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トヨタが変わる!モビリティってなに?

  • 2023年05月10日

「トヨタ自動車という会社は生き残ることができるのか」。NHKの記者が単刀直入に質問すると、佐藤恒治新社長は「自動車産業が生きるか死ぬかの大変厳しい状況にあるというのは、おっしゃる通り」と率直に認めた。そして、会見場に詰めかけた報道陣を見据えて「私たちが構造改革をする勇気をもって行動をとれるかどうかだ」と言葉をつないだ。世界一の販売台数を誇るトヨタであっても変わらなければ衰退するしかない。そんな強い危機感が印象に残った。そしてトヨタ新体制は「モビリティ・カンパニーへの変革」を宣言した。それは私たちの暮らしに何をもたらすのだろうか。
(NHK名古屋・野口佑輔 経済キャップ)

トップが語った変革への決意とビジョン

4月7日。トヨタを13年あまり率いてきた創業家出身の豊田章男氏からトヨタトップの座を引き継いだ佐藤社長は東京で記者会見を開いていた。この会見はトヨタ新体制の方針説明会とアナウンスされ、会場には海外通信社も含め多くのメディアが集まった。この数日前、私たちは関係者から「佐藤社長が7日の会見で“トヨタモビリティコンセプト”を発表する」との情報を掴んでいた。

登壇した佐藤社長は「これから私たちはモビリティ・カンパニーへの変革を目指していく」と宣言。「クルマがこれからも社会に必要な存在であり続けるためには、クルマの未来を変えていく必要がある」と言い切った。そのビジョンとして、自らスライドを使いながら“トヨタモビリティコンセプト”を披露した。最近のトヨタの対外的な発信では、この「モビリティ」というキーワードがたびたび登場する。一般的には「移動手段」や「乗り物」などクルマよりも広い概念を示すとされる。しかしこの日、佐藤社長はこの「モビリティ」について、より具体的な説明に踏み込んだ。それによると、変革は次の3つの領域で進んでいくという。

1つ目が「クルマの価値の拡張」
例えばEVが災害時に電気を供給する役割を果たすなど、クルマの可能性を広げていくことを指すという。

2つ目が「モビリティの拡張」
自動運転車なども活用しながら高齢者や過疎地に住む人の移動を支えるなど、いまの事業範囲を超えて人々の移動を支えていくとしている。「空のモビリティ」など、新しい移動の可能性にも言及した。

3つ目が「社会システム化」
街や社会とモビリティが一体化した未来を目指すとしている。この実証実験の場となるのが、静岡県裾野市に建設中の「Woven City」だ。2025年から、段階的にリアルな街の中で実証を進めていく。荷物を無人のモビリティに載せて各家庭に届ける「自動配送」や、家の中でロボットのようなモビリティが家事をサポートするといった構想があるという。

強い危機感 100年に1度の大変革期!

プレゼンテーションの中で繰り返し変革を訴えた佐藤社長。質疑応答の時間に移ると、NHK記者との間でこんなやりとりが交わされた。

記者
「自動車業界では生きるか死ぬかの厳しい競争ということがよく言われるが、率直にこのモビリティ・カンパニーへの変革によって、トヨタ自動車という会社は生き残ることができるのかということについて、佐藤社長にお考えを教えていただければと思います。もう1点なんですが、モビリティ・カンパニーへの変革ということで、取引先さんの仕事のあり方とか、場合によれば自動車産業全体がですね、変わっていかないといけないということになるかもしれないんですけども、そのことについて、変革をですね、引っ張っていかれる佐藤社長自身、今後の決意を聞かせていただければと思います」

トヨタ・
佐藤社長

「まず今の自動車産業が置かれている状況につきまして、生きるか死ぬかの大変厳しい状況にあるというのはおっしゃる通り、その認識をしています。ただ一方で、自動車産業にはまだまだ本当に多くの可能性が残されているというふうに思います。私たちが構造改革をする勇気をもって行動をとれるかどうか、なんだろうというふうに思います。今日お示しした、我々の進んでいこうとする道筋は、自動車産業を、今のクローズドループにとどまらせずに、産業の構造改革を実現しながら、クルマの持つ付加価値を高めていくこと。あるいはクルマが社会システムと一体化することによって、付加価値を高めていくという新しい価値の創造について、その思いをお示しいたしました。 そうやって、自動車産業がこれまでの産業構造から一歩外へ出て、産業の勢いといいますか、未来に向けた活力を取り戻して、その思いのもとに多くの連携をしていくことこそが、この自動車産業を、今後も未来に期待が持てる産業としていく、唯一の手段だと思っています。そういった観点も含めて、多くの方々と、必ずやこの自動車産業が魅力ある産業になるように、正解はわかりませんが、一歩ずつ、一つずつ努力をして、何かを変えていく努力をしていく。そこをしっかり進めていきたいというふうに思います」

自動車業界は100年に1度の大変革期を迎えている。技術革新は自動車業界の勢力図を大きく塗り替えた。EV=電気自動車の販売台数で世界トップの「テスラ」。世界のEV化をリードしてきたが、それだけではない。クルマに搭載したソフトウエアをインターネットを通じて更新し、最新の機能を追加するという分野でも世界をリードしてきた。そして、バッテリーメーカーから急成長している中国の新勢力「BYD」。EV販売台数はテスラに次ぐ2位で、ことし日本の乗用車市場にも参入した。ソニーグループもホンダと手を組みEVの開発を進めるなど、新たなライバルが続々と登場している。このほか、自動運転の分野ではグーグルも参戦し、持ち株会社傘下の「ウェイモ」が無人運転の配車サービスを開始している。この熾烈(しれつ)な競争の中で打ち出されたのが、クルマを「モビリティ」に進化させるというコンセプトだったのだ。

“モビリティ”は何をもたらすか

ただ、“モビリティ”が社会や私たちの暮らしに何をもたらすのかについては、必ずしも具体化されているとは言えない。会見で示されたのはあくまで“青写真”だ。自動車業界がこれだけ激しい変化の波にさらされているのだから、目指すべき姿も変わっていく可能性はある。そうした中でも、自動車産業が主要産業となっている東海地方では、すでに企業がそれぞれの“モビリティ像”を描いて動き出している。当然、将来のビジネスチャンスを見いだしているからだ。

これまでのEVの常識を超えた研究が進んでいるという話を聞きつけて、取材班が訪れたのは愛知県豊橋市にある大学発ベンチャー。社長の阿部晋士さんが見せてくれたのは、円形のコースに配置されたクルマのおもちゃ。「普通とは違うところがあるんですよ」ということで、よく見てみると・・電池が入っていない!?。EVで言うとバッテリーがないということだ。

しかしスイッチを入れると、大きな音を立ててコース上を走り出した。一体どういう仕組みなのか。その秘密はコースの裏にあった。貼られていたのはアルミのシート。ここからコース上のおもちゃに電気を送っていたというのだ。

詳しいメカニズムはこうだ。まず特殊な装置を使い周波数が高い電気に変換する。この電気をコードを通してコース裏のアルミに送る。そして、周波数が高い電気が絶縁体を通過できるという特徴を利用し、無線でクルマのおもちゃに電気を送っているという。実際の車両を使った実験も進められている。テスト用の屋外コースにはバッテリーが取り外された小型EVがあった。コースのアスファルトの下には金属の板が敷いてあり、同じような仕組みで電気を供給する。アクセルを踏み込むと、このEVがきちんと走ることを確認できた。このベンチャーでは、2030年に高速道路に導入することを目指している。

阿部晋士社長
「運転手は運転することだけを考えて、充電のことは一切考えなくなる。充電という言葉が専門用語になるような未来ができると考えています」

EV
燃料電池車
水素エンジン車

一方で、懸念もある。例えばEV化では自動車に使われる部品が大きく減ると言われている。これまでエンジン部品を作り続けてきたメーカーからすると、仕事が減ることへの不安を抱くのは当然だ。この点、トヨタはEVだけでなく、ハイブリッド車、燃料電池車、水素エンジン車など、さまざまなタイプのクルマを投入する「全方位」の立場をとっている。今後の取引先との関係について、4月7日の会見では同席した中嶋副社長から次のような発言があった。

トヨタ・中嶋副社長
「元々われわれトヨタ自動車は、仕入れ先様との共存共栄、それから相互繁栄といった文化、理念のもと、関係を構築してまいりました。例えばこれらのEVに関しましても、ハイブリッドでノウハウを蓄積されました既存の取引先様との新たな関係強化もございますでしょうし、新たな部品、専用でEVで調達する部品となってきますと、こちらの方は広くオープンに、新たな関係作りということがスタートするかと思います。一方で、従来内燃機関の部品を中心にお取引させていただいております仕入れ先様については、当然、将来に対してのご不安といったことも感じていらっしゃるかとは思います。これに関しては、各仕入れ先様がこれまで培ってきた技術力や経験といったものを生かしつつ、どういう形での変革、サプライチェーン全体でやっていけるかといったことを、我々も一緒に入って、個社ごとに対話をしながら進めていきたいと考えてございます」

今回の「モビリティコンセプト」の公表前、あるトヨタ幹部に車の電動化への取り組み方針を尋ねたところ、「世の中はものすごい早さで変化している。先を読む方法がない中で、正確にあててくださいと言われているような気がする」と語った。それほど自動車業界の未来を予測することは難しいということだろう。だが、トヨタの変革は東海地方に大きな影響をもたらす。リーディングカンパニーのトヨタがどんな道を歩んでいくのか、これからも取材を続けていく。

  • 野口佑輔

    記者(NHK名古屋放送局)

    野口佑輔

    経済キャップ。 経済部を経て2020年から名古屋局。 

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