NHK長崎放送局 アナウンサー・キャスター リレー日記

あなたはどう思いますか? "男の子は隊長・女の子は副隊長"  WEB特集

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長崎局 記者 玉田佳

「なんでもかんでもジェンダー差別だ!って思考はよくない」
「キャラクターにそこまで求める?」
「どこが男女差別なのか教えてほしい」
「ずっといるキャラなのに今さらクレーム?」
「らんばちゃんが青い服を着て隊長で、がんばくんが赤い服を着て副隊長だったら
文句言わなかったのか?」

ことし2月、NHK長崎放送局のTwitterアカウントに寄せられたり、
Yahoo!のニュースサイトに投稿されたりした声です。

「長崎県内の8つの女性団体が県のキャラクターの見直しを要望した」というニュースを
長崎の報道機関が伝えたところ反発の声がネット上で相次いだのです。

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【色使いや服装もステレオタイプ的だ】

そもそもどんな要望だったのでしょうか?

女性団体が問題視したのは県の公式キャラクター「がんばくん」「らんばちゃん」です。
女性団体は「男の子のがんばくんは隊長・女の子のらんばちゃんは副隊長」という
男女別の役職の設定は“重大なジェンダー問題だ”と指摘します。

その上で青色の体操着(がんばくん)と 赤色のチアリーダー姿(らんばちゃん)という
色使いや服装もステレオタイプ的だとして見直しや廃止を求めました。

 

【女性キャラクターもいたほうがいいのではないか】

「がんばくん」「らんばちゃん」のコンビは8年前(平成26年)の
「長崎がんばらんば国体」にあわせて結成されました。

「がんばらんば」というのは長崎の方言で「がんばらないと」という意味です。

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まず13年前(平成21年)にがんばくんが誕生します。

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国体開催に向けて県がマスコットキャラクターのデザインを公募したところ、「オシドリをモチーフにしたスポーツ少年」のデザイン案が採用されたのです。
(オシドリは長崎県の鳥に指定されています)

服装や色使いは、今のがんばくんと同じ形でした。

当時の関係者などによると、その後、国体の準備委員会のメンバーから「オシドリ夫婦というイメージにちなんで、女性キャラクターもいたほうがいいのではないか」との意見が出ます。

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そこで県は、がんばくんの考案者にペアとなる女性キャラクターのデザインを依頼したところ、赤いリボンにチアリーダーの姿という「らんばちゃん」が誕生したということです。

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「がんばくん」「らんばちゃん」は、国体終了後は県の広報活動を担う
「長崎がんばらんば隊」として活動することになりました。

そして7年前(平成27年)に、県広報課の考案で
「がんばくんが隊長・らんばちゃんが副隊長」という役職設定が発表されたのです。

この役職を設定する際、男の子のがんばくんを隊長、女の子のらんばちゃんを副隊長とした理由について県広報課は「資料が残っていないため詳しくは分からない」としています。

 

【男女で異なる役職が設定されているのは長崎県だけ】

全国の都道府県で同様のケースはどれくらいあるのでしょうか。

長崎県以外の46都道府県に取材したところ、そもそも自治体全体のPRに活用する
キャラクターがいると答えたのは「35府県」でした。

このうち、メインキャラクターに性別の設定をしているのは「21府県」でした。
それ以外は「性別不明」という設定や、未設定でした。

さらに男女で異なる役職が設定されているのは長崎県だけでした。

 

【「がんばくんをサポートして」の表現は削除】

話を長崎県に戻します。
「がんばくん」「らんばちゃん」は最近になって県議会で取り上げられるようになりました。

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去年9月の県議会総務委員会のやりとりです。

県議
「男の子が隊長で女の子が副隊長という設定について
ジェンダー平等の観点からどう考えるか?」。

県広報課長(キャラクターを所管)
「現時点ではただちにジェンダー平等の問題につながるとは考えていない」


その一方で、この時に変更したのが、ホームページ上のらんばちゃんのプロフィールです。

県議からの指摘を受け、「がんばくんをサポートして」という表現を含む文章が削除されたのです。

これについて県広報課は
「(プロフィール変更と)ジェンダーの問題は関係ない。国体開催当時のプロフィールがそのまま掲載されていたのであくまでも古い情報の整理として更新した」としています。

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県広報課の回答を聞き、私には疑問が浮かびました。

ジェンダーの問題と関係がないならプロフィールは変えなくてもいいのではないか。


さらに去年12月の一般質問では、別の県議が質問に立ちました。

県議
「隊長・副隊長という設定で男性キャラクターが『主』、
女性キャラクターが『従』のような印象を受ける」
「服装の色などが男女の固定観念を助長しているように受け止められる」
「すでにできているキャラクターを変えるのは難しいと思うが、
今後、新しく作るものについては、
ジェンダーに敏感な視点にたってチェックするべきではないか」

回答したのは、ジェンダーの問題を扱う県民生活環境部でした。

県民生活環境部長
「県からの情報発信がこれまで以上にジェンダー平等に配慮されたものとなるよう、
しっかりとチェックしていきたい」。

 

【議論きっかけに女性団体が動く】

こうした県議会の議論がきっかけとなり、県内の女性団体が要望に動いたのです。
要望はジェンダーの視点でキャラクターを見直し、見直しが難しければ廃止を求めるというものでした。

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集まった報道陣の前で、県の担当者は
「県民に定着し、愛されているキャラクターなので、
県民の声を聞きながら慎重に検討していきたい」と回答しました。


これを報道したところ冒頭で紹介した、反発の声がネット上で相次いだのです。

ネットの反応に女性団体は「すれ違い」を感じています。

女性団体代表、黒﨑伸子さん
「役職の設定などにおいて女性がサポート役というニュアンスがあり、それが
無意識の偏見=アンコンシャス・バイアスを生むということを訴えたつもりだったが、
キャラクターそのものを“女性差別だ、女性蔑視だ”と批判しているように捉えられた。
ジェンダー平等の重要性がまだ伝わっていないと感じた」。

一方、黒﨑さんには30件ほどのメッセージが寄せられ、その半数ほどは
「こういう視点があるんだと気づかされた」などと肯定的な意見だったと言います。

女性団体代表、黒﨑伸子さん
「一石を投じることができた。批判のコメントにおびえていたら先に進まないと思う。
女性団体以外とも連携するなどして、引き続き働きかけの方法を考えていきたい」

【長崎県はこういう県なんだ】

「ジェンダー」の専門家はどう見ているのでしょうか。

東京大学大学院総合文化研究科の瀬地山角教授
「男性が隊長で女性が副隊長という設定を行政がやるのは問題。
明確な上下関係を表しており、性別役割分担の問題というより、もはや差別だ」

「名前の呼び方や色使いも問題だ」と指摘する専門家もいます。

早稲田大学文学学術院の村田晶子教授
「正副の役割を男女に割り当てる『役職の差』は当然、問題だ。
『くん』と『ちゃん』という名前の呼び方や色使い、スポーツをする男性と
応援する女性という設定にも典型的な性別に基づく役割のイメージが
反映されていることを公的な機関は再検討すべきではないか」

県の説明責任を指摘する見方もあります。

行政広報に詳しい東海大学文化社会学部の河井孝仁教授
「地域のキャラクターは、ただ面白おかしく作ればいいのではなく、
その地域の特徴や魅力を表すブランドそのもの。
キャラクターを通じて、『長崎県はこういう県なんだ』と
ほかから見られるということを意識しなければならない。
女性団体から要望があった以上、県はどう考えるのかを明確に示す必要がある。
そのためには、SNS上の匿名のコメントだけでなく、
具体的に誰がどんな意見を持っているか、県民の声を幅広く把握することが重要だ」


一方、長崎県は今後、どのように検討を進めていくのか
現時点で具体的に決まっていないとしています。

 

【たかがキャラクター?】

「“女は引っ込んでおけ”と言われるような状況がまだ日本にあるんだったら、
こんな小さいことでもこつこつやらないと変わっていかない」。

取材の中で印象的だった黒﨑さんの言葉です。

ふだんは長崎県内で医師として働く黒﨑さん。

今よりも女性医師が少なかった若手時代、患者から女性に対する偏見と
受け取れるような言葉をかけられることも多かったといいます。

黒﨑さんの言葉からは、次世代の子どもたちに同じ思いをさせたくないという思いが伝わってきました。

ここまで記事を読んでくださったあなたは、どのように思われたでしょうか。

私自身は取材を通じ、「役職は見直したほうがよいのではないか」と感じています。

キャラクターが誕生した当時は大きな問題にならなかったとしても世の中のジェンダーの意識は変化しているからです。

大切なのは県民みんなが「県のシンボルとして最もふさわしいのはどんな姿か」
ということを考え、議論することだと思います。

そして、がんばくんとらんばちゃんの問題で終わらせず、身近な場面でも
「世の中のジェンダーの意識が変わる中、この表現は大丈夫だろうか」と立ち止まって考える人が増えてほしいと思います。

投稿者名:WEB特集投稿時間:08:00

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