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“黙食”効果・新データで実証 いま飲食店は

「なじみの店で食べたい」と思っても、外食することに慎重にならざるをえない状況が続いています。
そうしたなか、飲食店で私たちが“なるべく黙って食べる”ことで、新型コロナ感染リスクを大きく減らせることが、最新の研究データによって明らかになりました。
名古屋放送局の堀川宏太ディレクターが、飲食店店主の“いまの思い”を聞きました。

時短営業の要請に店主は?

愛知県春日井市でラーメン店を営む井口堅介さんです。
県の要請を受けて、酒類の提供を取りやめたうえで、夜の営業時間を『午後6時から午後11時まで(通常時)』から『午後6時から午後8時まで』に短縮しています。
さらに、みずからの判断で、席数も減らしました。

井口堅介さん
「ほかに何か方法ないかなと思うんですけど、その反面、人出を抑制するという面に関しては、確かにしょうがないのかな」

“黙食”しかない 店主の決断

壁に貼られた『黙食(もくしょく)』というポスター。
客に、“店で少しでも安心して食べてほしい”と、井口さんが2021年1月から取り組んでいる感染対策です。
客に黙って食べてもらうことで、“食事中の会話による飛まつ感染を防ごう”という取り組みです。
新型コロナの影響が続き、経営の危機を感じた井口さん。
テイクアウトに活路を見いだせないかなど、半年以上、試行錯誤した後に、“感染対策しながら客においしいラーメンを提供するには、店で黙って食べてもらうのが最善の方法だ”と決断しました。

井口堅介さん
「“うちの店では、できるだけ感染リスクを抑えていますよ”って、お客さんに伝えるには、僕の中では、“黙食”しかない」

全国の飲食店で広がる“黙食”

“黙食”は、2021年1月、福岡市のカレー店の経営者がSNSで発信したことがきっかけで、井口さんの店をはじめ全国各地の飲食店に広がりました。
京都市では、行政主導で飲食店や宿泊施設に“黙食”を呼びかけています。

新データで実証!“黙食”に大きな効果あり!

この“黙食”、感染対策として、どの程度の効果があるのか。
豊橋技術科学大学の飯田明由教授は、マイクロ飛まつの感染リスクと、その対策の研究を行っています。

飯田教授は、スーパーコンピューター「富岳」を使って解析を重ねた結果、飲食店での感染リスクの原因が見えてきたといいます。

飯田明由教授
「飲食店、飲酒そのものが悪者(イメージ)になっているんですけれども、いろいろ実験をしてみると、飲食をしたから飛まつが出ているわけでは、どうもない。会話から飛まつが出ていることが、確実」

さらに、データ解析からは、私たちが飲食店で“黙食”を行うと、感染対策として大きな効果があることも、わかりました。
飯田教授が国内外の新型コロナの最新の論文データをもとに、暮らしの場面ごとのマイクロ飛まつ感染リスクを比較したグラフです。
「飲食店」は、「カラオケボックス」に次いで、感染リスクが高い結果になりました。
ただ、その「飲食店」で“黙食”を行うと…。
感染リスクが、「オフィス」や「スーパーマーケット」などにいる時よりも低くなることが、明らかになったのです。

飯田明由教授
「利用するわれわれが飲食店で騒がない、静かに食事をすれば感染リスクが下がります。飲食店も頑張っていますので、利用する側も少し協力したらいいのではと思います」

あえて、“黙食”を続けていく 店主の覚悟

黙食に取り組んでいる、ラーメン店主の井口さんです。
“黙食”は「店で客に楽しんでほしい」という本来の自分の思いに反するといいます。
それでも井口さんは、黙食を続けて行く覚悟です。

井口堅介さん
「しゃべりながら食べてもらうほうが楽しいと思うので、本当に心苦しいのが本音のところですね。(黙食は)やりたくないんだけど、お願いしないと、経営として回らないっていう気持ちを少しくんでいただいて、お客さん自身も協力していただけると、店としてもありがたいし、回り回ってお客さん自身の安全も担保されると考えていただけるとありがたい」

感染症対策の専門家も“黙食”を推奨

“黙食”の意義について、感染症対策に詳しい順天堂大学大学院教授、堀賢さんは、こう述べています。

堀賢さん
「飲食店でのマイクロ飛まつ感染対策は、▽店の換気設備、▽従業員の接客、そして▽利用客の協力の3つが重要です。ただこれまで、『利用客の協力』が不十分で、対策の盲点となってきました。黙食を徹底することが、自身の身を守り、なじみの店を守ることにもつながります。ぜひ、あなたが協力を」

取材を終えて

井口さんは“黙食”を始める前は「客が離れてしまうのでは」と大きな不安を抱えたといいます。
また、「『なるべく黙って食べて』と、店からお客さんにお願いや注意することが、一般の人の想像以上に、精神的に大変なことなんです」と苦しい胸の内も語ってくれました。
県の要請に応じている井口さんの店は、協力金を受け取れることになっていますが、夜の営業時間を半分以下にするなどの影響で、予断を許さない状況です。
それでも店を開き“黙食”を続ける覚悟の裏には、「自分が提供する料理で、お客さんに喜んで欲しい」という飲食店店主としての誇りがあると感じました。

わたしにできること

放送後、井口さんのもとには、「黙食、私もやります」とか「黙食、これからも続けます」というお客さんからの反応が相次いでいるそうです。
一方、黙食に取り組んだところ、「会話できないなら…」と客が一時的に離れてしまったという別の飲食店の方にも取材で出会いました。それでも店主は「引き続き、お客さんに、黙食の協力をお願いしていく」ということです。
なじみの店を守るためにも、基本的な感染対策に加えて、“黙食”することは、いま私たちにできることの1つだと思いました。

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