2023年3月27日
新型コロナ 中国

路上に行き着いた人たち 中国「ゼロコロナ」政策後のリアル

新型コロナウイルスの感染拡大や、厳しい行動制限を伴う感染対策から「解放」された、中国の経済都市・上海。

街を歩くと、一見、コロナ禍前の賑わいを取り戻しているように見えます。

ただ、気になることも…。

(上海支局長 道下航)

路上生活者が増えた?

ある日、上海のショッピング街を歩いていると、たくさんの荷物を載せて自転車を押しながら歩く男性とすれ違いました。

また、別の日。公園を通りかかると、たくさんの紙袋を横に置いて、花壇に座ったまま動かない女性2人の姿が目に留まりました。

路上生活者が増えている?

連日、路上で暮らしているとみられる人たちを目にして、そんな疑問がわきました。

中国では、厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策の影響などで経済は失速。去年(2022年)の経済成長は、目標を大きく下回り、若者の雇用環境も悪化するなど、経済の停滞が続いています。

そうしたことを知っていたことから、仕事を失った人たちが、路上での生活を余儀なくされているのではないかと、気になりました。

声をかけてみても…

どういう経緯で、路上に行き着いたのか?直接話を聞いてみることにしました。

「メディアの者です。少しお話を聞かせていただけませんか?」

花壇に座る女性2人に声をかけてみますが、返事はありません。少し時間を空けて、再び声をかけてみましたが、こちらを見るわけでもなく、じっとしたまま、質問に答える気配はありませんでした。

同じ公園で、今度は、大きな荷物を手にぶら下げながらゆっくり歩く男性を見つけました。

声をかけるとこちらに視線を向けてくれましたが、話を聞かせてもらうことはできませんでした。

実態は?

当事者が難しければ、支援する人たちに聞いてみたら何かわかるのでは。食事を提供するなどして路上生活者を支援している団体に連絡を取ってみることにしました。

「路上生活者の実情を反映した統計はありません。増えているかどうかもわかりません。ただ、感染拡大や感染対策の影響で、路上に行き着いた人がいるのは確かです」

当事者に話を聞くことができないか、取材の協力をお願いしましたが、「外国メディアの取材は受けられない」とのこと。

ただ、担当者は「上海駅前の広場には、そういう人たちが集まっていますよ」と、路上生活者に関する情報を教えてくれました。

話を聞かせてくれた路上生活者

さっそく、上海駅前の広場に向かいます。

上海駅前の広場

広場に着くと、隅の方に集まっている人や、まとめた荷物を地面に置いてベンチに座る人たちの姿がありました。

声をかけてみると、数人から話を聞かせてもらうことができました。

その1人、広場の端で布団にくるまり横になっていた男性、董さん(59)。

去年(2022年)から、この広場で生活をしていると話しました。

董さんは、もともと出稼ぎ労働者で、上海に来て数十年になるといいます。結婚はしていないため、田舎にほとんど戻ることなく、上海で住み込みの職場を見つけては転々としてきたのだそうです。

ところが、去年3月、上海でも感染が拡大し、感染対策が厳しくなると、その当時していた荷下ろしの仕事がなくなってしまいました。

このため、住まいを出て行かなければならなくなり、路上に行き着いたということです。

それからの1年、食事は、支援者や大学生から提供を受けたり、董さんと同じように広場で暮らす人たちと支え合ったりしてしのいできたそうです。

近くにある派出所の警察官が食事を提供してくれたこともあるのだそうです。

上海の冬は氷点下を下回ることもあり、路上での暮らしは厳しいはずですが、取材の間、董さんは不満を口にすることなく、笑顔を見せていました。

「収入源は断たれましたし、今の生活は不便です。でも、感染対策の結果だから仕方ありません。政府には、仕事の手配を進めるなど、私たちのような人間にも関心を持ってほしいです」

「どうすることもできなかった」

一方で、路上生活者の中には、当然ですが董さんのように気丈にふるまえる人ばかりではありません。

同じ広場で暮らす30代の黄さん。

なぜ路上で暮らすようになったのか、事情は教えてもらえませんでしたが、感染が拡大し、厳しい外出制限が行われていた去年3月末から2か月あまりの時に起きたことを話してくれました。

ある日、突然、当局の担当者たちが広場にやってきて、黄さんたちが暮らしていた一角をフェンスで囲い、出入りができないようにしたのだそうです。

黄さんは、人間として扱われていないように感じ、つらい経験だった振り返っていました。

そして、あれから1年近くたった今も、路上での苦しい生活から抜け出せていないと、涙ながらに訴えました。

「誰かの食べ残しを探して暮らす毎日が続いています。そうすることしかできないんです」

中国では今、新型コロナの感染対策はほとんど撤廃されました。

以前は新型コロナの危険性を強調していた共産党指導部や政府ですが、「人々の命と健康を守り、決定的な勝利を収めた」などと誇示しています。

しかし、現実には多くの人たちが「ゼロコロナ」政策に翻弄され、取材した路上生活者のように、窮状から抜け出せない人たちが大勢います。

中国政府は、こうした「声なき声」に耳を傾けていくのか。

引き続き、中国社会のさまざまな人たちの声を取材していこうと思います。

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