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東海すごいぜ!岐阜の特産「美濃焼」(岐阜 土岐市)

2023年3月17日

茶器からタイルに至るまでさまざまな製品がありますが、その多くは日用品として使われています。
今回取材したのは、そのイメージとは全く異なる独創的なデザインが特徴のもの。
世界も注目する斬新さを可能にしたのは、産地を支えてきた伝統の技術でした。

「東海すごいぜ 岐阜 土岐 独創的な美濃焼で世界へ」

(NHK岐阜 キャスター 竹下梨帆)

世界が注目!これが美濃焼?!

光り輝くティーカップ。実は美濃焼です。
細かいパーツがいくつも合わさり、そのほとんどが陶器でできています。
中には数十万円以上の値がつくものも。
いま、中国のギャラリーなど世界から注目されています。

このティーカップを作っているのは、岐阜県土岐市に住む東金聖さん。

デザインのモチーフは女性の体の繊細さや華やかさ。
曲線は女性の体のラインを、周りの装飾は女性が身につけるアクセサリーなどファッションを、イメージしています。
時には1000個!ものパーツを組み合わせ、オリジナリティーあふれる作品を生み出します。

「人の心を動かす、器を作りたいなと思ってて。緻密なことも、人の心を動かす1つの要素だと思ってるから。あとはきらびやかだったりとか、華やかだったりとか」

アイデアをかたちに!美濃焼の産地に息づく技術

理想のデザインを実現するために、欠かせない人たちがいます。
東金さんが訪れたのは、美濃焼の「型」を作る型屋さん。
美濃焼の産地では、型を作り、そこに泥を流し込む方法で食器などを量産してきました。

この地域では「ガバ鋳込み」と呼ばれる、昔ながらの方法。
「型」を使うことで、機械やろくろでは実現できない複雑な形にも対応できるため、今でも急須や花瓶などを生産するのに使われています。

東金さんは、土岐に移って以来、理想のデザインを実現する方法を求めて、窯元や組合など1軒1軒聞きまわりました。
そこで「ガバ鋳込み」の技術を知り、この道50年のベテラン職人・齋木俊秀さんに出会います。
東金さんはこの技術を使えば、自らが思い描く細かく複雑なデザインの器が作れるのではないかと考えたのです。

東金さんがデザインしたパーツの「型」。
細かいパーツの「型」を手彫りして作ることのできる職人が全国では少なくなる中、美濃焼の産地では、いまも職人の技術によって形にすることができたのです。

「新しく作りたいのがあって」

「いつもほんとすごいね。非常に難しいデザインやね。難問をいつもぶつけられる」

「この辺の量産の常識からちょっとかけ離れてるんで、すごくその作品としてはいいけど、こんなのできる?って。新しいことに挑戦という部分では、なんとか作ってあげないといけないなというような気持ちで作っていましたね」

美濃焼は、地域全体で「分業制」で作られるという特徴があり、齋木さんのような職人をはじめ、窯元や粘土屋、釉薬屋などそれぞれのプロがいます。
地域を歩けば、なんでも聞けて、なんでもそろう環境がある。
美濃焼の産地に息づく技術が東金さんのデザインを実現させました。

「ガバ鋳込みがなかったら、絶対にできないんですよ。私のデザインをかなえてくれる唯一の技法なので」

再び夢を描くために。再起の舞台は岐阜・土岐

アメリカの美術大学で学んだ東金さん。
「ミロのヴィーナス」に代表されるヘレニズム時代の彫刻に魅了され、「次世代の人に感動を与える作品を作りたい」と女性の彫刻を作りはじめます。
素材は陶器。何千年も残る素材であるところにひかれたからです。

この作風で頭角を現し、念願だった陶磁器専門のギャラリーの専属作家にも選ばれるなど、創作活動に取り組んでいたやさき。
アメリカの経済状況の悪化の影響で、10年前に帰国を余儀なくされてしまいます。
目標だった海外でのアーティストの道を断たれ、希望を失った東金さん。創作意欲もなくなってしまいました。

およそ1年後、「もう一度、やり直すんだ。陶器を使った作品作りをもう一度やろう」という気持ちが芽生えた東金さん。
選んだ場所は、美濃焼の産地として知られる岐阜県土岐市。
わらにもすがる思いで移り住んだ町で「器作り」に出会います。
芸術作品とは違う器作りの道は想像以上に難しいものでした。
粘土がすぐに固まってしまいパーツがうまくくっつかなかったり、繊細なデザインほどすぐに崩れたり、曲がってしまったり、、、
その難しさと奥深さが、東金さんを夢中にさせました。

伝統技術を使って、いままでにない美濃焼を

東金さんの作品は繊細な技術で作り上げられています。
素材の厚さは薄いもので1.5ミリ。
薄くて柔らかいパーツを変形させず、ゆがみなく組み立てます。

もっとも目を引くのは色彩。
日用品のように、バケツに釉薬をはってドボッとつけることはありません。
繊細さを出すために、スプレーや筆などで丁寧に仕上げます。

釉薬だけでなく、写真の転写や、キラキラしたストーンをつけるなど、従来にはない発想で、独自の器作りに取り組んでいます。
東金さんの場合、器1つを作るのに、工程は20以上。
これは、一般的な美濃焼ではありえないほどの多さと複雑さです。

2023年1月。東金さんの作品が、世界的ファッション誌で活躍するスタイリストの目に留まり、東京・代官山のギャラリーで個展が開かれました。

「なんだこれはみたいな。造形としてもすごい、アイデアとしてもすごい、技法としてもすごいし、質感としてもすごい。そこに1番最初グッときました」

東金さんは、これからも斬新な「美濃焼」を、世界に発信していくつもりです。

「日本で生まれた世界を驚かせられるようなものづくりっていうのを目指す。こっち(土岐)で作って世界に広げていく。日本ってこんなまだまだすごいがあるんだねって思ってほしい」

筆者・取材を終えて

まるっと!ぎふ リポーター 竹下梨帆(NHK岐阜放送局)

東金さんのティーカップを初めて見たとき、美しすぎる器に、ハッと思わず立ち止まったのを覚えています。
胴や取っ手だけではなく、その周りにつく装飾までもほぼすべて陶器。
「これ陶器でできているの?この細かいパーツもすべて?しかもこれが美濃焼?」と、美濃焼のこれまでのイメージがガラッと変わった瞬間でした。

取材を進めると、東金さんのアイデアの斬新さはもちろん、美濃焼の産地だからこそ実現できているのだと知り、この地域の、技術力の高さや、豊富な技術や資源を持つ偉大さを実感しました。

そして、東金さんの作品にかける情熱に胸をうたれました。
「大切にしてあげたいと思われる作品を作りたい。だからこそ、時間をかけて作ることに怠りたくない。」と語っていました。
魅力的な器の裏には、手間と情熱がありました。

次の目標は、「パリコレのモデルさんにこの美濃焼のティーカップを持ってランウェイを歩いてもらい、世界中の人に知ってもらうこと!」だという東金さん。
力強く語る東金さんに、私自身、勇気とパワーをもらいました。