避難所に泊まってみたら、わかったこと
薄暗い体育館。時折聞こえるのは、発電機のブーンという駆動音。隣にいる人のことも気になる。それに肌寒い。うう、眠れない。災害担当の私(藤島)は、水道も電気も災害で使えなくなったという想定で、実際の避難所に宿泊するという珍しい防災訓練に参加していました。
2022年10月に放送されたニュースの内容です
それは、夕方から始まった
午後5時。
日中の開催が多い防災訓練としては珍しい時間に、大阪・大東市の防災訓練は始まりました。
この日参加したのは市の自主防災組織(全51組織)の代表者など市民約80人。災害で水も電気も使えなくなったという想定のもと、実際に避難所に一泊するという変わった訓練です。
なぜ、大東市はこのような訓練を行ったのか。
災害が起きると、避難所でもライフラインが使えなくなることはよくあります。
2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震では、電気や水が使えない避難所がありました。
避難所となる体育館は夜になると真っ暗。
ランタンの明かりだけでしのぐケースもありました。
そこで、実際にライフラインが使えない状態での避難を体験することで、必要な備えを点検しようと考えたのです。
私も参加させてもらいました。
まずは市の「備え」について学びます。
最初のテーマは「簡易トイレ」。
東日本大震災の時にはトイレが使えず、衣装ケースに交代で用を足したという話もありました。
⇒「トイレに行きたいけど…衣装ケースしかなかった」はこちら
災害時の備えというと備蓄の食品や水に関心が集まりますが、トイレも欠かせません。
市では排泄物の入った袋を1回ごとに自動で密閉する新たなトイレを来年度から導入する予定で、そのトイレが紹介されました。
設置方法も学びました。
写真の右が女性用、左が男性用です。テントの中に簡易トイレを設置し、間を体育館にある卓球台で仕切っています。入り口を斜めに向けることで、扉を開けても直接中が見えない工夫もされていました。女性も安心して使えそうです。
ガスボンベで動く
次に紹介されたのは停電時に使う「発電機」です。
なんとこの発電機、カセットコンロなどで使う家庭用のガスボンベが2本あれば発電できます。
私も災害現場で発電機を何度も目にしましたが、灯油かガソリンなど燃料を入れるタイプが多かったので、こんな簡単に発電できることに驚きました。これなら、仮に燃料が届かない場合でも、地域でガスボンベを持ち寄れば発電できます。
行政がどんな備えをしているか知っておくことで、地域で何を備えれば良いのか、考えることにもつながると感じました。
「飽きる」のも発見
午後6時。夕食の時間です。
この訓練は水が出ない想定なので、長期保存用の水(500ml)が1本ずつ配られ、調理の水は給水車が運んできたものを使います。
調理といってもメニューは備蓄のアルファ化米。沸かしたお湯を注いで柔らかくしたら完成です。大東市の場合には、五目ごはん、ピラフ、わかめごはんとバリエーションがありました。
「思ったより味は良い。ぜいたくは言えないけど、毎回これを食べるのは辛い」
私も頂きました。
ふっくらしていて、おいしい。味もしっかりしています。一袋でお腹も十分に満たされました。ただ、確かに、毎日毎食これが続くと、飽きてきて大変かもしれません。
そう思って市の担当者に聞いてみると、「それこそ今回の訓練の狙いなんです」と回答が返ってきました。実は、実際に備蓄の食品を食べてみて味を確かめ、さらに、毎回食べることを想像してもらうことも狙いのひとつとのこと。
「きょうの食事の経験で『飽きるな』と思った場合は、地域ごとに食材を持ち寄って『味噌汁を作ろう』とか『おかずを1品足そう』などと事前に話し合っておいて欲しい。そんなきっかけになればと思います」
停電した体育館でできるかな?
食事も終わり、午後8時半。
「では、電気を消します!」
体育館の電気が消され、投光器の灯りだけに。
電気を使えない状態を想定し、暗がりの中で懐中電灯の灯りを頼りにパーティションと簡易ベッドで今夜の寝床を作ります。
パーティションは袋から出して広げるだけですが、入口の作り方には少し手間取りました。
次に横になる簡易ベッド。
これは新品だったこともあり、骨組みに布をはめ込むのに一苦労。
職員やほかの参加者の方に手伝ってもらってようやく作り上げました。
結構、力が必要なので1人で作るのは難しいかもしれないと思いました。
こちら完成した私の寝床。
区切られているので着替えもできますし、床ではなくベッドに横になれるのは安心感がありました。下にホコリがあっても気になりません。
「避難所は雑魚寝」というところもまだまだ多いですが、大東市はすべての避難所でパーティションと簡易ベッドが用意されていて「雑魚寝は想定していない」ということでした。
ここでカメラマンは取材終了。ここからは私がひとりで体験します。
消灯したけど
午後10時。いよいよ就寝の時間です。
なかなか眠れません。
体育館という慣れない環境。
周囲の物音も気になります。
この日の日中は30度近くまで気温が上がったため、私は半袖のポロシャツで訓練に参加していましたが、夜遅くになると気温が下がり肌寒くなりました。
たまたまカバンに入れていた薄いウインドブレーカーと配布された毛布をかけて寝ました。
朝を迎えて
翌朝6時。
周囲が明るくなってきて参加者も起き始めると、朝食を配布するとアナウンスが。
朝食は長期保存用のパンとラスク、水でした。
それぞれのパーティションで食べて、訓練は終了しました。
参加者に話を聞いてみると、実際に体験することの大切さを感じてるようでした。
「紙の上の訓練ではなかなかできないのでこういう訓練は非常に良いことだと思う。きのうは寒いくらいだったけど夏場はクーラーもないし考えておかないとあかんなと」
担当者は、今回の訓練で感じたことを地域に持ち帰り、備えについて議論を深めて欲しいと考えていました。
「こうした訓練で皆さんの防災意識も高まると思うし、参加した方が経験を地域に持ち帰って、地域ではどう備えるのかを考えることにつながればと思う」
経験したから、わかる
参加者も話していたように「経験することの大切さ」を感じた1日でした。
東日本大震災や熊本地震のように、実際の災害での避難生活では今回のような設備もなく、より過酷な状況であったことは私も取材の経験でわかっています。
それでも夜には寒さから上着や毛布が必要なことを身をもって体感しました。これは実際に経験したからこそわかったことです。これまでの災害に比べて快適であるはずの簡易ベッドですら、これが数日続いたら体力的に大変だ、とよりリアルに考えられるようになりました。
一度やってみる、備えている道具を使ってみるということが大事だと思います。
また、市の担当者が地域で助け合う「共助」が大事だと繰り返していたことも印象的でした。大東市は、これまで私が取材してきた中でも備えが充実している自治体でしたが、それでも「市の備えには限界があり全部をカバーできない」と話していました。
だからこそ、実際に災害を想定してやってみたことで、ここまでは自治体・行政がカバーする、ここから先は地域でカバーする、という共通理解ができたことは大きな成果だと思います。
地域にとっても、これから何に備えるべきかを具体的に考えるきっかけになったと感じました。
大阪放送局 災害担当記者 藤島新也
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