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なぜ?滞る火葬

2022年8月26日

"身寄りがないまま亡くなった人の遺体が、長期間火葬されないままになっている"。
ことし2月、名古屋市で、亡くなってから3か月以上たっても火葬されなかったケースが19件確認されたことが明らかになった。人の尊厳に関わる問題がどうして起きたのか。原因や課題、そして、今後の改善策を取材した。

驚きの発表

2022年2月、名古屋市の監査委員が驚きの報告書を公表した。
内容は「身寄りがないまま死亡し、3か月以上火葬されなかった事案が19件確認された」というもの。このうち9件については1年以上手続きが滞っていたとして、市が担当していた職員を処分して陳謝した。中には、3年以上、火葬されないまま、葬儀会社の冷蔵庫に保管されていたという、にわかには信じがたいケースも。
監査委員は「故人に対する礼意を著しく欠き、市民からの信頼を失墜させる極めて不適切なもの」と厳しく指摘し、必要な手続きを迅速に進めるとともに、再発防止のための対策を取るよう勧告した。

(問題発覚を受けて会見する名古屋市の担当者)
法律の規定は?

そもそも、身寄りがない遺体の取り扱いについて、法律ではどのように定められているのか。「墓地、埋葬等に関する法律」の第9条第1項には次のように規定されている。

"死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない"。

これにしたがって各自治体では、警察や病院から身寄りがないとみられる人が死亡したという連絡を受けると、法定相続人にあたる親族がいないか調査を始める。相続人が見つからない場合は火葬を行い、相続人が見つかった場合は、遺体を引き取る意思がないか確認したうえで、火葬を行うことになる。

なぜ時間がかかった?

ポイントとなるのが、この意思確認だ。
名古屋市では16区に分かれた各区役所が手続きを担当している。
遺体の引き取り手がいないか、まず行うのが法定相続人の調査だ。両親や祖父母、子や孫など親族がいないか確認するために戸籍を調べ、遠方に住んでいることがわかった場合には、その自治体から戸籍を取り寄せる。
そして、調査で明らかになった法定相続人に対して、遺体を引き取る意思がないか文書などを送って確認をする。名古屋市では、今回の問題が発覚するまで、独自に定めた手引きで「意思確認を行う対象をすべての相続人」としていた。そのため、相続人が多い場合には、確認する対象が20人に上る場合もあった。また、意思確認を行う回数について明確なルールがなく、区によっては文書で3回にわたって意向を尋ねていたこともあり、手続きが長期化する大きな要因となっていた。

さらに、手続きを行う区役所の態勢にも問題が。区によっては、担当者が1人だけで、上司や市が手続きの進捗を把握していないケースもあることがわかった。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大で対応に追われたことも、手続きが長期化した原因だという。

改正した手引きは

こうした事態を受け、名古屋市は、7月、身寄りがない遺体の取り扱いについての手引きを改正し、8月には各区の担当者に向けた研修会を開いた。手続き上、大きく変更されることになった点は2つだ。

① 「手続きの迅速化・簡素化」
まず、死亡の連絡を受けてから原則1か月以内に火葬を行うと、手引きに明記した。この1か月の間に、親族がいないか調査し、遺体を引き取る意思を確認する文書を送り、2週間以内に連絡がなかった場合は、引き取る意思がないと判断して火葬することにした。また、意向を確認する対象も、配偶者とそれ以外の最も順位の高い法定相続人に絞った。
火葬を速やかに行うことにした一方、火葬後も遺骨の受け取りについての意向確認は続けるとしている。

② 「複数人で進捗をチェック」
次に、担当者任せになっていた手続きの進捗を、複数の職員で確認できる仕組みも導入した。今どこまで手続きが進んでいるのか、サーバー上で共有し、うまく進んでいない場合には、市が支援することになる。

名古屋市区政課の後藤浩一課長は、手引きをもとに、再発防止に努めると強調する。

後藤浩一課長

「事務の軽減を含めて、手引きを見直した。故人への敬意を持って、市民の信頼に応えられる事務を行っていきたい」

増え続ける身寄りのない遺体 不安を語る市民も

名古屋市では、身元がわかっているのに引き取り手がいない遺体の火葬件数が、2020年度までの5年間で、2倍近い160件まで増加した。市は、今後も増える可能性があるとしている。
2月に問題が発覚したあと、市には「自分も身寄りがないまま、死んでしまったらどうなるのか」と心配する電話が複数かかってきたという。遺体が丁寧に扱われるかどうかは、人の尊厳にかかわる問題だ。誰もが不安なく死を迎えられるように、市には丁寧な対応が求められる。

筆者

豊嶋真太郎 記者(NHK名古屋放送局)

2019年入局
横浜局、小田原支局を経て、2022年8月から名古屋局。現在は、名古屋市政を担当。