2023年6月7日
サウジアラビア ロシア 中東

【コラム】産油国の“同床異夢” 政治家のことばを裏読みすると

日本を含む世界の物価を大きく左右する原油価格。その価格に決定的な影響を及ぼすのがOPECプラスです。6月4日に開かれた会議では連携していくことで合意したと発表がありました。
「原油の生産で儲けたい!」という思いは産油国共通ですが、裏側はそれぞれ思惑が異なる“同床異夢”だったようです。
国際部デスクによる「グローバル経済コラム」です。

(国際部デスク 豊永博隆)

わかりにくい政治家の言葉

洋の東西を問わず、政治家の言葉は時にわかりにくく、表面的なことがあります。2023年6月4日、オーストリア・ウィーンでのOPECプラスの会合が終わったあとの2人の政治家の発言はこのケースの典型例だったのではないでしょうか。

サウジアラビア アブドルアジズ エネルギー相
「前例のない合意に至り、素晴らしい日になった」

ロシアでエネルギー政策を担当するノバク副首相
「ロシアは今後も合意事項を順守していく。(サウジアラビアとは)何の不一致もなかった」

この発言を意地悪にひっくり返して勝手に翻訳するとこうなります。

「前例のないほど対立して合意にはいたらず、不快な日になった」

「今後も合意事項は順守しない。(サウジアラビアとは)不一致がたくさんあった」

“近年もっとも対立”

サウジアラビアが主導するOPEC=石油輸出国機構と、ロシアなどの非加盟の産油国でつくる、「OPECプラス」は産油国の閣僚たちが集まり、今後の原油の生産量を決める会合を定期的に開いています。

会場のOPEC本部に入る産油国の閣僚(ウィーン・2023年6月)

今回は2022年12月の会合以来、半年ぶりの会合でしたが、もつれにもつれました。閣僚による会合が予定より5時間も遅れたことは、結束と根回しが重視される産油国の集まりでは異例のことです。

アメリカの有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「原油の生産計画は通常、事前に合意していて、公式の会合ではゴム印を押すようにすばやく承認されるものだ」として「今回は最近ではもっとも激しく対立した会合だった」と伝えました。何を激しく主張し合ったのか。

発表された合意事項

先に合意した内容を見てみます。

OPECプラスとしては今の協調減産の枠組みを来年・2024年末まで延長することで合意したと発表しました。もう少しだけ詳しく言うと2024年1月から12月までの各国の生産量を示しました。この数字を2022年10月に発表した各国の生産量と比較すると1日あたりおよそ140万バレルの減産となります。
こうした内容が「2024年末まで協調減産の枠組みを延長することで合意」というニュースの見出し・ヘッドラインの意味です。

しかし、「みんなで減産しようぜ!」と決まったのは2024年の話です。産油国が気にしているのは今、あしもとの原油価格のはず。そこについてはOPECプラスとしての追加の行動は示すことができませんでした。冒頭紹介したサウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相の「前例のない合意に至った」という言葉とは異なり、肝心の点で合意には至らなかったのです。

ただ、何もしないと市場からは狙い撃ちされ、原油価格が値下がりするリスクがあります。そこで産油国のリーダーであるサウジアラビアは7月の1か月間、1日あたり100万バレルの自主的な減産を表明したのです。

「みんなですぐ減産」ができなかった?

おそらくサウジアラビアはみんなで1日あたり100万バレルの減産で合意したかったのではないかと推察されます。会合の直前にロイター通信などが関係筋の話として「100万バレルの追加減産についても議論されている」と伝えていました。

反対したのはどの国だったのか。アフリカの産油国が反発していたことが伝えられています。アフリカは少々事情が複雑ですが、設備投資が遅れていたためにこれまでOPECプラスで割り当てられた生産量にさえ届くことが難しい状況でした。ようやく投資が追いつき、増産できるぞと思ったら今度は減産に協力しろと言われたことに反発したのではないかとある専門家は分析していました。

アフリカの産油国からすると、経済発展のために原油生産でなんとか儲けたいと思っているはずです。

ロシアの面従腹背?

一方、サウジアラビアとは蜜月関係だったロシアは今回、原油生産の方針をめぐってサウジアラビアと対立していると伝えられていました。ロシアは2023年2月に自主的に1日あたり50万バレルの減産を行うと表明していましたが、欧米による原油の禁輸などの経済制裁を受けるなか、外貨収入を稼ごうとインドや中国などに原油の輸出を続けていることにサウジアラビアが「話が違うじゃないか」と反発しているというのです。

ロシアの油田設備(シベリア)

ロシアのノバク副首相の「ロシアは今後も合意事項を順守していく」との発言とは真逆のことが起きているようです。それもそのはず。ロシアとしてはウクライナ侵攻で軍事費が膨れあがっているため、数少ない外貨獲得の手段である原油輸出は生命線です。NHKでは2023年2月、原油タンカーを追跡することでロシアがあの手この手で原油を輸出している実態を明らかにしました。

※詳細は以下リンク
 ロシア 原油タンカーを追跡せよ!なぜ制裁は効かないのか?

政治力いつまでもつか?

結局、どの産油国も「原油生産で儲けたい!」という思いでは一致しているものの、その方法をめぐってはそれぞれ意見が異なり、同床異夢だったというのが今回のOPECプラスの結果が物語っていることでしょうか。

それでも会合が決裂せずに1つの方向感を示すことができたのはサウジアラビアの政治力のたまものだとも言えます。この政治力がどこまで国際的な原油価格を支配できるのか。日本を含む世界の物価の動きを左右するだけに注目ですが、今回、足並みの乱れが露見し、今後も「ゴム印を押すような」シャンシャン会合にならないとすれば、OPECプラスの存在意義は徐々に変化していくかもしれません。

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