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どうなる円安②~金型メーカーの新たな一手~

2022年12月14日

円安で大変なら、本業"じゃない方"で頑張ればいい。こんな発想で大胆な経営改革に乗り出した自動車部品の金型メーカーがある。急速な円安は企業にコストアップを突きつけ、利益を大きく圧迫した。しかし、それは同時に自社の事業や原材料のあり方を見直すきっかけも提供したようだ。「金型じゃないものは何でもやる」。こう語る社長が立ち上げたのは「じゃない方事業部」。記録的円安は会社の行く末を見つめる経営者にどんな変化をもたらしたのか。

(NHK名古屋 記者 玉田佳)

悩みの種は"ニッケル"

私が訪れたのは愛知県江南市の金型メーカー「KTX」。車のダッシュボードなどの内装部品をつくるための金型を製造している。名古屋局の経済取材チームでは、たびたびこのメーカーを取材してきた。新型コロナウイルスによる海外取引への影響、TPP交渉、アメリカ大統領選挙でトランプ氏が当選・・・経済情勢が大きく動くたびに取材を申し込み、事業への影響を尋ねてきた。10年以上前の「円高局面」の際に、輸出への影響を取材したこともあった。いわば東海地方の主要産業である「ものづくり」の動向をウオッチするため、私たちが定点観測してきたメーカーなのだ。そんなこのメーカーが今の記録的円安でどうなっているのか・・・。この会社の強みは、他社がまねすることが難しい世界有数の成型技術。形状や表面の凹凸をナノレベルまで再現できる技術が買われ、国内外の大手自動車メーカーから安定的に受注を獲得してきた。業績はもちろん黒字。しかし聞いてみると、やはり悩みはあった。金型を作るのに欠かせないレアメタルの高騰だった。

特に値上がりが著しいのがニッケル。多い時でひとつの金型に1トンも使うほど大量に購入している主原料だという。JOGMEC=エネルギー・金属鉱物資源機構によると、ニッケルはEVバッテリーの需要の高まりやロシアのウクライナ侵攻の影響などで、もともと価格が上昇傾向にあった。加えて、ほぼすべてを海外からの輸入に頼っている。「KTX」でも商社を通じてフィリピンからニッケルを輸入しているが、円安の進行で値上げに拍車がかかったという。仕入れ価格はこの1年で2倍に増えたそうだ。だが、自社だけ製品の値上げに踏み切れば、ライバル企業に受注を奪われるおそれがあるため、十分な価格転嫁はできないのが現状だという。

金型"じゃない方"を強化

コストアップが利益を圧迫する状況に直面した社長の野田太一さん。決断したのは"金型頼み"の経営からの脱却だった。

野田太一社長

「会社経営は従業員と家族を守らないといけないので、あらゆる視点で先取りしていく必要がある。経営的には金型一本足で行くよりも、いろんなところに足をついてた方が安心感があるんです。もう自分たちで殻をつくらずに、とりあえずなんでもやってみようと思った」

こうして始まった大胆な経営改革。その鍵を握るのが、去年4月に設立された「じゃない方事業部」だ。金型"じゃない"製品を扱うから「じゃない方事業部」。担当社員の名刺にもはっきりと印字された正式な部署名だ。もともとは事業の多角化を模索する中で5人でスタートしたが、円安によるコストアップが進む中で体制を大きく拡充。「金型じゃないものは何でもやる」という方針のもと、次々と新製品を開発しているという。

いくつか商品を出してもらった。机に並んだのは純金の仏像、蓄光パネル、水害の際に建物への浸水を防ぐ止水板など。ジャンルはさまざまだが、これらの製品には共通の特徴がある。それは本業の金型製造の技術が生かされていることと、「円安の影響を受けにくい素材」を使っていることだ。

例えばこの蓄光パネル。日中に光を蓄え夜間は電気を使わずに発光する。非常口などをわかりやすく示し、災害時に迅速な避難誘導を行うための設備だ。このパネルのメインの原材料はシリコン。金型製造の工程で型をとるのに使われる素材だという。材料の取り扱いに慣れていたことに加えて、ニッケルなどの金属に比べて、値上げ幅が少ないことから目を付けたという。また止水板の原材料はアルミ。こちらもニッケルに比べると仕入れ価格を抑えることが可能だということで製品化に踏み切ったそうだ。

野田太一社長

「円安で原材料の考え方はだいぶ変化しました。今までは輸入すればいいやと気安く考えていましたが、簡単に輸入に頼っちゃいけないと思うようになった。輸入品だったら、材料費が高いんじゃないかと。円安下では、なるべく国内で調達できるものを駆使してものを作っていきたい。あるいは材料比率を減らせるものを作っていきたい」

現在は会社の収益の1割を担うまでに成長した「じゃない方事業部」。商品の企画から営業までを担うメンバーたちは、実はほとんどが金型事業部出身の元技術者たち。社長自らが製造現場を回ってスカウトしてきた。5人しかいなかったメンバーは今では35人にまで拡大した。しかし、金型一筋でやってきた職人たちは、こうした配置転換に抵抗はなかったのだろうか。12年にわたって金型の樹脂モデルの製作を担当していたという男性社員に尋ねると、異動が決まってから現在までの心境の変化を次のように語った。

堀口洋平さん

「職人一筋でやってきたので、新商品をゼロから生み出すアイデア出しなど自分にやっていけるのかという怖さがあった。しかし、いざ形になれば達成感があるし、これまでのものづくりのノウハウも生かせていると感じている」

野田社長はさらなる収益拡大に向けて「今後は医療機器やデジタルサイネージなどの分野でも商品開発を手がけたい。金型事業で培った販売網を生かしながら海外展開も目指していく」と今後のビジョンを語った。そして、野田社長は「愛知県は日本の製造業の一大拠点なので、こちらが大きな影響を受けると日本全域でよくない影響が出るのではないかと心配している。中小企業はコスト高を吸収する体力が少ないから、このまま円安が続けば、本業とは別に何か始めようという会社は増えてくると思う」と付け加えた。会社と雇用を守らなければならない経営者が先見性を持って下した決断。円安によるコスト高に悩む製造業にとってヒントとなるのか。またこうした動きが広がったときに東海地方のものづくりはどのように変化していくのか。名古屋局の経済担当記者としてウオッチを続けていく。


特集記事「どうなる円安①~聞こえてきた経営者の切実な声~」もチェック

◎12月16日(金)放送「東海 ドまんなか!」テーマは"どうなる円安"

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筆者

玉田佳 記者(NHK名古屋放送局)

長崎局を経て2022年から名古屋局で経済取材を担当