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青色発光ダイオードから次の挑戦は!? ノーベル賞の天野浩教授

2022年5月11日

東海地方の底力に迫る、「東海すごいぜ」。今回は、名古屋大学の天野浩教授です。2014年に青色発光ダイオードでノーベル物理学賞を受賞。次なる挑戦が「パワー半導体」の開発です。
最先端の研究内容とともにその将来性についてNHKの解説委員など務めた経済ジャーナリストの関口博之キャスターが聞きました。

関口キャスター

まず、パワー半導体はどのようなものですか?

天野教授

最近、EV・電気自動車が普及しはじめていますが、EVはパワー半導体がないと動かないと思っています。電化製品とか電気自動車とか、ありとあらゆる電気で動くものを動かすために欠かせないもの。ゆくゆくは化石燃料から再生可能エネルギーに変わっていくと思いますが、有効に使わなければいけない。あるいは、電気をたくさん作ったら貯めとかなければいけない。あるいは、足りないところに送らなきゃいけないといったときに、どうしても必要になるのがパワー半導体です。また、インターネットが普及して皆さん動画をよく見るようになってきたため、通信容量は急速に増えています。それから最近では色々な判断をAIで行おうとなるとAIのサーバーに繋がらなければいけません。できるだけ通信容量を増やすが、電気はあまり使う量を増やさない、ということが必要になってくるわけで、そこもパワー半導体の活躍が期待されます。

関口キャスター

そこで、注目されるのが半導体のウエハー(基板)の原料になる「窒化ガリウム」ですね。

天野教授

まず、今まで原料に使われていたシリコンが非常に使いやすいので、使われていたんですけれども、残念ながら効率があまり良くないっていうことが最近わかってきました。それよりももっと効率よく電気を有効に使える材料があるぞということが分かってきて、そのうちの一つが「窒化ガリウム」だったんです。
シリコンですと例えば厚さでいうと、30ミクロンの厚さがないと1000ボルトの電圧を制御できない。そうすると30ミクロンあるとそのぶん電気を流すとそれが抵抗になるんでロスが発生してしまう。ところが、例えば窒化ガリウムですとそれが10分の1のミクロンで1000ボルトが制御できるということがわかっていて、損失も10分の1、もっとうまく工夫すると100分の1以下まで減らすことができるっていうのが原理的にわかっています。そこで新しい材料の開発というのがいま急ピッチで進められているのです。

関口キャスター

高電圧に耐えるっていうのが一つの必要な要件ということですか?

天野教授

そうですね。窒化ガリウムだけではなくて、炭化ケイ素もありますし、酸化ガリウムもあります。もっと先に行くとダイヤモンドも実は、使えるんじゃないかなっていうことが言われてますけど、すべて高い電圧に耐えられる材料ですね。

関口キャスター

窒化ガリウムは、そもそもで言えば「青色LED」に使われていたわけですね。

天野教授

そうですね。私も実は、窒化ガリウムがパワー半導体として使えるっていうのは初期の頃はあんまり意識してなかったんですけど、たまたま青色LED、それから青色レーザーの研究していた時に、コーネル大学の先生がトランジスタを作ってみないかと声をかけていただいて、それで作ってみたら、世界で一番性能が優れたトランジスタができちゃった、それで注目するようになりました。

ありがたいことに、すごい才能を持った材料をたまたま研究することができていたというのがすごくラッキーだったと思います。

関口キャスター

パワー半導体で世界的な競争になっていると思うんですけど、その中で先生たちのチームはどんなところに立っているんですか?

天野教授

今、世界中で窒化ガリウムの研究はものすごく活発にやられています。ただし、その窒化ガリウムというのは、実はシリコンという別の材料の上につけた窒化ガリウムを使ってトランジスタにしようとするという方が非常に多くて、それはもうかなり生産も進んでいて、ACアダプター、例えばパソコンで電源を差す所の黒いボックスがあります。これが今すごく小さくなってると思いますけど、その小さくなっている理由は、窒化ガリウムのトランジスタが使われるようになって小さくできるようになったということで、世界中の多くの方々は、シリコンの上につけた窒化ガリウムのトランジスタを普及させようというのが今の段階です。ただ、シリコンの上につけた窒化ガリウムですと流せる電流が実はそんなに多くないんですね。欠陥が非常に多いですから、なかなかたくさんの電流は流せない。もっと電流を流せて、しかも効率よくしようと思うと、やはり、この窒化ガリウムの結晶自体を基板として、その上につくらなければいけないというのが私たちの立ち位置。いわば「究極の窒化ガリウムのトランジスタ」を作ろうっていうのが目標です。

関口キャスター

企業もあるいは全国の大学も巻き込んで、研究のコンソーシアムという形をとったのはなぜなんですか。

天野教授

最初、窒化ガリウムのトランジスタをつくったら企業がどんどん自分たちで研究開発をして、売り出してくれると思ったんですけど、なかなかそうはいかなくてですね。まだまだ研究段階だということで、世に送り出すにはまだ課題が多いということで、それだったらみんなで一緒にやりましょうっていうのがコンソーシアム設立の一番のきっかけですね。やはり、技術がそれなりに難しいので、みんなでいっしょにやる領域があって、そこからもう自分たち一人でできますということになる。今はみんなで難しい課題をどんどん解決していって、共同で使える形にする。そうすれば競争領域に行った時に企業がそんなに苦しまなくても、製品として世に送り出すことができるでしょうということもあって、コンソーシアムを作りました。

関口キャスター

先生のチームは今、何位ぐらいですか?

天野教授

世界で見ると実はあまり競争相手はいないという点では、世界でもトップクラスではないかなと思っています。結晶から作ってですね、その結晶をきれいなウエハーにして、その上に色々なトランジスタを作って、それをシステムに組み込むとなるとすごく大変ですし、いろいろな違う専門家の方々が一緒になって取り込まないといけないので、そういう取り組みをしている人が今まだ世界でもほとんどいないという点では、我々トップに近いじゃないかなと思います。

関口キャスター

コンソーシアムには、東海地域の企業もいろいろと参加していますね。この地域はものづくりの基盤があると思いますが、研究にも活きているところありますか?

天野教授

愛知県は、陶器で有名なところですが、そういった技術的な伝承・歴史がすごくいきているのです。ウエハーは、その結晶を磨くというのが非常に重要だっていうのが一緒にやってみてわかりました。焼き物の技術ですね、例えば焼いたときに温度を何度にするかとか、焼き方をどうやっているとか順番を変えたら全然違うものができてしまうとか、そういったことが実際新しい材料を開発すると、やってみるとわかるんですね。

関口キャスター

パワー半導体は省電力・省エネということを目的にしているとすれば、どのぐらい効率の良いものをいつ頃までに作りたいと考えていますか?

天野教授

これは私の勝手なビジョンなんですけど、2030年までにはもうすべて電気自動車に変えたい。あるいは水素・電気自動車も含めてガソリンや化石燃料を使わないモビリティーに変えたいと思っていて、そこでは今はシリコンのトランジスタが使われていますけど、それをすべて新しいパワー半導体に変えたいと思っています。効率で言いますと本当にびっくりしたんですけど、インバーターといって車はバッテリーを積んでいてバッテリーは直流だけどモーターは交流モーターが使われるので、直流を交流にスイッチオンオフを押している。その際にかかる効率がなんと65パーセントも損失削減に成功した。
ただ、それは実はシリコンの上につけたガリウムナイトライト・窒化ガリウムを使っていて、すごくたくさん電流があまり流せないので、たくさんのトランジスタ72個使わないと車を走らせられなかったので。もし究極のものができると、それが6個で走らせることができようになるので。6個でインバーターを作って、もう究極の高効率のインバーターで電気自動車を普及させたいというのが目標です。

関口キャスター

今でも65パーセント削減できるところまで実証できちゃってて、それがいってるのはもう10分の1ぐらいのチップ半導体でできるところになると、もう限りなくゼロに近いくらいの何ていうか、省エネ・省電力効率になりますよね。

天野教授

それ自体はいいんですけど、ただ72個も使うと、それだけ値段が出てしまうわけですね。値段が高いとやっぱり皆さん使っていただけない。新しい省エネの半導体、パワー半導体っていうのはイノベーションを起こすためにはやっぱり皆さんが使っていただかないとイノベーションって起こらない。LEDも最初のころでは高くてなかなか使っていただけなかったんですよ。最初1チップ160円ぐらいしたんですね。それが今ではもう1円以下でできるようになったことによって普及が進んで省エネルギーに貢献できた。それを考えると、やっぱりいいものを作るだけではダメで、皆さんに使っていただけるような性能とコスト価格で提供しなければいけないというのがやっぱり研究者の目指すとこだと思うんです。

関口キャスター

そのための最大の課題はなにになりますか?

天野教授

結晶を作る、結晶をみがくというところが実は一番難しいところで、そこをいかに品質を担保してかつ安く作るかっていうのを今、全力で取り組んでいるところです。

関口キャスター

一方で、今後、増加が見込まれるデータセンター、電力がかかるとみられますが、そうした場所でも使われる可能性があるのではないでしょうか?

天野教授

データセンターに関して言うと、実は電源。電源とはデータサーバーがまず、温まってしまうと動かなくなるので困る。温度の一定のところ、低い温度のところに設置しようとされてます。ただ、それですと、やっぱりアクセス時間がちょっと長くなるので、最近では近いところにデータサーバーおくようになっています。そうすると例えば夏がすごく暑くて、空調もすごくコストがかかるということになってくると高い温度でも実は効率よく電源の制御ができるってなると、これがまた新しいパワー半導体の一番の売りなんですね。高い温度でもちゃんと動くということで。電源にまず使われるようになりつつあって、実は国を挙げてですね。この窒化ガリウムのトランジスタを使った電源を普及させようということで、今すごく研究開発がすすんでいます。データーサーバー用の電源というのがすごい有望です。

関口キャスター

学生の指導にも力を入れていますね。研究者と同時にビジネスのマインドを持つということをよく話していますが、その理由は何ですか?

天野教授

私の所属は工学部の工学研究科です。やはり人をよりよく生活しやすいようにサポートするのが工学の基本だと思うんです。例えば、医学部とか医学研究科の学生は必ず患者さんを診るので世の中というか人と繋がってるし、こう人の役に立つ、人に貢献するっていうのが当たり前な学部でいいんですけど、工学部はどちらかというと自分の興味。それも大事なんですけど、興味ばかりに走って、社会に貢献するとか、人の役に立つというのがどちらかっていうと、だんだん離れて来てしまうような感じを受けています。元総長の医学部出身の先生に言われたのが、最近の工学部は、人のこと見ていないというか、社会のことを見ていないとか指摘を受けました。研究に没頭するのはいいんですけど、それがどういうふうに社会と関わり合うのか、社会に貢献するのかということを、学生たちに必ず意識してもらいたくて言い始めました。
何か素晴らしいものを発明しました。発明しただけではそれを元にして世の中の人に使っていただくためには、やっぱりお客本位というか、使う人のことをまず考えなければいけないでしょう。それが、なかなか工学部の学生は、そういったトレーニングをしていなくて、今までそういった講義もなかった。それをマインドセットというか、考えを変えてもらうっていうことでやっています。

関口キャスター

ベンチャー企業を立ち上げた学生もいるのですね。

天野教授

そうなんですよ。もうすでに「卓越大学院」というプログラムがあってその中でも既にベンチャーを興して、収益を上げている人もいます。ひとつ困ったことがあって、5年以下のプログラムなんで、最終的には博士号をとってもらわないといけなんです。でも、ベンチャーで上手くいくとすごく楽しいらしくて、そっちにのめりこんでしまうと、もう博士号なんかいらないっていう学生も・・・。なかなか両立が難しいっていうことはありますけど。名大の学生、工学研究科の学生たちはすごく優秀なので、いろいろなところのコンテストでも優勝を必ずしてくれたりとかすごく活躍してくれています。

関口キャスター

日本発のすごいベンチャー企業も生まれたり次のノーベル賞も出たりして欲しいですね。

天野教授

ノーベル賞はわれわれが推薦するんですけど、最終的にはスカンジナビアの科学者達が最終的な決定するんですけど、あの人たちは自然に近いところで生活してるっていうか、森の中で生活していたりして、すごく自然に対して敏感だし、地球環境に対してものすごく敏感なんで。それはすごく大事なことで。やはり日本の学生も自分の研究をずっと集中するのはいいんですけど、地球のこととか自然のこととか、あるいは社会のことも考えてもらって、世界の人々が賞賛してくれるような研究者にぜひなって欲しいですね。