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どうなる円安①~聞こえてきた経営者の切実な声~

2022年12月14日

ことし私たちの暮らしを直撃した"円安"。10月には1ドル=150円を超え32年ぶりの水準を更新した。輸出立国の日本、とりわけ輸出産業が集積する東海地方にとって「円安」はどちらかと言えば「歓迎すべきもの」と語られてきた。しかし、ことしの「新語・流行語大賞」では「悪い円安」がトップテン入り。値上げラッシュを招いたことが影響したのだろう。今、円安は悪者扱いである。東海経済にどのような影響が広がっているのか。今回私たちは民間の信用調査会社「帝国データバンク」のヒアリングに同行。企業を回って経営者の生の声に耳を傾けることにした。

(NHK名古屋 経済キャップ 野口佑輔)

「価格転嫁は難しい」あるパンメーカーの場合

「1年間で4回の値上げがあるんです。そんな物価の上がり方ってまずない」

こう語ったのは、名古屋市中川区にあるパンの製造メーカー「カメリヤ」の専務。喫茶店や飲食店のほか、給食として学校や老人ホームにもパンを卸している。しかし、円安の加速でパンの製造に必要な油脂の価格がこの1年で4回も上がったという。1度の値上げで20~30%上がることもあり、去年に比べて仕入れ価格は2倍近くに上昇。ほかにも、主原料の小麦粉やパンの包装に使うフィルムなど、円安の影響を受けて輸入のさまざまな原材料が値上がりしたのだそうだ。当然、これだけコストアップが重なれば、値上げを決断しなければ経営は立ちゆかなくなる。しかし柳匡人社長は、原材料価格がこれだけ上がるなかでも、商品価格に転嫁するのは容易ではないと苦悩を打ち明けた。

柳匡人社長

「輸入小麦の政府売り渡し価格っていうのがありまして、今まで半年に1回の改定でしたけど、小麦粉が上がるのを防ごうということになって、政府が補助を出してくれるのかなと思ったら、そうではなくて、今回の10月の改定が見送られた。そうなると、パンの値段が上げられないんですよ。大手さんが上げないので。だけど油脂だとか副材料はものすごい上がってきているので、本当は値段を上げたいですよ」

大手パンメーカーなど競合他社との競争が激しい中、小麦の価格が据え置かれたことで、逆にパンの価格を上げられなくなるという皮肉な業界事情。自社だけパンの値段を上げると、別のメーカーに切り替えられる可能性もあるという。以前、円安とは別の理由でパンを値上げした際、ある取引先からパンの購入量を減らされたことがあったそうだ。その会社は老人ホームや病院に給食を提供していたが、主食をパンから値段が安い「ご飯」に変更したと説明されたという。大口の取引先だけに経営に与えたインパクトは大きかったという。

柳匡人社長

「電気料金やガス料金なども含めてコストは全部上がり、どんどん赤字額が膨らんでいる。かと言ってパンの単価は上げられない。お先真っ暗だなと。このままでは、近いうちに会社の経営を維持できなくなるかもしれないという危惧があります」

何とか状況を打開しなければならない。このメーカーでは、これまではパンの配達業務を外部業者に依頼していたが、コスト削減のためことしから外注をやめたのだそうだ。代わりに、柳社長が自ら毎日トラックのハンドルを握っているという。新たな収益源にしようと、冷凍ピザのオンライン販売なども計画しているそうだ。

「人手不足も招く」繊維メーカーの懸念

次に訪れたのは愛知県一宮市。伝統産業「尾州織物」の一大産地だ。多くの繊維メーカーが集積しているが、調査員とともに足を運んだのは服の生地を製造・卸販売する「ササキセルム」。対応してくれた佐々木久直社長が円安の影響としてコストアップ以上に力を込めて訴えたのは「人手不足」への懸念だった。

佐々木久直社長

「繊維産業は人の手による作業が必要で、ベトナムなど外国から来ている人も多く働いている。しかし、円安によって、彼らの自国への送金がすごく少なくなっている。そういううわさは一気に広がります。例えばベトナムから来ている人は、それだったら日本ではなく隣国のタイで働く方がいいということになる。陸続きで行きやすいので。結果、日本に働きに来る外国人が少なくなるというのが、今から起きようとしていることではないか。円安はものすごい直撃打です。今いる人の送金がもう遅れているので。『こんな困っているよ』と言ったら、次の人は来ないですよ」

ベトナムなどからは、働きながら技術を学ぶ技能実習生が日本に多く訪れている。給料を自国の家族に送金している人も多い。しかし、円安のため、換金したときの金額が目減りしてしまうので、こうした人たちが別の国に流れてしまうというのだ。

佐々木社長によると、この地域の繊維業界に身を置く技能実習生は多く、取引先でも生地の染色や縫製などの業務に携わっているという。こうした実習生が少なくなれば、当然、この会社が仕入れるはずの生地の生産量が落ち込んだり、納期に間に合わなくなったりする事態も想定される。つまりサプライチェーンに影響が広がるおそれがあるのだ。

佐々木久直社長

「いま外国人が働きに来なくなれば、数年後まで人が少ない状況が続くことになる。それを急激に、じゃあ日本人を雇おうと言っても、簡単にはできません。人材不足は大変難しい問題です」

約6割の企業が"円安はマイナス"

帝国データバンクではことし、企業に円安の影響を尋ねる調査を実施した。愛知、岐阜、三重、静岡の東海4県では、およそ6割の企業が「マイナス」の影響が出ていると回答した。逆に「プラス」と答えた企業はわずか5.6%。今回の円安が企業の経営環境を悪化させていることが浮き彫りになった。担当者は次のように分析する。

帝国データバンク 名古屋支店情報部 丸山昌吾部長

「そもそもコロナによって大きな打撃を受けた企業があるなかで、ロシアによるウクライナ侵攻で燃料価格が上がり始めました。そこに追い打ちをかけるように円安になった。二重三重にいろんなものが重なっていて、従来の円安局面とは違います。

さらに大きな違いは、円安の進行が非常に早かったということ。為替はどうしても振れるものですが、企業の方がおっしゃるのは、やはり急激な変化が一番よくないということ。今回まさに急激に変化したので、対応が後手に回っている部分もあると思います。特に規模の小さな企業さんは、大企業に比べると価格交渉力が弱く、価格の転嫁が進まない実態があります。ほかに削る部分がない中で仕入れ価格が上がっているので、大きな経営課題になっているのは間違いありません。

例えば、少し円高に振れたとしても、今回の円安で上がった資材価格がまたすぐに戻るわけではない。しばらくは続きます。そのため企業への影響はこの先も、半年間とか1年間は続くのかなと思っています」

経営者のリアルな声を聞いて回る中で実感したのは、これまでに経験したことのないコストアップが利益を削り企業経営を圧迫する姿。そして、そこで働く人や取引関係を通じて、サプライチェーン全体が傷つくことになりかねないという現実だった。さらに私たちは東海地方の主要産業"ものづくり"の現場に密着するとともに、厳しい状況に直面する技能実習生たちにも接触。記録的な円安が私たちの地域に何をもたらそうとしているのか。現場のルポを通じて番組でお伝えする。


特集記事「どうなる円安②~金型メーカーの新たな一手~」もチェック

◎12月16日(金)放送「東海ドまんなか!」テーマは"どうなる円安"

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筆者

野口佑輔 記者(NHK名古屋放送局)

経済キャップ。
経済部を経て2020年から名古屋局。