髪色もネイルも自由でOK!? 進む “身だしなみルール”見直し

日用品会社も、テーマパークも…広がる“身だしなみルール”見直し 

今年４月、シャンプーなどの日用品を販売するユニリーバが行った入社式が注目を集めました。 「あなたがもっとも自分らしいと思えるような、自分に自信が持てるヘアスタイル・服装で来てください」と新入社員に呼びかけたのです。

当日は金髪や刈上げヘア、ワンピースで参加する人も。 それぞれが考える“自分らしい姿”で出社し、黒髪にスーツという今までのイメージを覆す入社式でした。 今、髪色やアクセサリー、ネイル、服装など様々な身だしなみのルールを見直す企業が相次いでいます。

スターバックスコーヒーやドン・キホーテでは、今まで制限のあった髪色が自由に。 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや東京ディズニーランド、東京ディズニーシーでは、身だしなみに関する男女の規定を統一し、メイクや髪色についてのルールも緩和しました。 接客業だけでなくオフィスで働く業種にも広がり、十六フィナンシャルグループでは女性の制服を廃止し、名鉄都市開発や三井住友銀行では服装の自由化を行いました。

 

きっかけは“従業員の自由”　新たな人材確保にも

どうしてルールを変えたのか、去年4月から身だしなみのルールを「すべて従業員の判断に一任する」ことにした名古屋市のテーマパーク・レゴランドを訪ねました。

アトラクションを担当するスタッフの髪は赤色であごひげも生えています。

入り口でゲストを迎えるスタッフのネイルは、黒と青が混ざっていてとっても個性的。 接客を担当するスタッフは、髪色はもちろん、ピアスやネイル、ひげを生やすのも自由になったのです。

入社４年目でアトラクションを担当する山本優月さんは、去年までは黒っぽい髪色で働いていました。 ルールが変わってようやく髪の毛を好きな色に染められるようになり、金色のインナーカラーを入れました。 仕事を続けていくモチベーションにつながったといいます。

もともと従業員の身だしなみには、厳格なルールが定められていました。
 例えば、髪の色はヘアカラーチャートの「８番まで」。
 ピアス・イヤリングは「女性のみで、大きさ５㎜以内」、指輪は「結婚指輪のみOK」でした。

 

ルールが定められていた一番の理由は“子供の安全と衛生”を守るため。テーマパークとしては"当たり前のルール"だと考えられていました。

 

見直しのきっかけは、従業員が楽しく働ける環境づくりの一環として、“多様性”を認め合うプロジェクトが始まったことでした。 「従業員の身だしなみの自由」と「子供の安心・安全」は本当に関係があるのか、数か月かけて検討し、「子供たちの安全・衛生が守られるのならば、従業員の意志や個性は尊重されるべき」としたのです。

もう１つの大きな理由が、「働く人材の確保」でした。 多くの業界で人手不足が問題となる中、このテーマパークでも、髪色など厳しい身だしなみルールを理由に働くことを断念するアルバイトが多いことに悩んでいたといいます。 改定から１年たった今、アルバイトの応募数はかつての２倍以上になり、過去最高を更新しました。

 

髪色は自由、でもそのかわりに…？

身だしなみを自由にする一方で、従業員にある"条件"を求めることにした企業もありました。 東海地方を中心に展開するスーパーマーケット・ピアゴです。

従業員の強い要望を受け、今まで「黒か栗色」としていた髪色を去年１１月から完全自由に。ネイルなどのルールも一部緩和しました。 食品を扱うスーパーマーケット業界では先進的な取り組みだといいます。

検討が始まったのは１か月ほど前、従業員から「髪色を自由にしてほしい」と次々声が上がったことがきっかけでした。
 当初は、地域密着で50年以上続く老舗スーパーということもあり、当初は客層の多くを占める中高年に受け入れられないのではないかと考えていました。 

そこで自由な身だしなみを認める一方で従業員に求めたのが、「店で一番元気な挨拶と好印象な接客をする」ことでした。 「いい接客態度を常に心がけていく気持ちを持ち続ければ、身だしなみが自由でも問題ない」と、ルール見直しの担当者はこの条件をつけた意図を話しています。

５年前からこの店で働く早田麻里子さんは、ルールの見直しをきっかけに、髪を金色に染めました。 以前よりさらに接客を丁寧するよう気をつけているといいます。

レジに並んだ高齢の客に対して笑顔で話しかけ、袋詰めの手助けまで優しくサポートする早田さん。 お客は「感じがいいからこの子は好きだよ、ここに来るのが楽しみだ」と笑顔で帰っていきました。

このスーパーでは、ひげやアクセサリーのルールにはまだ制限があります。 担当者は、今後もお客の反応を見ながら少しずつルールの見直しを図っていきたいと考えています。

 

身だしなみルール"見直したほうが企業の業績アップに"

総合情報サービス会社マイナビが、直近1年以内にアルバイト採用業務に携わった20～69歳の会社員1,800人を対象に行ったアンケート調査(2021年)では、アルバイトの身だしなみを自由にすることについて「良い影響を与える」「影響はない」と答えた企業は７割近くに上りました。 
「良い影響を与えると思う」と答えた企業からは、「優秀な人材が集まる」という声や、「多様化はこれからのニーズに生かされる」など事業の成長につながるという理由があげられています。

専門家は、身だしなみルール見直しの背景には「コロナ禍での働き方の変化」があると指摘しています。

“身だしなみ“ 本当に期待されていることとは…

身だしなみルールの見直しを取材して、「個性を受け入れる社会」への動きが加速しているのを実感しました。
 一方で、「顧客イメージ」と「従業員の自由」のバランスをとることの難しさも耳にしました。 それぞれの企業が大事している企業のイメージがあり、仕事の内容によっては、衛生面、安全面などから自由化が難しい業種もあります。 ただ身だしなみを自由にすればいいのではなく、ルールを見直すために「従業員の求めていることはなにか」「企業に本当に期待されていることはなにか」ということを議論する過程に、大きな意味があると感じました。
 私も取材をしているうちにインナーカラーに挑戦してみたくなったので、これからも自分らしい見た目を維持しつつ、誰よりも好印象な態度で取材していきたいと思います。