はじめに

このドラマを企画するにあたり、今この地域から全国に伝えられることは何かを考えていました。
写真店を経営していた方から、「写真は誰かのために撮ったんだよ」「この地域では家族を記録するための家財道具でもあった」と教えて頂きました。またカメラメーカーで勤めていた方は、衰退の現実に「時代に否定された」と寂しげにつぶやきました。
今、諏訪地域から全国に伝えられることは何か、探していたものが見つかった瞬間でした。

写真を撮ることが身近で当たり前になった今ですが、写真本来の良さは薄れてきているように感じます。
しかし諏訪地域にはフィルムカメラ産業で培われた写真の精神と一時代を築いた誇りがあります。その魅力とともに、産業衰退のやるせなさや哀愁が漂う地方の現実、そういったものが伝わればと思い制作しました。細やかなセリフやエピソードの一部も、地域の皆様から取材して着想を得たものです。

まさに地域の皆様で作ったドラマ。
ぜひその息遣いを感じていただければ幸いです。

地域のみなさまの協力に感謝!!!

ドラマのロケが始まったのは、2019年10月中旬。台風19号が長野県内を襲った直後でした。
比較的台風の被害が少ない諏訪地域でしたが、重要なシーンの撮影を行う予定のボート場に、大量の葦が台風によって押し寄せ、ロケができない状況でした。人が立てそうなほどの深さと広さの葦の塊です。

オールロケで限られた時間の中で行わなければならない地域発ドラマ。スタッフ一同頭を抱えました。
ロケ地を変えることも考えましたがそれも難しく…。そもそも今、ドラマを制作していて良いのだろうかと複雑な気持ちがありました。

そんな中、地元の皆さんが休みなくトラック何十杯分もの葦を必死に運んで整えてくださったのです。そのおかげで、雄大な諏訪湖を背景にした素晴らしいシーンが実現できました。そして、地元の方がここまでドラマに協力してくださっているのだから、私たちも本気で取り組まなければと心を決めることができました。

地元の皆様のおかげです。感謝してもしきれません。

  • ※雄大な諏訪湖のシーンが撮影できました! 

  • ※スワンボートも、なんだか嬉しそう!

エモすぎる?!
ドラマに登場する本物のフィルム写真!

劇中で登場するほとんどの写真は、諏訪地域をはじめとする県内のみなさまからお借りしたものです。
その数なんと5千枚以上、データも含めると1万枚は超えているかと思います。
フィルムカメラで栄えたということもあり、メーカーOBの写真クラブや写真同好会が多い諏訪地域。
何気ない写真でも、非常にレベルが高いのが印象的でした。

スタッフ一同、主人公・裕介のごとく、各シーンで登場する写真を探しました。
最も見つけるのに苦労したのが、「町のざわめき」が聞こえてくるような、商店街がにぎやかだった頃の写真です。
日常は意外と撮らないものだそうです。加えて、「終活で断捨離しちゃったよ」という方も多くおられました。
「去年まではあったんだけどね」というような惜しい状況が・・・。
なんとか見つけた「ざわめき」写真。ぜひ放送でチェックしてみてください。

※長野放送局に集まったフィルム写真の数々!ドラマの至るシーンで使われています。
どこに登場するのか、ぜひ探してみてください。

“ドキュメントパート” 誕生秘話

今回のドラマでは、これまでの地域発ドラマと少し違って、“ドキュメントパート”というものを取り入れています。

脚本家の高田亮さんと現地取材では、裕介のようにいろんな方にお話を聞いて写真を見せてもらいました。その感覚がそのまま活かされた物語になると良いですね、と話していたところ、「そのままドキュメントとして見せるのはどうか」ということになりました。

こうして、「ドキュメントパート」は生まれました。
“ドキュメントパート”では、地元の皆さんに多く出演していただいています。
今は生産していないフィルムカメラですが、従事していた方、その時代を知る方はたくさんいます。まさに人が魅力なのではないかとなったのです。

収録は台本なしの一回勝負。「おじいちゃんと話すのが好き」と話されていた泉澤さんですが、裕介を演じながら、地元の皆さんから取材者として話を引き出すのは想像以上に難しかったようです。
特有の緊張感と長時間かなりの集中力を要するため、収録後はへとへとに。しかし人生の大先輩達の懐にするりと入って、魅力的なエピソードを引き出してくださいました。非常に頼もしかったです。
また相手を緊張させない人懐っこさ、人徳・・・勉強になりました。