2023年5月3日
チャールズ国王 イギリス

イギリス王室カメラマンが見た“素顔”のチャールズ国王とは?

5月6日に戴冠式を迎えるイギリスのチャールズ国王。

去年9月に死去したエリザベス女王の長男として、70年間にわたって皇太子を務めてきたチャールズ国王とは、どのような人物なのか。

100か国以上に同行し、その姿を追ってきた王室カメラマンが、ファインダー越しに見た国王の“素顔”について語りました。

(ロンドン支局長 大庭雄樹)

いつも「スイッチオン」

「王室メンバーの中には、朝まずコーヒーを飲んだり、気分が100パーセント乗らなかったりする人もいます。でもチャールズ国王はいつもスイッチが『オン』。多くの人に会うため、ときには昼食も抜いて公式行事に全力で臨むから、カメラマンとしてついていくのは本当に大変です」

こう話すのは、イギリス王室を約20年間にわたって撮影しているクリス・ジャクソンさん(43)です。
写真好きが高じて、写真代理店に入社。最初は報道カメラマンとしてアフリカの干ばつ被害などを撮影しましたが、王室行事の撮影を何度か担当し、その魅力にとりつかれたと言います。

王室カメラマン クリス・ジャクソンさん

ジャクソンさん
「各地を旅して、創造力やコミュニケーション能力を駆使しながら、後世に残るような写真を撮るのは、自分にぴったりでした。大事なのは写真を撮ることだけでなく、写真を撮らないタイミングも理解することです。場の空気を読み、ときには服装も含めて配慮する必要があります」

気難しい国王?

チャールズ新国王はどんな君主になるのか。
世界が注目する中、話題となったのが、去年9月に行われた「王位継承評議会」。亡き母・エリザベス女王を手本に、国に尽くすことを誓ったあと、宣誓書に署名するときのことでした。

王位継承評議会(2022年9月10日)

目の前のペン置きが邪魔だと感じたのか、いらだった様子でかたわらの侍従にペン置きをどけるよう求めたのです。
このときの映像を見た人などは「チャールズ国王は気難しい」というイメージを抱いたようですが、ジャクソンさんの印象は異なります。

ジャクソンさん
「私がチャールズ国王から感じるのは、エネルギーと献身、そしてユーモアのセンスです。長年、近くで見続けてきた者として、(「気難しい」という)その表現はあたらないと思います。」

「ダンシング・キング」

そう言って、これまで撮影した写真を見せてくれました。

泥のついた靴を片方脱ぎ、はにかむチャールズ国王。国王が愛する、スコットランドの別宅で撮られた1枚です。

次に見せてくれたのは、2017年にシンガポールで、電機メーカーの工場を訪れた際のチャールズ国王。手に持った掃除機をこちらに向け、いたずらっぽい顔を見せています。

シンガポール訪問(2017年)

ジャクソンさん
「掃除機の性能を試したくてしょうがなかったのでしょう。『あなたのズボンに何か付いているみたいだよ』と言いながら、掃除機を私の方に向かって突然差し出してきたのです」

また、世界各国を回る中でときおり見られるのが、踊るチャールズ国王の姿です。
これは2009年、ブラジル・アマゾンの熱帯雨林の村を訪れたときの写真です。

ブラジル訪問(2009年)

ジャクソンさん
「何にでも積極的に参加し、関わろうという国王の姿勢はその場にいる全員を笑顔にし、壁を取り除いてくれます。人々をリラックスさせる、驚くべき能力の持ち主だからこそ、すばらしい被写体になるのです」

世界的ポップグループABBAのヒット曲『ダンシング・クイーン』ならぬ、「ダンシング・キング」の姿がこれからは見られるかもしれません。

日本には5回

チャールズ国王は皇太子時代、日本を5回訪れています。

来日時 ダイアナ元皇太子妃とともにパレード(1986年5月)

1986年には、ダイアナ元皇太子妃とともに東京の青山から迎賓館までパレード。夫妻をひと目見ようと、10万人近くが沿道に詰めかけたとされています。

日本とイギリスが外交関係を結んでから150周年を迎えた2008年には、カミラ王妃とともに来日。そのとき同行したジャクソンさんは、異なる文化に触れて理解しようという姿が印象的だったと言います。

ジャクソンさん
「これは慶応大学で剣道を見学したときの写真です。チャールズ国王は視察に訪れると、ものを実際に手に取って、その重さや手触りなどを感じたがるんです」

慶応大学で剣道を見学(2008年10月)

ジャクソンさん
「ただ遠くから眺めるのではなく、まるごと抱きしめようとします。地元の文化を正しく理解しようとしているのだと思います」
「これまでに訪れた多くの国々の中でも、チャールズ国王は日本での滞在をとても楽しんでいました」

増上寺を訪問(2008年10月)

母・エリザベス女王の「教え」

君主となったチャールズ国王が手本としているのは、長年、国民に愛された母・エリザベス女王です。

ジャクソンさんは、2人の「心の距離」の近さがかいま見える瞬間を2010年、北部スコットランドで開かれたスポーツ大会でとらえています。

女王とチャールズ(2010年9月)

ジャクソンさん
「王室の公務では儀礼や形式が重視されますが、『ロイヤル・ファミリー』という名前の通り、家族でもあります。チャールズ国王にとって、家族の存在はとても大切なものです」
「母親のエリザベス女王との関係は、すばらしく、暖かいものでした。2人は強い絆で結ばれていました」

生前の女王を、いちばん近くで見てきたチャールズ国王。
その姿から多くのことを学んだのではないかと、ジャクソンさんは感じています。

「レッドボックス」とエリザベス女王(1991年)

ジャクソンさん
「エリザベス女王のもとには、政府関連の書類が入った箱『レッド・ボックス』がクリスマスとイースターを除いて毎日届けられていました。公式行事についても『私は人々に信じてもらうために、自分の姿を見てもらわなければならないのです』と重視していました」
「チャールズ国王も、ものすごく一生懸命働いています。女王から『レッド・ボックス』だけでなく、公務への強い責任感も確かに受け継いだのだと思います」

「とっておきの1枚」は

これまでチャールズ国王の写真を数え切れないほど撮ったジャクソンさん。その中で、「とっておきの1枚」を教えてもらいました。

それは、チャールズ国王の住まいがあるウィンザー城の近くで撮られた写真。樹齢約600年のオークの木にもたれかかる姿でした。

ジャクソンさん
「チャールズ国王は、自然豊かな環境でとても安らぎを感じる人です。長年、環境保全活動に取り組んでいますが、屋外で飾らない服を着ると、落ち着いて、『スイッチを切る』ことができます」
「この写真には自然、歴史、そしてみずからが身を任せる大木への愛情が写っています。その姿は小さいものの、この一瞬の中で確かな存在感を放ち、国王の人間性がにじみ出ていると思います」

ジャクソンさん
「チャールズ国王は今後、王室の不動産を整理したり、国民がよりアクセスしやすくしたりと、さまざまな変化をもたらすでしょう。その一方で王室がこれまで大事にしてきた伝統や価値観といったものは残ると思います。私の写真を通じて、その素顔を知ってもらえればとてもうれしいです」

国際ニュース

国際ニュースランキング

    特集一覧へ戻る
    トップページへ戻る