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名古屋グランパスを陰から支える生き字引の思い

2023年1月30日

1993年に開幕したJリーグはことし30周年。去年4月から伝えてきたシリーズ「30年目のいま」。6回目の主役はクラブを陰から支え続けている男性です。スポーツ担当の亀蔦なごみキャスターが取材しました。

発足当初からクラブと歩み続けた裏方さん

これまで数々のレジェンドを伝えてきたこのシリーズ。今回はクラブを支えるスタッフを取材したいと広報担当者に相談しました。そしてぴったりの人がいると紹介してもらったのが林田一明さん(56歳)。クラブ発足当初のことを知るいわば生き字引と言える存在です。現在はユースチームで遠征バスの運転手や用具係を務めています。

林田一明さん

「30年あっという間にたっちゃったっていう。スピードが早すぎてしまって。でもそれは楽しかったからじゃないですかね」

林田さんはもともと運送会社の社員で引っ越し担当でした。それがJリーグ発足直前の1992年、会社の上司から「グランパスと関わる仕事をしてみないか」と打診があり、転職を即決しました。

林田一明さん

「Jリーグというプロリーグができるので、荷物を運ばないかと言われました。サッカーが好きだったので『はい』と即答しました。ものすごく喜びましたよ。三浦知良さんなどいろんな方に会えるんじゃないかっていう単純な気持ちで」

林田さんが最初にしたのは選手が試合や練習で使う道具の運搬でした。その後丁寧な仕事ぶりが評価され、トップチームのロッカールームにユニフォームを用意したり練習道具を準備したりする用具係になりました。担当する業務が変わり大変なことがたくさんあったと振り返ります。

林田一明さん

「選手の名前を覚えなきゃいけないし服のサイズや足のサイズも覚えなきゃいけない。そして背番号も。メモを取りながらやっていました。トレーニングの前は水の準備やボールを一定の軟らかさになるように空気を入れる作業など毎朝忙しかったですね」

名選手のことばを励みに

チームの歴史とともに歩んできた林田さんにとって忘れることができない出来事が2000年の天皇杯決勝の後にありました。優勝を決め、試合後のロッカールームで林田さんは選手たちと喜びを分かち合いました。そして名古屋に戻る途中の新幹線の車内で・・・

林田一明さん

「帰りの新幹線の中でストイコビッチ選手が僕の席まで来てくれて『お疲れさま。勝ってよかったね。おめでとう』と言ってくれたんです。そのことばは本当にうれしかったですね。今でも鮮明に覚えています」

世界的な名選手、ストイコビッチ選手からかけられたねぎらいのことば。林田さんは自分がやってきた裏方の仕事を認めてもらえたと感じました。

林田一明さん

「僕たちもやってきてよかったなと思いました。特に目立つ役ではなく、裏方として一生懸命徹して。もちろんいろんな選手から『ご苦労さま』と言ってもらうことはあって、それももちろんうれしいんですけど『勝ってよかったね。おめでとう』っていうことばはまた違うことばだったので考えさせられるものがありました。ファミリーになった感じがしました」

今もストイコビッチ選手のことばが仕事を続ける大きな原動力になっているといいます。

未来の若鯱をサポートしたい

トップとユースのチームを長くサポートしてきた林田さん。選手の成長する姿を間近で見るのが楽しいと目を細めながら話しました。

林田一明さん

「選手たちが着ている服が今は大きいと思うんですけど、これがだんだん小さくなっていくんですよ。背が大きくなって着られなくなるんです。『成長したね。背が伸びたね』って話をするんです」

将来のグランパスを担う若い選手たちにも林田さんのチーム愛はしっかりと伝わっています。

北橋将治選手(取材当時ユース所属)

「選手たちみんなが履いているスパイクとか移動の時に使うバスとかそういうのを全部担当して頂いています。林田さんがいなければ、僕たちの活動は成り立ちません。とても大切な存在です。いつも笑顔でものすごく優しいです」

大田湊真選手

「ジュニアユースの時から遠征バスの運転手として、本当に遠いところまで運転してもらっています。勝ちを届けたいという思いは常に持っています」

感謝の気持ちを話す姿を見て、林田さんは「高校生になってお口が上手になって」と少してれていました。

林田一明さん

「どんどん成長する姿を見るのが楽しいので、ずっとやってくることができたと思っています。ものすごくかわいいですよ。未来の若鯱たちのために精いっぱい頑張りたいと思います」

取材を終えて・・・

林田さんと話をしていると、ことばの節々からグランパスへの深い愛情が伝わってきました。去年のワールドカップカタール大会に出場した吉田麻也選手がグランパスのユースチームに所属していた時のこともよく覚えていました。「当時からチーム内でリーダーシップを発揮することができる特別な存在だった」ということです。これまで関わった若い年代の選手のことをわが子のようによく覚えていて、そうしたことが献身的な仕事ぶりにつながっているんだと感じました。

筆者

亀蔦なごみ(NHK名古屋放送局スポーツキャスター)

愛知県東海市出身

昨年度からスポーツコーナー「月スポ」「金スポ」を担当しプロスポーツから地域のスポーツまで取材をしています。
趣味はもちろんスポーツ観戦!
中学高校6年間ソフトボールをしていました。