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"アイドル"の力で防災を身近に

2022年3月24日

若い世代の防災意識をどう高めるか?東日本大震災から11年となるこの日、名古屋市内であるフリーペーパーの配布が始まりました。これまでにないアプローチで、若者の心に訴えようとしています。

名古屋市内のカフェ。若い女性が熱心に読んでいるのは、災害への備えについて紹介する無料の冊子。
表紙や中身には、アニメのキャラクターが描かれています。

彼らはいわゆる「二次元アイドル」。
プロデューサーとなってアイドルを育成するゲームの登場人物たちです。
男性3人組で、それぞれが「元自衛官」「元警察官」「元消防士」という設定です。
防災にかかわりの深い経歴があることから、啓発役として白羽の矢が立ちました。

このゲームで長年遊んでいるという女性は「ファンとして光栄です。自分の好きなキャラクターが、リアルの世界とつながって、防災や防犯につながっていくならすごくうれしい」と話していました。

フリーペーパーを作ったのは、名古屋市内で活動する消防団員などの有志が立ち上げた団体です。
代表の進藤直樹さんも、市内の消防団で長年活動してきました。

住民向けの防災講座などを行ってきましたが、若い世代に啓発が届かないとジレンマを感じていました。
進藤さんは「"防災"と書いてあるだけで、"私とは何か違う分野のこと=役所や地域のそういう担当の方がやること"だと感じてしまう。"このキャラクターたちが話してくれること"であれば、自分事として感じてもらえるのではないか」と狙いを語ります。

冊子の内容も、若い世代、特に女性の関心を引くよう意識しました。
例えば、水や食料などの備蓄品を入れる容器は、部屋になじむデザインのものを紹介。
カバンに入れておくと役立つもののリストには生理用品も記されています。
さらに、元警察官のキャラクターが"避難所での性被害"について注意を呼びかけるなど、キャラクターの特徴を生かしながら、自ら身を守る方法を提案する内容になっています。

進藤さんたちの団体「ナゴヤ防災サミット」では、この冊子を1万部作成。
名古屋市内の飲食店のほか、警察署や消防署にも配置します。
また、ホームページでダウンロードすることもできます。
進藤さんは「きっかけは何でもいいから、ゼロからプラス1に踏み出してもらう。そんな後押しができればということで、この冊子を作りました。特に、このキャラクターのファンである、若い女性が手に取っていただきたい」と話します。

ファンにとっては、こうしたキャラクターは「独立した人格を持った存在」とのことです。
そのため、「この人の言うことなら聞いてみよう」という意識が働き、深く心に刺さる啓発となります。
深く心に刺されば、それをSNSなどを通じて周りに広めようという動きにもつながる。
若い世代の防災意識を高めるための、新たなアプローチです。

筆者

田中逸人アナウンサー(NHK名古屋放送局)
平成17年入局
高知放送局などを経て18年春から名古屋放送局へ
オタクを名乗るにはおこがましいレベルですが、割とアニメは見ます。
学生時代は"ファンタジー小説を多数出版している某文庫"にお世話になりました。