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地震 避難 教訓 想定

“縮流” 気づいてからでは逃げ切れない津波

1日に100万人近い人が鉄道を利用するJR大阪駅の周辺。梅田と呼ばれる地域だ。通勤・通学や買い物に来た人、海外からの旅行客など、大勢の人が行き交う。

しかし、南海トラフ巨大地震が起きると、この梅田にも津波が押し寄せる可能性があることをどれだけの人が知っているだろうか。

人口と建物が密集する大都市を津波が襲うと、特有のリスクがあることも見えてきている。

「縮流(しゅくりゅう)」だ。

(大阪放送局 記者 藤島新也/プロジェクトセンター ディレクター 三木健太郎)

2023年3月NHKスペシャルで紹介した内容です

目次

    梅田にも津波が来る

    大阪・梅田のJR大阪駅前に押し寄せる津波。

    津波は車を簡単に押し流し、地下にも流れ込む。

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    ドラマ「南海トラフ巨大地震」の1シーンだ。

    このシーンを作るもとになっているのは、大阪府が2013年に公表した津波の浸水想定。

    大阪湾に注ぎ込む河川に設置され津波を防ぐ役割を果たす「大型の水門」が閉鎖できなくなるなど、最悪のケースでは、梅田周辺でも最大2メートルの浸水被害が出るとしている。

    津波が梅田に到達するのは地震発生から2時間半後(大阪市沿岸は1時間50分後に到達)。

    南海トラフ巨大地震では、梅田を津波が襲うおそれがあるのだ。

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    大都市の津波 「縮流」で威力増大

    大都市・大阪の街を津波が襲うと、何が起きるのか。

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    都市ならではのリスクを指摘するのが、中央大学教授の有川太郎さんだ。

    津波のメカニズムに詳しく、国内外の津波被災地でも調査を重ねている。


    まず、有川さんが危険だと指摘するのが大都市で津波の威力が増大してしまう現象。

    「縮流(しゅくりゅう)」と呼ばれている。

    建物が密集する地域に津波が流れ込むと、狭い路地で津波の高さと勢いが増すという。

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    今回、実験で確かめた。


    実験① 幅2メートル

    津波を再現できる幅2メートルの大型水槽の中に私(藤島記者)が立ち、高さ30センチ(膝くらいの高さ)の津波を発生させる。

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    最初の津波の勢いでズルっと後方に押されたが、その後はなんとか転倒せずに堪えることができた。


    実験② 幅1メートル

    次に、水槽の幅を半分の1メートルに変更。同じように30センチの津波を発生させる。

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    すると、今度はあっという間に流されてしまった。

    息を止める暇もなく、水が見えたと思った次の瞬間には流され、倒れていた。

    …少し水を飲んだ。

    実際の津波ならば、泥や細かいガラスなどを含んでいる。

    それを考えると、無事では済まないだろう。

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    映像を確認すると、幅が狭くなった部分で水が急上昇し、胸の高さまで上がっている。

    速度も秒速3メートルから、立っているのが困難な秒速5メートル以上になっていた。

    もし巻き込まれてしまえば、助からない。

    中央大学・有川太郎 教授
    「大都市は強固な建物が数多くあり、道幅が狭くなるところも多いので、縮流があちこちで発生するのではないかと思います。津波の速度が増して、遠くにあるなと思っていると、次の瞬間には一気に目の前に迫ってくる。『津波を見てから逃げよう』と思っているのは極めて危険で、逃げ切れません」

    思わぬ方向からも津波が

    有川さんがもう1つ指摘するのは「思わぬ方向から襲ってくる」危険性だ。

    建物の高さも考慮したシミュレーションで津波が押し寄せる様子を検証すると、ひとたび陸地に上がった津波は、建物の間を縫うようにして四方八方に広がりながら進んでいく。

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    これも、人工的に津波を発生させる装置を使って検証した。

    建物に見立てた模型を並べて街を再現。発生させた津波がどのように進むのかを確かめる。

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    すると、画面左側から陸地に入り込んだ津波は、建物にぶつかって方向を変えたり、速度を変えたりして進み、画面下側からも回り込んで侵入していることがわかる。

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    地上の目線で見ると、前から迫る津波に気を取られていると、先に、左から来た津波に巻き込まれてしまう危険性が見えてきた。

    中央大学・有川太郎 教授
    「都市は道が四方八方に広がっていて、あらゆるところから津波が来る可能性があります。基本的に人は津波の反対側に逃げたいと考えますが、後ろから津波が来ていたり、挟まれたりしてしまう状況も起こり得るということをしっかり理解しておく必要があります」

    津波が来ると思って備えを

    狭い路地で高さと勢いを増し、どこから襲われるかわからない都市の津波。

    命を守るためには、どうすれば良いのか。

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    中央大学・有川太郎 教授
    「大事なことは、津波が来る前に逃げることです。都市では海や川は見えず、方向すらわからないこともあって『津波は来ないのではないか』という思う人も出てくると思います。ただ、津波を目にして気づいた時にはもう遅いんです。大きな揺れを感じた時には、浸水域の外や高い場所にまずは逃げること。いかに早く避難行動に移せるかが重要です」


    大阪・浪速区には、ある石碑が残されている。

    江戸時代末期(1854年)に南海トラフで起きた巨大地震による津波で犠牲になった人を慰霊する石碑だ。この時は道頓堀まで津波は遡上したとされる。

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    石碑には、後世への戒めとして、次のような言葉が刻まれている。

    地震が発生したら津波が起きることを心得よ

    梅田への津波襲来は「あくまで想定」「可能性は低い」と思っている人もいるかもしれない。

    でも、津波に気づいてからでは逃げ切れない。

    都市特有のリスクを知り、大きな地震が起きた時には、津波が来ると思って、すぐに避難すること。

    改めて胸に刻んで欲しいと思った。


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