新型コロナ「再感染」世界で報告相次ぐ
ワクチンは効くのか?

2020年10月12日

新型コロナウイルスに感染してやっと治ったのに、また感染した。そんな「再感染」の報告が、ことしの夏以降、世界各地から出てきています。再感染は本当に起きるのでしょうか? そして、ワクチンは効くのでしょうか?
(科学文化部 記者 三谷維摩)

「再感染」 世界初の科学的な報告は香港から

新型コロナウイルスに1回感染して回復した人が再び感染したという報告が、最初に出されたのは香港でした。3月下旬に感染し、その後回復した33歳の男性が、4か月余りたってから再び感染したことが確認されたというのです。香港大学のグループが8月に発表しました。

1回目と2回目の感染では、ウイルスの遺伝子の配列が一部で異なっており、世界で初めて科学的に裏付けられた「再感染」の報告だとしています。

「再感染」 最初の感染より症状が重い場合も

香港大学のグループの発表の後、各地の研究グループから再感染の報告が出されています。

多くのケースで再感染のときは軽い症状ですが、アメリカ・ネバダ州の25歳の男性は、最初の感染よりも症状が重くなり、肺炎で入院したと報告されています。

インドの20代の医療従事者のケースでは、再感染のときは症状は出なかったものの、検出されたウイルスの量は、1度目の感染より多かったと報告されています。

オランダの通信社は再感染の情報をまとめ、9月30日までに22件あったと紹介しています。

また、世界的な科学雑誌「ネイチャー」も再感染についての記事を掲載するなど、関心が高くなっています。

ウイルス学の専門家「再感染は“ありうる”」

北里大学 中山哲夫特任教授

新型コロナウイルスは本当に再感染するのか。ウイルス学の専門家、北里大学の中山哲夫特任教授に話を聞きました。

中山特任教授の答えは、はっきりと「ほかのいろいろなウイルス感染症と同じように、再感染はありうる」。

再感染自体は多くのウイルスで起きていて、新型コロナウイルスでも十分に考えられるということです。

再感染で軽いケース 重いケース 他のウイルスでは

再感染した場合、多くのウイルスでは、軽症か無症状で済むことが多いと言います。

たとえば、かぜのような症状を引き起こすRSウイルス。幼い子どもが感染すると肺炎になって重症化することもあります。

中山特任教授の研究グループは、RSウイルスに感染した子ども91人の抗体の量を調べました。ウイルスなどに感染すると、体の中に異物を排除する抗体が作られ、この抗体の量が十分あると感染を防げると考えられます。

研究では、1歳ごろに感染した場合、作られた抗体は少量にとどまりましたが、感染を繰り返すうちに抗体の量が増えていくことが分かりました。

抗体の量が増えるのにつれて症状は軽くなり、鼻水程度の症状でおさまるケースが多かったということです。

一方で、蚊が媒介し、高熱や激しい頭痛などを引き起こすデング熱の場合、2度目以降の感染の方が症状が重くなるケースも多く見られるということです。

北里大学 中山哲夫特任教授
「新型コロナウイルスの場合、再感染しても症状が出ず、気付いていない人が多くいる可能性もある。再感染によってどういった症状が引き起こされるかはまだ分かっていないため、慎重に見ていく必要がある」

新型コロナ 抗体が減るのが早いという報告も

頼みの抗体が減るのが早いという報告もあります。

中国の重慶医科大学などのグループは、ことし6月、新型コロナウイルスに感染して症状が出た患者37人と症状が出なかった患者37人について、抗体の量の変化を調べた研究結果を発表しました。

それによると、ウイルスの働きを抑える「中和抗体」の量は、感染からおよそ2か月の時点で、無症状の人だと81.1%、症状が出た人でも62.2%減っていたなどとしています。

抗体の減少の報告は、アメリカやブラジルなどからも出されています。

「再感染の阻止は難しい」という指摘も

北里大学 片山和彦教授

では、再感染は防げないのか?。新型コロナウイルスを使った実験も行ってきた北里大学の片山和彦教授は、感染するメカニズムから考えても、再感染を阻止するのは難しいと指摘します。

新型コロナウイルスは、鼻やのどといった上気道の粘膜から侵入します。ところが、片山教授によりますと、上気道の粘膜にでき、ウイルスが入り込む、いわば入り口で感染を防ぐ「IgA」と呼ばれる抗体は、1回感染して抗体ができたとしても、比較的短い期間で減ってしまうというのです。このため、再感染を入り口で阻止するのは難しいのではないかと言います。

片山教授は、新型コロナウイルスに感染した患者の上気道のIgA抗体がどれくらいの量作られて、どれくらいの期間、持続するのかなどを調べる研究を計画しています。

今後は、再感染がどれくらいの頻度で起きるかなどが分かるかもしれません。

ワクチンは効くのか? 接種するメリットは?

再感染について考えることが大事なのは、ワクチンに影響する可能性があるからです。

ワクチンは、活性を失わせたウイルスなどを「疑似感染」させることで、体の中に抗体を作り出し、感染を防ぐものです。1回感染すると、その抗体ができているはずなのに、それでも感染するなら、ワクチンは効かないのでは?そんな疑問が浮かびます。

これについて中山特任教授は「再感染するからワクチンにも効果がない」というような短絡的な考え方はしないよう、くぎを刺しています。

今後、ワクチンが開発されて接種しても、再感染する可能性はあるが、それでも接種するメリットはあると言います。

北里大学 中山哲夫特任教授

北里大学 中山哲夫特任教授
「ワクチンは感染を確実に防ぐことだけを目的としているわけではない。重症化を防ぐなどほかの効果も期待できる」

効果高めようと別タイプのワクチン開発も

多くのワクチンは血液中に抗体を作るものですが、別の考え方で感染を防ぐ効果を高めるワクチンの開発研究も始まっています。

片山教授は、鼻に噴霧する新しいタイプのワクチンを開発しています。鼻に噴霧して、ウイルスの入り口となる、上気道に抗体を作ることで、入り口でウイルスをブロックできると考えています。

今後数年かけて研究を進めたいとしています。

北里大学 片山和彦教授

北里大学 片山和彦教授
「鼻の粘膜でIgA抗体が作られれば、ウイルスが多く増える前に感染を止めることができるので、ウイルスが肺に到達するのも防ぐことができるのではないか」

また、長崎大学の佐々木均教授は、肺の粘膜で抗体を作らせようというワクチンの研究を進めています。ウイルスが肺の粘膜にくっつくと、肺炎につながりますが、その肺の粘膜での感染を防ごうというのです。

このワクチンは、人工的に合成した新型コロナウイルスのRNAを小さな微粒子状にしています。

口から吸い込んで、肺の粘膜に直接届くようにします。ウイルスが作用する場所に直接抗体が作られるようにして、効果が高められるのではないかと考えられています。

「何度も感染する前提で対応を考えるべき」

感染の収束の見通しが立たない中、やっかいなウイルスにどう向き合っていけばよいのか。

日本ウイルス学会の理事長で大阪大学の松浦善治教授は、かぜを引き起こす一般的なコロナウイルスと同様に、何度も感染するものだという前提で対応を考えるべきだと指摘しています。

大阪大学 松浦善治教授

大阪大学 松浦善治教授
「再感染しないウイルスのほうが珍しい。ただウイルスにとっても、宿主を殺してしまっては生き延びることができないので、感染を重ねるにつれて重い症状を引き起こさないようになってくるのが、人間とウイルスの長い歴史で多く見られたパターンだ。過剰に怖がらずに受け止めてほしい」

やはり大事なのは基本の感染対策

再感染するかもしれないし、ワクチンを接種しても感染するかもしれない。

ワクチンは近い将来に手に入るように開発や調整が進められていますが、安心しすぎず、引き続き手洗いの徹底や3密を避ける、人との距離を取るといった、基本の感染対策を徹底することが、改めて大事だと専門家は話しています。

新型コロナウイルスはまだまだ分からないことが多く、さまざまな形で取り組まれている研究の進展を注視していく必要がありますが、引き続き、私たち一人ひとりが基本的な感染対策をしっかりと徹底して行うこと、これが何より大事だということには変わりがないといえます。