NHK長崎放送局 アナウンサー・キャスター リレー日記

「坂道をゆく」⑥  池田 耕一郎

こんにちは。リレー日記「坂道をゆく」の第6回です。この連載は坂道を全身で体感して、長崎の歴史や文化、自然の魅力を探っていこうという、まったく個人的な趣味の企画です。どうぞ、お付き合いください。

第6回 「ブディストの森の坂」

まだまだ残暑が続く長崎ですが、相も変わらず汗をかきかき坂道ライフを楽しんでいます。こうしたなか今回は、緑に囲まれて涼しさを感じる「ブディストの森」の坂をご案内しましょう。この「ブディストの森」は下妻みどりさんの著書、「長崎開港450年めぐり」の取材をきっかけに知りました。

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「長崎開港450年めぐり」によると、「ブディストの森」の名称は長崎を代表する版画家の故・田川憲さんが名づけたそうです。ブディストという響きがかっこいいですね。田川さんのお気に入りの場所であり、多くの友人を案内したそうです。今回はこの本で紹介されているルートをたどっていきます。

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「ブディストの森」は下っていくのがおもしろいです。そこで、今回の坂道はこれまでとは違って下り坂の旅となります。入り口は標高130mほどの風頭公園展望台のすぐ近くにあります。

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では、ブディストの森の坂を下っていきます。けっこうな急勾配なので足元にご注意下さい。あと、この時期はくもの巣もけっこうありますので避けていきましょう。

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「ブディストの森」には古くは江戸時代の頃からのお墓が並んでいます。唐通事という標識がありますが、唐との貿易などで通訳を行っていた役職の方々のお墓です。こけがむして、少しずつ雨風で石が削れて丸みを帯びていく墓石を見ながら、日々の生活とは違う時間のスケールを感じます。

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「ブディストの森」の中を歩いていると一瞬、自分が違う時代に迷い込んだかのようになります。街の様子は見えず、人もおらず、虫の音や木々の葉が風に揺れる音しか聞こえません。時折、聞こえる学校のチャイムの音で、いま現代にいることに気づくといった感じです。

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さらに「ブディストの森」の坂を下りていくと著名な方々のお墓もあります。こちらは、NHK大河ドラマ「青天を衝け」に登場した高島秋帆の高島家の墓地もあります。お墓の門構えが立派ですね。


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門の中に入ると私より一回り大きい墓石が並んでいます。反り返った屋根の形に、どこか異国情緒も感じられます。

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この「ブディストの森」で特に私が好きな場所があります。それがこちら。大小さまざまな仏像が十体以上が一か所に集まって並んでいます。さながら仏様オールスターズといった感じです。


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どういう経緯でこの場所に集められたのか分かりませんが、多種多様な仏様が勢ぞろいしています。つたにくるまれている姿がとてもユニークな雰囲気を醸し出している仏像があります。また、半跏を組んで柔和な表情の仏様や、なぜか閻魔大王の姿もあり、一体一体眺めていると飽きることがありません。

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さて、お墓を巡っていくと多くの方々がこの「ブディストの森」に眠っていることが分かります。そして、そこには悲しみや葛藤があることを知ります。「長崎開港450年めぐり」の著書の下妻みどりさんが以前、取材で案内してくれたとき、次のように語っていました。

下妻みどりさん「(ここに眠っている人の中には)キリスト教から仏教に転宗、転ばなくてはいけなかったわけですよね。そのときに一人一人の胸のうちにはどんな思いがあっただろう。江戸時代の人たちはみんな絵踏みをしていたわけです。だから、ここに眠っている人たちは、みんな踏んでいたんだと、ふと思います」

下妻みどりさん「もともとキリシタンだった人は『はい、わかりました、仏教徒になります』と言った後、年老いて死に際に、病気や痛みで訳も分からなくなったとき、仏様の名前を呼んだだろうか、それともマリア様と呼んだだろうか。長崎って、そういう人たちが作ってきた街なんです。」

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長崎は今年、ポルトガル貿易船が初めて入港して450年の節目です。入港をきっかけに今の長崎市中心部にある「長い岬(なんかみさき)」に6つの町が作られ、キリスト教の布教が行われ、教会が建設され、南蛮と融合した街が形作られていきました。

しかし、江戸幕府は1614年にキリシタン教を禁教にします。そのため長崎の人たちはキリシタンではないことを証明するためにどこかの寺の檀家となる必要性が生まれたのです。

下妻さんのお話を聞いて以来、「ブディストの森」の坂道を歩く度に、長崎の街や人々が抱えてきたものを感じ取るようになりました。



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長崎のお墓では、坂道がまるで迷路のように縦横斜めに続いています。その坂道を迷いながら下っていけば、どこかしら街に出ることができます。そこで、現実の世界に「おかえり」となります。

ちょうど帰りの坂道で下から登ってくる保育園児のお散歩に遭遇しました。この勾配の石段を登ってくる時点でびっくりなのですが、小さな子どもたちが保育士さんに手をひかれて一段一段、大きく足を広げながら登っていました。この子たちが大きくなっても「ブディストの森」はきっと変わらないままの雰囲気なんだろうな、と思いました。

ということで、長崎の「上り坂、下り坂、まさか」。
次の坂道で会いましょう!

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投稿者名:池田 耕一郎投稿時間:13:00

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