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2017年11月19日 / 旅の紹介 第58回 京都へ 木島櫻谷を巡る旅

11月、そろそろ樹々が赤黄に色づき始めた京都へ、明治から昭和に活躍した日本画家・木島櫻谷(このしまおうこく)を堪能しに行ってきました。

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1912年の第6回文展で最高賞を受賞した木島櫻谷の「寒月」。その奥行き感、空気感、陰影の妙……、他で見たことのないような印象を受ける日本画です。

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現在、木島櫻谷のことを知っている人はそれほど多くはないかもしれません。けれども、明治末期、20代で宮内省や皇室に作品が買い上げられ、更に文展においてその第1回から6回まで毎回受賞、うち最高賞にあたる二等が4回、三等が2回。夏目漱石が櫻谷の作風について辛口の批評をしたこともありましたが、それだけ意識される存在であったということでしょう。本人は権威にも立場にも執着せずただ絵を描くことだけにまい進。40代後半から画壇と距離を置いたこともあり、亡くなった後次第にその名が聞かれなくなっていったようです。

泉屋博古館

2013年に回顧展が開催、これを機に再びスポットが当たり始めています。そして今年、木島櫻谷生誕140年を記念して京都市内の3つの施設を結んだ、かつてない規模の回顧展が行われています。
というわけで最初にやってきたのは、左京区鹿ヶ谷にある「泉屋博古館(せんおくはくこかん)」の「特別展 木島櫻谷――近代動物画の冒険」展。  

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泉屋博古館のお庭。樹木が少しずつ色づき始めている。

番組で大きく取り上げた「寒月」をはじめ櫻谷が最も高い評価を受けた動物画の主要な作品を一度に見られ、木島櫻谷を知るには絶好の内容となっています。展示は20代始めの頃の作品から始まりますが、まず若い時からの筆さばきの見事さに目を奪われます。

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27歳のときの作品「猛鷲波濤図屏風」(展示は11月21日まで)。付立法(つけたてほう)と呼ばれる筆づかいで描かれている。

作品によっては、伝統的な日本画というよりむしろ、油画で見るようなタッチと感じられるものもあります。
「木島櫻谷は円山・四条派を学んでいますが、20代後半には、西洋画に強い関心を持っていたようです。ちょうど当時、洋画家の浅井忠が京都に教えに来ていて、熱心に通って話を聞いたという記録が残っています」(当館学芸員 実方葉子さん)

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「熊鷲図屏風」。西洋絵画を思わせる筆のストローク、そして動物の優しい表情が印象的。 

今回の目玉のひとつとして、初公開作品「かりくら」があります。かりくらとは狩り競べのこと。2幅で1対、それぞれ高さ250cm幅173.8cmもある大作。
第4回文展三等を取った代表作のひとつですが、なんと100年以上行方しれずになっていました。木島櫻谷の遺品目録をつくるために、学芸員の実方さんと木島櫻谷のご子孫が旧邸宅を調べていたとき、竹竿に巻かれて無造作に置かれていた布を「これは何だ?」と広げてみたら本作だったそう。絵の具は剥落、虫食いなどもあるひどい状態でしたが、2年かけて見事に修復されました。

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新発見の作品「かりくら」。衣笠にある木島櫻谷の旧邸でずっとほこりをかぶっていた。4年前に発見され、ようやく修復が完了、今回が初お披露目。

そして、「寒月」。うまく言えませんが、写真映像的な奥行きや光や影の効果の付け方など、見たことのないタイプの日本画というか、この1点を見るためだけでも本展に来るかいがあると思わせる特別さを感じました。それに、水を打ったような静けさの中たたずむ一匹のきつねを見た後の余韻が何とも言えません。
「木島櫻谷は鞍馬・貴船辺りによく写生に行っていました。ある冬の夜、宿から出ると月に照らされた竹林にけものの足跡が残されていた。そこからこの世界を構想したと本人が語っています」(実方さん)

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晩年の作品「角とぐ鹿」。画中の木は、当記事の最後から2番目の図版に出てくる木を写生したとされる。見比べてみてください。

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現在見つかっている木島櫻谷の写生帖は674冊。こちらはライオンのスケッチ。

また、写生帖も見応えがあります。木島櫻谷は非常に貪欲に写生に出かけていったようで、クマやライオンなどは「大阪博物場」(1884年、全国でいち早く場内に動物園を設置した。現在のマイドームおおさかがある辺り)でスケッチ。京都市動物園が1903年に開園してからは動物園から年間パスポートが贈呈される程、通いつめたようです。櫻谷の描く動物からはまた、本当に動物が好きな人の優しいまなざしを感じます。   

京都文化博物館

続いては中京区、「烏丸御池駅」近く、三条通沿いにある京都文化博物館へ。ここでも木島櫻谷の展覧会が開催中ですが、展示されているものの大半が京都府所蔵(京都文化博物館管理)のコレクション。その数40点以上。実は昨年、木島櫻谷の作品を多く含む大規模な寄贈が京都府にあったのです。今回はその初披露の場となっています。

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旧日本銀行京都支店を再生した京都文化博物館・別館。木島櫻谷展はお隣りの本館2階で12月24日まで開催中。

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1903年、木島櫻谷27歳のときの鹿図屏風。右の「初夏」では鹿たちは夏毛に短い角。左の「晩秋」では冬毛に長く伸びた角。比べてみると楽しい。

実は木島櫻谷の生家は、この館のすぐ近く。三条通りを西に5分程行った御倉町(みくらちょう)にありました。そして今回寄贈を申し出たのは同じ町内の旧家・大橋家です。当時、木島家と大橋家とは道を挟んではす向かいにあったそう。そして大橋家4代目・松次郎とは近所の古いなじみでした。木島櫻谷は、旅行の際にはスケッチを添えた絵葉書を必ず大橋氏に送っていたりもしたとか。そうした小品も含め、この程まとめて遺族から寄贈されました。

「京都は知られざる近代日本画家がたくさんいるのですが、木島櫻谷さんは最近スポットライトが当たり、情報も集まり出しています。京都は結構お家にお持ちの方が多いので、こうやって展覧会があるとそれを機会に『私の家にもあるよ』とご連絡をくださいますね」(同館学芸員 植田彩芳子さん) 

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小品中心に並ぶ展示は、大作中心の泉屋博古館とはまた違う発見があって面白い。

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木島櫻谷が大橋松次郎に宛てて送った旅先からの絵葉書。

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館を出て、近所の定食屋で秋の味覚、牡蠣ご飯とだし巻きのランチをいただく。

櫻谷文庫(旧木島櫻谷家住宅)

最後に向かったのは北区の衣笠。こちらにある櫻谷文庫がこの度の展覧会に合わせて特別公開中(金土日祝のみ)。実はこの場所は木島櫻谷の邸宅跡です。
櫻谷は1912年に衣笠の土地を買って、翌年、三条室町から移り住みます。作品と併せて、櫻谷が暮らし、制作した場所を見られる楽しみがあります。

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木島櫻谷の邸宅跡「櫻谷文庫」。竹でできた門扉が印象的。

玄関をくぐると櫻谷の住居であった日本家屋の一軒家がまずあり、さらに隣接して主に応接室として使われていた洋館があります。
建設当初、2000坪の敷地があるお屋敷だったそうです。当時の活躍ぶりが伺えます。

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日本家屋のすぐ横に洋館が併設されている。 

櫻谷は62歳のとき、家族や門弟とまつたけ狩りに楽しく出かけた帰り、電車事故にあい急逝します。その後数年は、夫人が暮らしていましたが、その後、高齢で子どもたちの家に移ったため、以後60 年近く無人の館に。この家にあった作品は、見つかることもなく長いあいだ眠っていました。

今は木島櫻谷のひ孫にあたる門田さんご夫婦がこの家を管理しています。門田さん、そして泉屋博古館の実方さんによる再調査により、さまざまな作品や資料が見つかり、それがきっかけで木島櫻谷の展覧会が行われるなど、再びスポットライトがあたるようになったというわけです。

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現在「櫻谷文庫」を管理しているのは木島櫻谷のひ孫にあたる門田 理(おさむ)さんと奥様。

このとき見つかったもののひとつに、木島櫻谷が生前、孫娘のためにこしらえた、白むくに金泥銀泥で絵を描いた着物がありました。櫻谷自身が見ることはかないませんでしたがお孫さんはその後、実際に結婚式でお召しになったそうです。そのお孫さんが門田さんのお母さんにあたるのですが、着物のことは聞いていなかったそうです。その着物が、最近、ほこりまみれのたんすの中から発見されました。折しも、門田さんの娘さんがお嫁に行く直前のタイミングだったため、なんと木島櫻谷のひ孫の子、つまり玄孫(やしゃご)が再び花嫁衣装としたとのことです。

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木島櫻谷による白無垢に金泥銀泥で絵が描かれた着物。櫻谷文庫で見られる。

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洋館の2階の窓。向こうに衣笠山。その手前は、櫻谷が生きていた頃は一面竹林だった。

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現在、櫻谷文庫の隣りには洛星高校のテニスコートが。木島櫻谷邸の敷地の一部だが、高校に土地を貸している。昔はこの場所は、大きな池だった。

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カーブのかかった洋館の階段。建物の随所から櫻谷の好みを感じ取れる。

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かつての木島櫻谷の画室だった建物。現在は絵画教室や体操教室に使われている。

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画室前の唐楓。当記事の6点目図版に登場する木島櫻谷の絵「角とぐ鹿」画中の木はこちらを写生したもの。

さらに、住居の離れになっている、かつて木島櫻谷がアトリエとして使っていた平屋も見学させてもらいました。内部は64畳分もある大画室。南面は一面窓になっています。
「昔は、この画室の前には大きな池がありました。5〜6月になると新緑の緑色が池に反射して部屋に緑色の光としてさすんです。また周囲は広葉樹なので秋になると、やはり池に反射して赤い色がさし込んできていました。池はなくなりましたが、今も秋になると室内に紅葉の赤い色が入ってきてきれいですよ」

まさにこれから葉の色が美しくなる時期。木島櫻谷の日本画の世界を存分に体験し、最後に櫻谷文庫の近所にある等持院で(木島櫻谷の菩提寺でお墓もこちらにあります)、お抹茶をいただきながら紅葉した庭を眺める。そんな旅はいかがですか? 

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「等持院」は木島櫻谷の菩提寺。夢窓疎石が手掛けたお庭が美しい。

インフォメーション

◎京都市左京区の泉屋博古館では「生誕140年記念特別展 木島櫻谷 ―近代動物画の冒険」が開催中です。12月3日(日)まで。
会場 泉屋博古館
住所 京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで) 休館 月曜日
アクセス 京都市バス5,93,203,204系統 「東天王町」下車、東へ200m
※ 11月22日(水)から3期展示がはじまります。

【巡回予定】
生誕140年記念特別展「木島櫻谷」
Part I 近代動物画の冒険 2018年2月24日(土)~4月8日(日)
Part II 木島櫻谷の「四季連作屏風」+近代花鳥図屏風尽し 2018年4月14日(土)~5月6日(日) 

会場 泉屋博古館分館 東京六本木一丁目
住所 東京都港区六本木1丁目5番地1号
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで) 休館 月曜
アクセス 東京メトロ 南北線 六本木一丁目駅下車 徒歩5分/日比谷線 神谷町駅下車 徒歩10分/銀座線 溜池山王駅下車 徒歩10分

◎京都市中京区の京都文化博物館で 「木島櫻谷の世界」展が開催中です。12月24日(日)まで。
会場 京都文化博物館 2階総合展示室
住所 京都市中京区三条高倉
開館時間 午前10時~午後7時30分(入室は午後7時まで) 休館 月曜(祝日の場合は開館。翌日休館)
アクセス 地下鉄「烏丸御池駅」下車、5番出口から三条通りを東へ徒歩3分
※12月11日(月)に展示替があります。

◎京都市北区の「櫻谷文庫(木島櫻谷旧宅)」秋の公開予定です。12月3日(日)までの金土日祝日に公開。
場所 公益財団法人 櫻谷文庫
住所 京都市北区等持院東町 56
公開日 2017年11 月 17日(金)~19 日(日)、11 月 23 日(木・祝)~26 日(日)、12月1日(金)〜3日(日)
公開時間 午前10 時~午後4 時
アクセス 市バス「北野白梅町」バス停もしくは京福電気鉄道「北野白梅町」駅より徒歩6分。

◎等持院
住所 京都府京都市北区等持院北町63
参拝時間 午前9時~午後4時半(4時受付終了)
アクセス 京都市営バス10,26系統「等持院南町」下車、徒歩約8分/京都市営バス12,15,50,51,55,59系統,JRバス「立命館大学前」下車、徒歩約10分
京福電鉄北野線「等持院駅」下車、徒歩約10分
※「櫻谷文庫」から徒歩10分です。書院に座してお庭を眺めながらお抹茶をいただくことが可能です。(午前9時〜午後4時)

詳しくは各施設のホームページ等でご確認ください。