代表する画家として知られています。

クリムトの画家としての歩みは、19世紀末のウィーンにおける大規模な都市改造や、従来の保守的な文化様式から脱却に向かう時代の空気と大きく関係していました。 

ブルク劇場

まずやってきたのは、ウィーン市庁舎の向かいにあるブルク劇場。今もさまざまな演目が日々上演されている現役の劇場であり、クリムトが手がけたもっとも初期の作品を天井画の形で観覧できる場所でもあります。

クリムトは工芸学校に通って応用美術を学んだ後、1883年に弟のエルンスト・クリムト、画家仲間のフランツ・マッチュと3人で「芸術商会」という会社を設立、建築装飾の仕事を受注し始めます。そして最初の大きな依頼が、当時まさに本格化しつつあったウィーンの都市大改造の一環で、建設中だったブルク劇場の天井装飾の仕事でした。  

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ブルク劇場。1888年完成。1945年に戦火で甚大な被害を受け1955年に再建されている。

ブルク劇場、ウィーン市庁舎、オーストリア国会議事堂、国立オペラ座、それからこの後ご紹介する美術史美術館も、いずれも1860年代〜1890年代につくられたこの時期の都市計画の建築遺産です。
というのも、当時のオーストリア帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフが城壁で囲まれた旧来のウィーンの都市構造を大幅に変更。城壁をすべて壊しその跡地に環状道路をつくる計画に1850年代後半から着手したからです。「リング通り」と呼ばれるのがその環状道路で、これに合わせ新道路に沿って公共施設が次々新築されることになりました。それが上述の建物たちです。

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階段ホールの上に広がるクリムトたちが手がけた天井画。

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天井画のひとつ、「シェイクスピアのグローブ劇場」。右手に見える、白い服に白いひだ襟をつけている人物がグスタフ・クリムトの肖像とのこと。

若きクリムトは会社をつくって公共の仕事を受けることに成功したわけです。ブルク劇場の仕事は1886-88年ですからまだ20代半ばの頃。絵の腕前のみならずビジネスマンとしてもなかなかのやり手だったと言えます。

ブルク劇場の天井画はお芝居を見るか、毎日15時から行われている館内ガイドツアーに参加すれば見ることができます。ツアーの解説はドイツ語と英語のみですが、日本語で書かれた簡単なガイドペーパーも用意されています。

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観劇の様子。この日の演目はシェイクスピア「真夏の夜の夢」。

天井画は階段を上っていくと比較的近い場所から眺めることもできますが、よりディテールを見たい方は双眼鏡を持っていくことをおすすめします。
なお、天井画はどれも演劇に関したイメージとなっていますが、そのうちの1点「シェイクスピアのグローブ劇場」には、観客のひとりとしてクリムト自身の肖像が描かれているとのことです。

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ブルク劇場の向かいにはウィーン市庁舎が。こちらも19世紀末の建造。

美術史美術館

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パリ・ルーブル美術館やマドリード・プラド美術館などと並んでヨーロッパ随一の美術館に挙げられる美術史美術館。

ブルク劇場から歩いて約10分の場所にある美術史美術館。こちらは「バベルの塔」を始めとするブリューゲルの一大コレクションを始め、ベラスケスやフェルメール、カラヴァッジョなど、教科書で見た名画が数多く収蔵されています。入り口を入ったところにある階段ホールの壁画の一部をクリムトたちの芸術商会が手がけているのです。1890年の仕事。

クリムトの壁画が見られるのはホールの上方、アーチと柱の間の三角小間と柱間の部分の一部で、11点あります。ギリシャ、エジプト、ルネサンスなど、美術史上重要な時代を表した絵柄が描かれているのですが、衣服や身につける装飾品などその時代の様式を細かく研究して描写しています。また、よく見ると、一個一個の絵の横にイニシャルが書いてあり、グスタフ・クリムトの担当した絵には「G.K.」や「GVSTAV KLIMT」と記されています。壁画の辺りはあまり明るくなく、またそれなりに距離がありますが、ディテールが興味深いので、こちらも双眼鏡持参がおすすめです。

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クリムトが手掛けた壁画の一部。衣装なども時代考証がなされたうえで描かれている。

ちなみに美術史美術館の向かいには形がそっくりの建物があります。こちらは自然史博物館で、石器時代のヴィーナス像や化石など考古学的なコレクションが並んでいます。両館ともハプスブルク家の収集品が元になっている素晴らしいコレクションです。2館に挟まれてマリア・テレジア広場がありますが、マリア・テレジアこそハプスブルク家を大きくした女帝として知られる人。マリー・アントワネットのお母さんでもあります。

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マリア・テレジアの像。右手が指している方が美術史美術館。反対側には自然史博物館。

美術史美術館内のカフェは、床のモザイクや丸天井など空間も素敵です。鑑賞に疲れたら、ここでひと休みをどうぞ。

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美術史美術館内のカフェ。 

分離派館(ゼツェッション)

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分離派館の地下フロアには巨大な壁画「ベートーベン・フリーズ」が描かれた部屋がある。

ブルク劇場と美術史美術館はクリムトの初期作が見られるスポットですが、カールスプラッツ駅のそばにある分離派館では、金ぱくが多用され、装飾性がより強調された後期の大作壁画「ベートーベン・フリーズ」を見ることができます。 

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1902年に会館内で行われた分離派の企画展「ベートーベン」展に合わせて作られた。

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ゼツェッションはトレードマークの金色に輝く月桂樹の円屋根で知られているが、現在は外装修復中のため全体に足場が組まれてこのとおり。2018年4月まで工事は続く予定。

19世紀末、ヨーロッパ各地で芸術の新様式が興隆しました。パリではアール・ヌーヴォー、イギリスではモダンスタイル、ドイツやオーストリアではユーゲントシュティール。ウィーンでは1897年にウィーン分離派が立ち上がり、この分離派館が建てられました。クリムトは協会の初代会長を務めています。

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分離派館の他の部屋はギャラリーになっていて、現代アートの展示が行われていた。 

「ベートーベン・フリーズ」は1902年に開催された分離派の企画展に合わせてクリムトが制作した大作です。ベートーベンの第9交響曲から着想して描かれたと言われていますが、発表当初、その作風は“異様”と、かなりの物議を醸したようです。

なお分離派館の建物自体もウィーン分離派の様式を伝えていますが、現在は修復工事中。有名な黄金の月桂樹の葉の丸屋根も2018年4月まで見ることができません。「ベートーベン・フリーズ」も2018年2月26日から3月9日まで修復で見られなくなるとのことです。

国立オーストリア美術館(ベルヴェデーレ美術館)  

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現在は国立オーストリア美術館として使われているベルヴェデーレ宮殿。 

最後に訪れたのはベルヴェデーレ宮殿。ここはもともと18世紀につくられた宮殿ですがその後ハプスブルク家の美術コレクションを収蔵する場所として用いられた歴史を持ち、現在は国立オーストリア美術館として公開されています。エゴン・シーレ、オスカー・ココシュカなど世紀末の画家の作品などが充実。でも目玉は何と言ってもクリムトの「接吻(せっぷん)」。その他「ユーディットI」などクリムトの代表作がまとめて見られます。

クリムトの作品は2つの展示室にわたっており、1室は人物が描かれた絵が中心、もう1室は風景画が主に見られる空間です。 

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「接吻」などが展示されているクリムトの展示室。

また庭園が見事なことでも知られています。訪れた時期は冬で若干寂しい感じではありましたが、春になると花が咲き乱れます。お庭だけなら料金はかかりませんし、散歩やランニングをしている方も見かけることができます。

その他ウィーンの楽しみ 

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シュニッツェルに次ぐ名物料理「ターフェルシュピッツ」。

ウィーンの食と言えば子牛のシュニッツェルがよくガイドブックに載っていますが、その他に牛肉を野菜と一緒に煮込んだ「ターフェルシュピッツ」という名物料理もあります。タルタル風ソースか、リンゴのムースに西洋わさびを混ぜたソースを好みで添えます。

19世紀末、ウィーンの大規模な都市計画、そしてその後興隆したユーゲントシュティールの活動。クリムトの芸術はこうした時代の熱気の中で輝き、そのスタイルを完成させていきました。
ウィーンでクリムトを見て回るなら、リング通りと周辺の建物もぜひ意識して、その時代を感じてみてください!

今回の日美旅はウィーン在住の村川景子さんにご協力をいただきました。

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カールスプラッツに残る旧駅舎はオットー・ヴァーグナーという、ユーゲントシュティールを代表する建築家が残した建物。現在は1棟がカフェ、もう1棟がヴァーグナーの資料館として使われている。

インフォメーション

◎ブルク劇場 Burgtheater
Universitätsring 2, 1010 Wien

◎美術史美術館 Kunsthistorisches Museum
Maria-Theresien-Platz, 1010 Wien

◎分離派館 ゼツェッション Secession
Friedrichstraße 12, 1010 Wien

◎国立オーストリア美術館(ベルヴェデーレ美術館) Österreichische Galerie Belvedere
Prinz-Eugen-Straße 27, 1030 Wien