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マチコエ 動く歩道、歩くの?止まるの?

2023年3月2日

みなさんが日常で感じる「疑問」や「不思議」をもとにNHK名古屋が徹底取材する新コーナー「マチコエ」。
第2回は「動く歩道」についての疑問。
とことん調べてみました。

(NHK名古屋 記者 吉川裕基)

今回、質問をいただいたのは、三重県四日市市の「うさみみ」さんです。

ありがとうございます。

「セントレアの『動く歩道』は歩くべきなの?立っているべきなの?」

うーん、考えたこともなかったです。私ならどうするだろう。

私も学生時代は、よく海外旅行に出かけていましたが、たしかあの時は・・・
歩いていた?ような気がします。
記憶ははっきりとしません。

まずは現場を確認してみないことには始まりません。
中部空港で調べてみました。

中部空港にはターミナルと駅を結ぶ通路などにあわせて59機の動く歩道があります。

動く歩道の周りを見てみると、いくつかの注意書きが。

「子どもは遊ばせないで」
「服の裾の巻き込みに注意」

日本語だけでなく、英語や中国語、韓国語なども。

でも、肝心の歩いていいのか、ダメなのかは記されていません。

空港に訪れた人はどのように利用しているのか。
まずは10人に聞いてみました。

家族で訪れた男性

「きょうは立ってました。動くんで、立っていればいいかな」

ハワイ旅行に行くという女性

「早い。じっとしているよりも歩いた方が早い」

研修旅行に行くという短大生

「荷物を持ったら止まっちゃうけど、持ってなかったら歩いちゃいます」

出張に向かうという男性

「早く移動できるから歩く。どうしても早く移動したい」

意見は分かれますが、どれも理解ができます...。

では、歩いている人、立っている人、どっちの方が多いのか、駅と第一ターミナルとを結ぶ通路にある「動く歩道」で30分間、ひたすらに利用者をカウントしてみました。

結果は歩く人、156人。立って乗る人、123人。

「(記者の心の声)うーん、そんなもんか...」

正直、驚きはありませんでした。

ここまで来れば、とことん調べつくしてみよう!

動く歩道のタイム、計ってみた

利用者のインタビューでよく耳にしたのが、「歩いた方が早い」ということば。

じゃあ実際、どれくらい早いんだろう・・・。

インターネットで検索をしても、どうやら誰も調べていません。
空港の管理会社の担当者に聞いてもわかりませんでした。

これは自分で調べるしかないか...。

屋外の立体駐車場から第一ターミナルの入り口までのおよそ500メートル。

①「動く歩道を立ち止まる」
②「動く歩道を歩く」
③「いっそ、側道を歩く」

この3パターンのタイムを計測することにしました。
手ぶらにスーツ、ビジネスシューズという格好で臨みます。

まずは、①「動く歩道に立ち止まる」。

まず感じたことは、「寒い」。
駐車場からターミナルまでのほとんどが、屋根はあるものの風が吹き付けてくる。
手がかじかんで、早く暖かい場所に行きたい...という思いが増してきます。

そして、動く歩道は思っていたよりもゆっくり動く。

腕を組んで「寒いな~」と考えてきた時、足元に衝撃を感じました。
キャリーケースを持って走る人に追い抜かれたのです。
バランスを崩して思わず手すりをつかみました。

「危ないな、こんなにも衝撃があるのか」

体が不自由な人だと転んでしまうのではないかと感じました。

タイムは「12分20秒」。

続いて、②「動く歩道を歩く」。

動く歩道の上を歩くと不思議な感覚にとらわれました。
ゆっくり歩いているのに、摩擦が少なくいつもよりも早い。
学生時代、いくら練習してもできなかった「ムーンウォーク」ができるようになった気分です。

空港ということもあって、動く歩道上にも大きな荷物を持った人がいます。
その時は、歩かずに立ち止まることにしました。

結果は「5分51秒」。半分ほどの早さで着きました。

「けっこう、早いな」。

そう感じましたが、立ち止まっている間に、側道を歩く人に追い抜かされたこともありました。

最後に、③「側道を歩く」。

距離は500メートル。
空港内での移動ということを考えると、近いとは言えない距離です。

実際に歩いてみると、途中で立ち止まることはなく、スムーズに歩くことができます。

結果は「5分14秒」。

意外にも、一番早かったのは「側道を歩く」でした。

ただ、今回は手ぶら。
キャリーケースなど大きな荷物を持っていると疲れるだろうなと感じました。

《記者の取材メモ》

今回、動く歩道の"設定速度"についても調べました。動く歩道やエスカレーターなどの安全を呼びかける日本エレベーター協会によりますと、認められている速度は傾斜の程度によっても違うのだそう。たとえば、「傾斜が8度以下」なら、毎分50m以下(時速3キロ)、「傾斜8度以上15度以下」なら毎分45m(時速2.7キロ)と、国の告示で決まっているそうです。

『動く歩道』のルールはあるの?

動く歩道にルールはあるのか、空港を管理する会社に見解を聞いてみました。

すると、これまでは明確なルールとしては示していなかったとのことですが、今回の「うさみみ」さんの質問をきっかけに、社内で検討して回答してくれました。

返ってきたのは。

中部空港会社 ターミナル運用・CS推進グループ 友 ゆりあ マネージャー

「歩かずに使っていただくことを想定して作っておりますので、基本的には立ち止まっていただくことと、安全のために手すりを持っていただくことを推奨しています」

その理由については・・・。

《理由①》

そもそも設置の目的が"早く移動すること"ではなく、足が不自由で移動が難しい人の負担を減らすことにあるため。

《理由②》

激しい振動が起きた場合、緊急停止して事故につながる危険があること。

《理由③》

止まって乗っている人がプレッシャーを感じるおそれがあることでした。

中部空港会社 ターミナル運用・CS推進グループ 友 ゆりあ マネージャー

「時間をすごく気にされるお客様は多いので、ついつい歩いてしまうことがあると思いますが、歩行が可能な方は横にも側道があるので、そちらをご利用いただく方が安全だと思います」

動く歩道だけでなく・・・気になる場所を調査!

『セントレアの動く歩道は歩かずに使う』

「うさみみ」さんの疑問への答えは以上のような結果でした。

さてこれで解決は出来たのですが、実は個人的に「歩く」「歩かない」を巡って気になることがあり、追加で調べてみました。

それはエスカレーターです。
名古屋市は2月議会で「エスカレーターは立ち止まって利用すること」を義務化する条例案を提出し、ことし10月の施行を目指しています。
施行されれば埼玉県に次いで全国で2例目、政令市では初めてです。
条例案では罰則はありませんが、名古屋市内すべてのエスカレーターで右側・左側に関わらず立ち止まらなければなりません。

去年8月から久しぶりの電車通勤となった私も、毎日エスカレーターを使っています。

生まれてから学生時代までは、近畿地方。
エスカレーターは右側に立ってきました。
名古屋では、左側に立ち、右側を空ける風景をよく見ます。
私もそれにならい、左側に立つ日々を送っていますが、時折歩く人の姿も見られます。

よくよく駅を観察してみると、注意を促すポスターやアナウンスで「立ち止まって」「歩かないで」と注意を促しています。

条例ができることについて、名古屋の人たちはどう思っているのか、聞いてみました。

19歳男性

「注意の張り紙がたくさんはっているけど、変わってないから、条例ができても変わらないかな」

44歳男性

「良いことだと思う。僕は体にまひがある。どちらかの手すりにしかつかまれないので、歩かれると振動が伝わって転んでしまう。慌てないでゆっくり乗ってほしい」

実は、名古屋市では過去に大きな事故も起きています。
15年前、名古屋市営地下鉄の久屋大通駅で上りのエスカレーターが急停止し、14人がけがをしたのです。

事故は今も平均すると3日に1回以上は起きています。

市によりますと名古屋市内で発生したエスカレーターが関係する事故が、2021年度だけでも、133件起きているということです。

条例をつくる狙い、市の担当者に聞きました。

名古屋市 消費生活課 倉 豊 課長

「毎年事故、乗り方不良の事故が多く起きている。エスカレーターが危険な乗り物であるということをまず知ってもらいたい。立ち止まることが条例で義務化されるのかと知ってもらうことが、市民への大きなアピールになるんじゃないかと考えている」

なぜ、片側空けが習慣に?

しかし、そもそもなぜ片側を空けて乗る慣習が広まったのでしょうか。

諸説あるようですが、今回はエスカレーターを研究して17年という文化人類学者、江戸川大学の斗鬼正一名誉教授に聞きました。

江戸川大学 斗鬼正一名誉教授

高度経済成長期、動く歩道とエスカレーターが導入された大阪のある駅で「片側を空けるように」というアナウンスがあった。

さらにエスカレーターはバブル期以降に全国で大幅に増えたが、当時の時代背景もあり「早いことは良いこと」という価値観が"片側空け"の習慣の広まりにつながったのではないか。

ということでした。

どうする!片側空け問題!ヒントは・・・

私自身もこの取材を始めてから、意識的に右側に立とうとしています。
ですが、どうしても後ろが気になってしまい、「健康のため!」と自分に言い聞かせるように階段を歩いてしまいます。

名古屋市の地下鉄では、15年前の事故をきっかけに、職員が対面での呼びかけも行ってきました。

ですが、エスカレーターで歩いている人を減らすのには苦労しているとのことでした。

ではどうすれば歩く人を減らすことが出来るのか。
ヒントになる取り組みはないかと、全国の研究事例を調べると、文京学院大学が興味深い実験結果を示していました。

それはエスカレーターの持ち手の部分に「ぎゅ」と書くこと。

「立たないで」という直接的なメッセージの代わりに、思わず手すりを握ってみたくなるようにすることで立ち止まることにつなげようという狙いだそうです。

さらにもう一つはエスカレーターに"足跡"を記した実験です。

この実験は東京の六本木ヒルズで行われ、歩く人の割合が半分になったということです。

みなさんの疑問、お寄せください!

あらためて調査結果をまとめると、動く歩道もエスカレーターも「立ち止まって乗るべき」ということでした。
今回、「うさみみ」さんからの疑問をきっかけに、身近な問題を取材することができました。ありがとうございました。
これからも、寄せられた皆さんの声のなかから、私たちで取材できるものを調べていきます。
「これってどうして?」「調べてほしい!」という疑問がありましたら、ぜひ声をお寄せください。

筆者

吉川裕基 記者(NHK名古屋放送局)

盛岡局、岐阜局を経て2022年から名古屋局
ふだんは教育分野を担当