「ただちに高台に避難してください」
大地震が起きたとき、テレビやラジオからこの言葉を聞いた経験はありますか?
「聞いたことある」「もちろんすぐに意味が分かった」
そう思ったあなたにこそ、知ってほしい表現方法があるんです。
(NHK名古屋 リポーター 渡邊晶子)
「高台」ではなく「高いところ」、「避難」ではなく「にげてください」
その表現というのが「やさしい日本語」
簡単な言葉で、短く、わかりやすく伝える日本語のことです。
「ただちに高台に避難してください」と伝えても、「高台」ってどんな場所?「避難」ってなに?と、外国ルーツの人に正確に情報が伝わらないケースが考えられるのです。

では、例えば、「ただちに高台に避難してください」を「すぐに、高い(たかい)ところに、にげてください」と表現したらどうでしょう?意味は変わりませんが、熟語が減って、簡単な文章になりました。
これが「やさしい日本語」に変えた表現です。

ペルー出身で、名古屋市で30年近く暮らす玉城エリカさん。日常会話に困ることはありませんが、災害時独特の言葉を聞いたときは意味がわからなかったと言います。
この、日本語の壁の問題が広く認識されたのが、28年前の阪神・淡路大震災。
日本人に比べ、多くの外国人が被害を受けたことで、避難や支援の情報をわかりやすく伝える重要性が叫ばれました。現在では、災害時の情報に限らず、観光や教育の現場でも広がりを見せています。
実はわかりづらい!「~しないといけない」
現在は、外国人向けに日本語指導のボランティアもしているというエリカさんですが、長年頭を悩ませてきた「やさしくない日本語」の代表を教えてもらいました。それが「~しないといけない」という二重否定の表現。

玉城エリカさん
「"ない"を二回いうと、ありになる。"ない"は"NO"だと思っていたので、今はわかるんですけど、すごく難しかったです。『マイナス(ない)とマイナス(ない)でプラス(あり)になる』と覚えました。(日本語ボランティアで関わる)子どもたちにも、こうやって教えています」
この二重否定、私たちは当たり前のように使ってしまいますが、正しい意味で受け取ってもらうには工夫が必要です。もっと簡単に「出(だ)してください」と表現するだけで、すれ違いも減っていくだろうとエリカさんは話してくれました。
やさしい日本を広めたい 名古屋の「やさしい日本語劇団」
こうした文化や言葉の壁に気付いてもらおうと、エリカさんは市民劇団でも活動しています。
名古屋市の「やさしい日本語劇団」です。外国ルーツを持つ人たちを含めた、ボランティア20人が所属。今年で結成から5年を迎えます。
劇団が演じるのは、日常に潜む思い込みやすれ違いの場面。コミカルな音楽とともに、2~3分のコント形式で披露しています。自分のこととして、やさしい日本語について考えてもらうきっかけを作ろうとしているのです。




やさしい日本語劇団代表 椿佳代さん
「エリカさんたちの体験とか、周りの外国人から聞いた話をもとに、みんなで台本を作っています。作品の数は20~30本くらい。日本人特有の考え方などに気づく場にしたいと思っています」
では、私たちが、やさしい日本語で表現したいと思ったときにはどんなことに気を付ければよいのでしょうか。
ポイントの一部を伺いました。

やさしい日本語劇団代表 椿佳代さん
「どれだけ相手に寄り添ってコミュニケーションをとれるか。答えは一つじゃないのと、その人にとってやさしいとは何かを考えられればいいと思います。『外国人』ではなく、「エリカさん」と言えるようになれば、優しさも違ってくると思います」
玉城エリカさん
「必要なときに必要な人に届くように、地域の人たちにも使ってほしいです。ただ、なんでもかんでも『やさしい日本語』にしなくてもよくて、言葉だけにとらわれずにコミュニケーションをとってほしいです」
東京に次いで、全国で2番目に在留外国人が多い愛知県。ブラジルやフィリピンなど、母国語が英語ではない人たちもたくさん暮らしています。ただ簡単な単語を並べるだけではない、相手の立場に寄り添った「やさしい日本語」の広がりがこれからさらに求められると感じました。そして、国籍や年齢、障害にかかわらず、コミュニケーションの壁がなくなっていくことを願っています。
やさしい日本語は「NEWS WEB EASY」でも
NHKの「NEWS WEB EASY」では、やさしい日本語で書いたニュースを伝えています。ご活用ください。
筆者

「まるっと!」リポーター 渡邊晶子(NHK名古屋放送局)
2020年度からまるっと!に加入。
防災士として、防災・減災に関わる地域の取り組みを取材してきました。
たくさんのネイバーズさんと出会い、「やさしい日本語」で伝える大切さを、身をもって感じる日々です。
玉城エリカさん
「すごく難しい言葉です。11年前(東日本大震災のとき)に初めてちゃんと聞いた言葉なので、その時は意味がわからなくてびっくりしました。やさしい日本語にしたものなら、11年前もわかったと思います」