いよいよ行われるドラフト会議。毎年、多くの選手が一喜一憂し、さまざまなドラマも生まれてきた。いかにいい選手を獲得できるか、これは各球団のスカウトの腕の見せどころだ。スカウトは選手のどんなところを見て評価しているのか、最近の選手がスカウトの目にどう映っているのかなど、元スカウトに、あれこれ聞いてみた。

お話をしていただいたのは、中田宗男さん。去年まで38年にわたり中日一筋のスカウトマンとしてチームを支えてきた。
【プロフィール】
中田宗男さん
1957年1月8日生まれ 大阪府和泉市出身
上宮高から日本体育大を経て1979年ドラフト外で中日に入団
1983年に現役を引退し、翌年から中日のスカウトとして38年間勤務
長いスカウト歴で中田さんは、中日の立浪和義監督や、今中慎二投手、さらに、今シーズンかぎりで引退した福留孝介選手など、幾多の大物選手を担当してきた。中田さんはいま名前をあげた選手に共通点があると語る。

このほか中田さんが「見たい」と思った選手には、当時PL学園の清原和博さんや星稜高校の松井秀喜さんなど、名だたる選手ばかり。スカウティングはフィーリングも大切のようだ。
毎年この時期になると、「世代最強」「即戦力」「最速○○○キロ」「通算○○ホームラン」などと心躍る文字や数字が紙面やネット記事に並ぶ。当然それは選手が積み上げてきた実績で、もちろん大事な1つの評価軸になる。それでも意外と細かいところまで見ていて、中には評価の比重が高いものあるという。

中田さん
「内野手であれば、当然触塁(打ったバッターがベースを踏むこと)ですね。ベースをちゃんと踏んだか、(走りながらでも)ぱっと確認できるかどうか。全体的に野手の場合は視野をいいタイミングで広げることができるかを見ますね。あと最近、特に厳しいのが投手のクイック(モーションの速さ)ですね。これができるかどうか。今これはすごく(評価の)比重が大きいんですよ」
そしてもちろん、野球をする上での姿勢もしっかり見ている。

中田さん
「打者だと、ポンと打ち上げたりすると、打球を見てしまって全力疾走を怠る場合があるんです。野手が落球するかもわかりませんよね。打ち損なったときに、すぐ切り替えて全力疾走ができるのか、そういうのも見てますね。諦めずに全力プレーできるかです。外野手とか内野手にしても、ボールをはじいたり、ミスした後にいかにして次の塁に行かせないとか、逆に次の塁を狙った選手をいかにしてアウトにするか。次のプレーの切り替えができるかどうかこれはすごく重要なポイントです」
このほかカバーリングも大事とのこと。野球をやる上でやるべき当たり前のことをしっかりできているかを、きっちり見ているようだ。
プロ野球選手は大概ががっしりした選手が多い。プロになる逸材を見つけるために、体の大きさも重要だが、今はもっと重要なポイントがあるという。

中田さん
「昔はね、投手であるならばおしりの大きい人がいいとか、下半身が方ががっしりしていたほうがいいとかいろいろあった。でも今はね、すべて当てはまらないんですね。シャープな体つきでも非常にパワーのある選手もいます。体の使い方がうまいことは特に重要です。今の選手は体の使い方が上手ですよね」

中田さんがスカウトをはじめたころは、いい選手を発掘するためにとにかく現場に出向き足で稼いできたという。
中田さん
「直接学校に行って、監督さんに『どこかにいい選手いませんかね』って聞いて、『どこどこに、だれだれがいるよ。おもしろい選手だよ』と言われて、またその学校の選手の練習見に行って。その繰り返しだったんですよね」
今はインターネットの発達で選手の情報をすぐに知ることができるし、映像も簡単に見ることができる。でも意外と落とし穴があるという。
中田さん
「映像で見ると(プレーが変に)よく見えたり悪く見えたりする。あとは"音"ですよね。間近でバットを振る音にしても、ピッチャーがボールを離す瞬間の音とか。やっぱりもうひとつ聞こえないもんですから。そういう"音"のような一番大事なところは映像じゃ分かりづらいです」
情報は速く手に入るようになっても、スカウトは現場に足を運び、現場でしかわからないことを見て聞いて、その選手がプロで活躍できるかを見極める。これは変わらないようだ。
最後に中田さんに「スカウトってひと言でどんなものか」と聞いた。その答えを聞いて、スカウトの苦悩がかいま見えた。

中田さん
「ひと言で言うと、チームを作るために一番重要なポジションじゃないですかね。それだけ責任感もあるし。よく言われるのはチームが勝てば現場の勝利、負ければスカウトの責任であると。でもね、僕はそう思います」
中田さんは中日を強くするために38年間、スカウトとして野球を見てきた。去年、退職して、いまはいち野球ファンとして楽しんで見ている。さあ、ことしのドラフト会議。中日はどんな選手を指名するのか...。

竹内啓貴 記者(NHK名古屋放送局)
平成27年入局 愛知県出身
中京大中京高時代は野球部で甲子園出場 慶応大でも野球部に所属
ドラゴンズを担当して2年目
中田さん
「その選手のプレーを見たくなる、というような気持ちになるんです。そう思わせる選手はプロに入っても間違いないですね。はっきり申し上げて、そんなにそういう思いになる選手は多くない。福留君のときは、自分自身がファンのような感じで(試合や練習を)見に行きましたね」