WEBニュース特集

赤ちゃん遺棄事件の背景

NHK名古屋放送局が行っている子ども、子育てを応援するプロジェクト「#わたしにできること〜未来へ1歩〜」。
生後まもない赤ちゃんが遺棄されたり、虐待死する事件が相次いでいます。
国の調査では、0歳児の虐待死(遺棄を含む)の4割以上が「生後0日〜生後1か月未満」で起きていることがわかっています。
こうした事件の背景に何があるのか。愛知県で起きた「赤ちゃん遺棄事件」の当事者をNHK名古屋放送局の猪瀬美樹ディレクターが取材しました。

公園で1人で出産し、赤ちゃんを遺棄

今年6月、愛知県内の公園で、20歳の女子学生が赤ちゃんの遺体を遺棄する事件が起きました。

本人によると、女子学生は「通学中に陣痛に襲われ、公園のトイレに駆け込んだ」といいます。

この場所で1時間半陣痛に苦しんだ末、1人で赤ちゃんを出産したということです。

女子学生は、その後、死体遺棄と保護責任者遺棄致死の罪で起訴されました。

検察側は「女子学生が、出産後に必要な保護をせずに放置したために赤ちゃんは死亡した」と主張。

これに対し、弁護側は「女子学生は大量の出血で意識を失い、気づいたときには赤ちゃんは既に亡くなっていた」などとして、保護責任者遺棄致死罪にはあたらないと反論する方針です。

赤ちゃんに申し訳ない…当事者の女性の手紙

なぜ女性は1人で出産しなければならなかったのか。
取材を申し込んだところ、手紙で返事が届きました。

「赤ちゃんに対しては申し訳ない気持ちしかありません」。

事件から半年。今も罪悪感にさいなまれる日々を送っているといいます。
一方、手紙の中で女性は「何度もSOSを発していた」と打ち明けています。

“中絶には相手の男性の同意が必要“と言われ…

去年10月、生理の遅れから妊娠を疑った女性は、産婦人科を受診。
医師から「妊娠7週目」と告げられました。

中絶を希望した女性に、医師は『中絶手術の同意書』を手渡し、「手術には、パートナーの署名が必要だ」と説明したといいます。

女性は、すぐに相手の男性と連絡を取り「同意書」への署名を求めました。
しかし、中絶費を払うことをちゅうちょしていた男性とは、次第に連絡が取れなくなったといいます。

女性はその後、インターネットで産婦人科が運営する相談窓口を探しました。

ところが、女性の手紙によると「どこの病院も『双方の同意が確認出来なければ手術はできない』という返答で、実際に妊娠しているのは私なのに、どうして連絡のつかない相手のサインがいるんだろう。どこの対応も同じで私は諦めるような気持ちでした」と複数の医療機関から中絶手術を断られていたのが分かります。
女性は、どうすることもできず、1人で出産することになったといいます。

このケースでは不要だったパートナーの同意

女性が求められたという中絶手術における「パートナーの同意」。
実はこの女性のケースでは必要がないものでした。

毎年、愛知県産婦人科医会が医師を対象に行っている講習の資料です。

配偶者やパートナーと連絡が取れなくなった場合、「本人の同意のみ」で中絶が可能としています。
愛知県産婦人科医会では、こうした講習を徹底してきたといいます。

愛知県産婦人科医会会長の澤田富夫医師「女性の健康を守る権利ということで、『本人の同意のみ』でも(中絶が)可能であると考えています。医療機関の中で、みんなスタッフがですね、こういうケースについては対応を十分に行う。周知徹底が大事だと思います」。
しかし、医療現場で、法律の運用が徹底されていない現実が見えてきました。

特別養子縁組という選択肢も

では、中絶期間を過ぎてしまった場合に、赤ちゃんの命を救う方法はあったのでしょうか。
長年児童相談所で、女性や子どもの支援に携わってきた萬屋育子さんに話を聞きました。
実は、児童相談所は予期せぬ妊娠に悩む人の相談も行っているといいます。

NPO法人CAPNA理事(児童相談所・元所長)萬屋育子さん「“予期しない妊娠”をした女性が相談をするというのは勇気のいることだと思いますし、誰かやっぱり周囲の人が気がついて声をかけてあげるとかしないと相談に結びつかない」。

児童相談所では「妊娠中からの相談」にも対応しています。
“成人”した妊婦の相談にも乗っています。
赤ちゃんを育てることが難しい場合は、「乳児院」や「里親」に一時的に預ける方法があります。
また、“新しい家族”に託す「特別養子縁組」も行っています。

NPO法人CAPNA理事(児童相談所・元所長)萬屋育子さん「どうしても無理なときにはですね、やっぱり他の人にお願いする。自分を責めるではなくて、子どもに新しいチャンスを与えると思って決断していただくといいかと思います」。

取材を終えて 医療と福祉の連携を

当事者の取材から、対応にあたった医療機関がもう少し女性に寄り添った助言を行ったり、相談窓口につなぐなどの《1歩》があれば、命が助かったケースだったのではないかと感じました。
事件をきっかけに、医療と福祉の連携が進むことを願います。

これまでの特集