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優しさを引き出す“弱いロボット”

  • 2023年05月18日

東海すごいぜ、今回は周りの人の手助けが必要な“弱いロボット”についてです。
このロボットには、私たちの中にある優しさを引き出す、すごい!能力があるといいます。
20年以上研究を続ける豊橋技術科学大学の岡田美智男教授を取材しました。
(NHK名古屋 リポーター 浦野莉恵)

「癒やし」を与える注目の家庭用ロボット

5月から一般向けに販売が始まった家庭用ロボット。
コンセプトは「永遠の2歳児」です。

話すことばは、あいさつ程度の日本語とこのロボット独自のことば。
誰かに運んでもらわないと移動できない、赤ちゃんのようなロボットです。

一方で、呼びかけると振り向いたり、尻尾をふったり。
かわいらしい動きで私たちの生活に寄り添い、1人暮らしの人や高齢者などに「癒やし」や「つながり」を感じてもらいたいとメーカーではしています。
おととし320台限定で先行販売したところ6時間あまりで完売し、注目を集めました。

“弱いロボット”を研究する岡田美智男教授

このロボットの開発に携わったのが、豊橋技術科学大学の岡田美智男教授(63)。
長年研究しているのが、周りの人の手助けが必要な“弱いロボット”です。

豊橋技術科学大学 岡田美智男教授
「“弱いロボット”は自分の中で 完結できない、周りに委ねながら、周りの手助けを借りつつ、何かを成し遂げるようなロボットなんですけれど、周りの参加を引き出すとか周りを頼りにしている関係性ってすごく大事だと思います」

これまで研究室の学生とともに多くの“弱いロボット”を作ってきた岡田教授。
そのきっかけとなったのが、20年ほど前、岡田教授が作った初期の完成度の低いロボットを前にしたときの子どもたちの反応でした。

豊橋技術科学大学 岡田美智男教授
「最初はほとんど素人感覚でロボットを作っていて、そのロボットを子どもたちのところに持っていったら周りがしびれを切らして世話を始めたという光景を目にしたことがあった。そこで弱いところに大事な意味が隠されているかもしれない、人の手助けをうまく引き出すロボットを作ってみようと思いました」

思わず助けたくなる「生き物らしさ」を追求

今まで制作してきたロボットは、およそ30種類。
自分でゴミを拾うことができず、人の手助けを借りて片づけをする「ゴミ箱ロボット」。

読み聞かせロボット
「昔々あるところにおじいさんと…えっと、誰が住んでいたんだっけ?」

聞き手
「おばあさん」

読み聞かせロボット
「そうだ!それそれ」

ところどころ物語を忘れてしまい、聞き手に教えてもらう読み聞かせロボットなど、人とロボットが互いに関わり合い、コミュニケーションが円滑になる関係を目指してきました。

こうした弱いロボットには、思わず手を差し伸べたくなる共通したすごい!特徴があるそうです。
それが「生き物らしさ」です。

豊橋技術科学大学 岡田美智男教授
「僕が大切にしているのは「生き物らしさ」というので、何となくヨタヨタしているところ。ふつうホイールが付いて、まっすぐ動いちゃうと車が動いているようで味気ない。機械が動いているように見えちゃう」

岡田教授はヨタヨタした動きを追求するため、体にバネを使ったり、ネジを一部緩めたりと工夫を重ねています。
生き物らしい動きをすることで、私たちはロボットとコミュニケーションができると感じ、助けてあげたい!と思うそうです。

ロボットの「弱さ」が「優しさ」を引き出す!

また“弱いロボット”との交流は、私たちの優しさを引き出す、すごい!効果もあるといいます。
この日は研究室に、小学6年生の児童が見学にやってきました。

ロボットと一緒におしゃべりをしたり、ゴミ拾いをしたり。
“弱いロボット”を支えてあげることで、子どもたちが笑顔になり、生き生きとした表情を見せていました。

研究室を見学した児童
「かわいいしかなかった。顔や動きなど全部かわいいです」

研究室を見学した児童
「人間のことばを理解していて、すごいなと思いました。何度も話しかけたくなる感じでした」

研究室を見学した児童
「(ゴミを)入れたときにおじぎしてくれるからうれしいなって思いました」

手助けしたくなる“弱いロボット”。
岡田教授は、その「弱さ」が私たちの持つ「強さ」を引き出し、互いに支え合える優しい社会への一歩につながると考えています。

豊橋技術科学大学 岡田美智男教授
「ロボットはロボットなりのいいところがあるし、人には人なりの優れたところがある。関わりの中でお互いの弱いところを補って、強いところを引き出し合う。そういう豊かな関係性がある社会っておもしろいと思います」

取材を終えて

岡田教授の“弱いロボット”の研究は、小学5年生の国語の教科書にも掲載されています。
ロボットの弱さを知ることで、自分の弱さも認め、困ったときは助け合える考え方を育んでほしいということです。

高性能で完璧なロボットももちろん魅力的ですが、人と一緒に何かを成し遂げる、共存するロボットがこれからどのように私たちの生活に加わるのか注目していきたいと思います。

  • 浦野莉恵

    NHK名古屋放送局 リポーター

    浦野莉恵

    愛知県豊橋市出身
    昨年度から「東海すごいぜ!」を担当し、東海地方の伝統産業や全国から注目を集める、すごい!技術や取り組みを取材しています。

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