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漆喰塗り 技術をつなぐ思い ~北名古屋市~

ニュース特集

2022年9月27日

みなさん「漆喰(しっくい)塗り」って知っていますか?
東海地方には多くのお城が残されていますよね。お城や蔵で見かける白い壁、それが「漆喰塗り」なんです。その道一筋60年の職人の男性が北名古屋市にいます。担い手不足が深刻化するなかで、伝統を守りつつ、いまに伝えていく活動を始めています。

知ってほしい!漆喰の魅力

今月、北名古屋市で開かれた体験講座。職人から伝統的な漆喰の塗り方を教わることができる市主催の講座で、地元の小学生など13人が集まりました。

講師を務めるのは、北名古屋市に住む、長谷川敬郎さん(79歳)。60年にわたり漆喰塗りに携わってきた、生っ粋の職人です。

参加者

「人生初です。学校の絵の具とかと同じような感じかなと軽く考えていたけど全然重いし違って難しいなと」


長谷川さん

「お城で職人がみんなそろって塗る、あれだけ塗るにも大変だから、そういうことを少しでもわかってもらえれば」

講座を企画した、北名古屋市生涯学習課の児玉隆希さん。長谷川さんの熱意と「漆喰塗り」に魅了された1人です。

児玉さん

「日本の伝統や文化を学ぶっていうとすごく堅苦しいなと思われるかもしれませんが、皆さん本当に楽しそうで。本物の道具を使って、自分の手で漆喰を塗ってみるという、貴重な機会になったのではないでしょうか」

漆喰ってすごいんです!

漆喰は、石灰やのりなどを原料とした塗料で、その高い耐熱性や耐久性から、古くから建物の壁や屋根などに使われてきました。世界的に見ると、紀元前エジプトのピラミッドや古代ギリシャの絵画にも使用されるなど、とてつもない歴史を持っています。日本では、高松塚古墳から漆喰の絵画が見つかり、飛鳥時代には建物にも使われ始めたとされています。歴史の中で大活躍してきたんです。

みなさんの身近では、国宝に指定されている犬山城や、重要文化財の名古屋城の西北隅櫓などの白い壁が漆喰塗りなんです。

その両方の修復を担うなど、全国の歴史的な建造物の修復を数多く手がけてきたのが、長谷川さんです。その功績が認められ、3年前には黄綬褒章を受章しました。

長谷川さん

「親父が生きていたら見せたいなとね。本当に家内と涙が出ました」

明治40年創業の左官屋の長男として生まれた長谷川さん。迷うことなく3代目を継ぐことを決めたといいます。

長谷川さん

「自分の親父がやってたし、自分は長男じゃないですか、それと同時に、その当時は職人の弟子が5、6人おったもんで、なんとなく継ぐもんだというように、すっと(この世界に)入っていった」

長谷川さんの"家宝"

漆喰を塗るのに欠かせないのが「コテ」。塗る面積や場所によって使い分けるので、長谷川さんが使うコテの数は、なんと50種類以上です。なかにはこまかな細工に使う指1本分くらいの小さなものもありました。

傷んだりさびたりしても決して捨てず、その部分を削りながら、大切に使い続けてきたといいます。

長谷川さん

「これが祖父のコテで、こっちが親父のコテ。自分のはほとんどなくて、昔に作られたものを手入れしてずっと大切に使っている」

その証拠に、持ち手の部分には親子3代で違う「焼き印」がついています。明治に開業した祖父の代から数えると、古いものでは100年以上長谷川家を支えてきたまさに"家宝"とも言えるものです。宝石を扱うかのように、丁寧にコテを取り出していた長谷川さんの姿は、今回の取材でもとても印象に残る場面でした。

減りゆく需要と職人

季節などによってのりの配合を変えるなど高い技術が必要で、乾くまでに1週間かかることもある漆喰。短い工期で仕上げる住宅が主流となっている今、「漆喰塗り」の需要は年々減っています。

さらに深刻なのが、担い手不足です。1人前の職人になるためには、少なくとも5~6年の下積み期間が必要だという長谷川さん。職人を志す若者は多くないといいます。

長谷川さん

「ある程度の歳になると覚悟はしていたから、俺一代だと。できるだけ早く単価の安いもので建てたいという時世だからね。本来の壁とか仕事ぶり、そういうものがだんだん消し忘れ去られる」

長谷川さんは3年前、現場での仕事を引退。代々受け継いできた左官屋も、たたむことを決めました。

コテは教室で生きていく

第一線を退いた自分にできることはないだろうか。そう考えた長谷川さんが自宅で始めたのが、漆喰塗りの体験教室です。

月に一度開かれる教室には、長谷川さんを慕う地元の人たちの姿が。皆、真剣なまなざしで「漆喰塗り」に没頭していました。

参加者

「長谷川さんにお会いして、漆喰塗りの話を聞いて、それから興味を持っちゃって色々調べたりして。伝統とかを私たちの世代で色々できるので楽しいです」

長谷川さん

「皆さんに漆喰の良さとか知ってほしいなと。これやってもらうとお城を見に行ったり、お寺さん見に行って、白い壁を見たときに『あっ、私たち漆喰塗ったがね』ということを、たとえこの中の1人でも、口に出してくれたらやったかいがあるなと思ってさ」

現場を離れても長谷川さんの背中を押し続けているのは「漆喰塗り」を後世に伝え継いでいきたいという思い。その思いとともに長谷川家のコテは、教室で確かに生き続けていました。

伝統文化を守るということ

取材中、たくさんのお話を聞かせてくださった長谷川さん。「『漆喰』の需要が減っていくのはやむを得ないけれど、文化財だけは、どうにか守ってほしい・・・」。少し寂しそうな表情を浮かべながら話す姿がとても印象に残っています。時代の流れとともにわれわれの生活様式も徐々に変化していきますが、一方で、今を生きる私たち1人ひとりが、まずは古きよき日本の伝統文化を知ること。それが、大切な建造物を後世まで守り、受け継いでいくことにつながるのではないかと感じました。

筆者

山下理華 記者

令和3年入局
名古屋局で警察取材や行政取材を経験し、現在小牧支局で地域の取材に取り組む