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地震 想定

千島海溝・日本海溝巨大地震 被害想定 死者約19万9000人

北海道から岩手県にかけての沖合にある「千島海溝」と「日本海溝」で巨大地震と津波が発生した場合の国の想定では、最悪の場合、死者は10万人から19万9000人に達し、影響は全国に波及するとしています。その一方で、対策を進めれば被害は大幅に減らせるとしています。

(道県ごとの詳しい数字は、記事の後半にまとめて掲載しています)

2022年12月に放送されたニュースの内容です

目次

    千島海溝・日本海溝の巨大地震とは

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    「千島海溝」の巨大地震は、北海道の択捉島沖から十勝地方の沖合にかけての領域で起きる地震を指します。一方、「日本海溝」は「千島海溝」の南、青森県の東方沖から千葉県の房総沖にかけての一帯です。

    いずれも海側の太平洋プレートが陸側に沈み込んでいて、そのプレートの境目では地震が起きてきました。

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    特に千島海溝では、▽1952年(昭和27年)の十勝沖地震(マグニチュード8.2)や▽1973年(昭和48年)の根室半島沖地震(マグニチュード7.4)など、マグニチュード7クラス~マグニチュード8前半の津波を伴う巨大地震が相次いで発生しました。

    一方で、津波によって運ばれた土砂など、「津波堆積物」の調査では、17世紀にはこれらの領域が一度にずれ動くような、いわば“超巨大地震”が起き、東日本大震災のように、内陸まで押し寄せる大津波が襲来したと考えられています。

    過去およそ6500年分の調査の結果、この“超巨大地震”ともいえる地震が300年から400年の間隔で発生したと考えられています。

    前回からすでに400年程度が経過していることから、政府の地震調査委員会はすでに「大津波をもたらす巨大地震の発生が切迫している可能性が高い」と警鐘を鳴らしています。

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    日本海溝沿いでは、東日本大震災をもたらした巨大地震で東北や茨城県にかけての領域が一気にずれ動きました。 今回想定の対象となったのは、北側にあたる北海道の南の日高沖から岩手県の三陸沖にかけての領域です。

    “最大クラスの津波の発生切迫している”

    この日本海溝の北側でも、国は大津波が切迫しているとしています。 津波堆積物の調査から、17世紀や12~13世紀など、300年から400年に一度、大津波が発生していたことがわかったとしています。 17世紀の地震を最後に大津波が起きていないとして、国の検討会は「最大クラスの津波の発生が切迫している」と指摘しているのです。

    死者は千島海溝で10万人・日本海溝で19万9000人

    日本海溝沿いでマグニチュード9.1の巨大地震が発生した場合、東北や北海道の各地で10メートルを超える巨大な津波が押し寄せるとされています。

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    また、千島海溝沿いでマグニチュード9.3の巨大地震が発生した場合は、北海道東部を中心に20メートルを超える津波が押し寄せると予想されています。
    最大で北海道えりも町では27.9メートル、北海道釧路市では20.7メートルの高さに達すると予想されています。

    死者の数は▽北海道で8万5000人、▽青森県で7500人、▽宮城県で4500人などと合わせて10万人に上り、8万4000棟が全壊するとしています。

    寒冷地特有の課題も

    寒さが厳しい北海道や東北特有の厳しい想定も示されました。
    「低体温症」です。

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    東北大学の研究グループの調査では、東日本大震災でも津波から逃れたあと体がぬれたままでいたり、住宅の高い階などに避難して救助を待つ間に寒さが原因で亡くなったりしたケースが報告されているということです。

    このため今回の想定では、低体温症によって死亡するリスクの高まる人を「低体温症要対処者」と位置づけ、初めて推計しました。巨大地震が冬に発生した場合、低体温症になる危険性のある人は▽日本海溝で4万2000人、▽千島海溝で2万2000人に達するとしています。

    経済影響も広域に 31兆円想定

    また、巨大地震や津波などによる経済的な被害も示されました。

    津波などで被害を受けた建物やライフラインなどの復旧にかかる金額は、
    ▽「日本海溝」で25兆3000億円
    ▽「千島海溝」で12兆7000億円


    さらに自動車部品や製鉄、製薬などの生産拠点が被災し、サプライチェーンが寸断されることになどよる間接的な被害は、
    ▽「日本海溝」で6兆円
    ▽「千島海溝」で4兆円
    とされ
    これらを合わせた被害総額は、
    ▽「日本海溝」で31兆3000億円
    ▽「千島海溝」で16兆7000億円
    におよぶと推計されました。

    小麦やじゃがいも、牛乳など多くの農産物の生産量が全国最多の北海道では、農産物の9割近くを船で全国各地へ運んでいますが、各地の港湾施設が使えない状態が続くとこれらの供給が止まるおそれもあるということです。

    つまり、被災地以外でも品物の不足や価格の高騰が続く可能性があるというのです。

    “対策で被害軽減可能”

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    一方、防災対策を進めた場合の効果も公表されました。
    ▽津波避難施設の整備など避難先の確保を進めるとともに▽浸水域にいるすべての人が地震から10分ほどで避難を始めれば、犠牲者の数をおよそ80%減らすことができると推計しています。

    巨大想定どう受け止める?対策は?

    今回、大きな被害が想定された範囲には東日本大震災で甚大な被害を受けた地域も含まれています。専門家は、“絶望”や避難への“諦め”が広がらないよう地域ができる対策を1つ1つ積み重ねていくことが重要だと指摘しています。

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    南海トラフの巨大地震で大津波が想定されている高知県などで取り組みを続けている京都大学防災研究所の矢守克也教授は「被害想定があまりにも大きいと住民の間に諦めの気持ちや絶望感が広まってしまい、適切な対策が引き出されない場合もある。いわば、『被害想定自身にリスクがある』ことがポイントだ」と指摘しています。

    このため矢守教授はまず、住民ひとりひとりや地域が避難の問題と向き合うことが必要だとしています。

    具体的には▽個人や家族単位で避難場所までの時間や避難の課題などを分析する「個別避難訓練」のほか、▽行政が決めた避難場所にこだわらず、ひとりひとりに最適な避難方法を考える「オーダーメイド避難」といったやり方です。

    また、自治体の側もただ避難訓練を繰り返すだけではなく、▽高齢者の体力作りと訓練とを組み合わせたり、▽ユニークな避難訓練などを「防災ツーリズム」として観光資源に盛り込んだりすることも考えて欲しいと話しています。

    矢守克也教授
    「災いのことなのでうつむきがちになるが、街づくりや人づくりと結びつけ、前向きに捉えることで、被害想定を“うそ”に塗り替えていくことができる。できる対策を小さなことから積み重ねていってほしい」

    記者の視点「悲観の材料としないために」

    国は避難意識の改善や津波避難施設の確保などの対策をとれば、犠牲者の数を8割減らすことができると推計し、さらなる対策を自治体や住民、企業などに求めました。

    一方、北海道や青森県では東日本大震災を受けて巨大地震や津波による被害想定が公表されていて、住民からは避難のためのビルやタワーの建設が求められています。

    しかし自治体も財政的な事情から思うように避難施設を確保できず、南海トラフの巨大地震の被害が想定される自治体と比べると、避難施設の整備が必ずしも進んでいないのが実情です。

    想定を悲観の材料にすることなく、災害から命を守る手引きとするためにも、国にはハードの整備や避難行動につなげるための具体的な解決策を、自治体や住民とともに考えていく姿勢が求められます。

    道県ごとの被害想定詳細

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    千島海溝の巨大地震 主な被害想定(※「ー」はわずか・計算対象外)
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    日本海溝の巨大地震 主な被害想定(※「ー」はわずか・計算対象外)

    ※「避難者」は1日後、「断水人口」「停電」は地震直後の想定


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