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桜を愛して50年! 新品種“龍江の誉”誕生の物語

  • 2023年04月20日

飯田市の桜の名所に植えられた1本の八重桜が新しい品種と認定され、「龍江の誉」と名づけられました。この新品種の生みの親は、地元で名の知れた84歳の桜愛好家です。桜を愛し続けて50年。その思いが結実した「龍江の誉」誕生のものがたりです。

新品種「龍江の誉」

「龍江の誉」

幾重にも重なった薄いピンク色の花びらが特徴の八重桜。その名も「龍江の誉」。去年、新しい品種として認定されました。

4月8日、飯田市の桜の名所「天龍峡八重桜街道」で、およそ60人を集めてお披露目式が行われました。

森田和市さん

「龍江の誉」の「生みの親」で、桜の名所づくりに取り組むボランティア「桜守」の森田和市さん(84)も招かれました。

“桜マニア”

森田さんの自宅の畑

実は森田さんは、地元では「桜マニア」として名の知れた存在。自宅の畑では、種をまいたり、接ぎ木をしたりして、さまざまな種類の桜を育てています。その数、実に100本ほど。

森田さん

畑は桜を育てるためにあります。自分で本で調べたりして、ずっと育ててきました。

掛け軸・絵皿・名刺入れにも桜が

森田さんの“桜マニア”ぶりは、自宅に伺うとすぐにわかりました。桜の木を材料にした床柱。棚に置かれているのは桜の絵皿。江戸末期に作られたという掛け軸にも桜の絵。愛用の名刺入れにも桜の皮が使われていました。

本棚にも、桜に関する本がたくさんあります。

森田さん

桜オタクですね。桜とつけばなんでもいいくらい好きです。

森田さんが50年前に見た桜

森田さんが桜にのめり込んだのは50年前に見た1本の桜がきっかけでした。仕事で訪れた飯島町で偶然見かけたのが、残雪の南アルプスを背景に風になびく八重桜。その美しさに強く心を打たれたといいます。

森田さん

仕事の途中にみてすごいなと思ったんです。それから図書館に行って桜の本を調べたり、京都まで専門家に話を聞きに行ったりして少しずつ桜について詳しくなっていきました。

以来、森田さんは、自宅の畑で桜を育てて街路樹などを整備する活動や、桜の名所のガイドなどに取り組んできました。

「龍江の誉」の誕生まで

今回、新品種に認定された「龍江の誉」も、10年前に自宅の畑にまいた種から育ちました。

森田さんは、当初、花びらの形などから「関山」という品種ではないかと考えていました。しかし「関山」よりも開花時期が1週間ほど早く、花の色も薄いことを不思議に感じたといいます。
そこで専門家を呼んで、花や葉など98項目を細かく調べてもらった結果、従来種とは異なる特徴を持つことが判明。去年5月「日本花の会」から新しい品種に認定されました。

森田さん

期待半分、不安半分で調査を待っていました。新品種になってよかったです。人生最後にまた花をもらったなと思います。

地区内から寄せられた名前の案

新品種と認定された後、地区内で名前が募集され、小学生からお年寄りまで、あわせて75件の応募がありました。地区の役員で協議した結果、選ばれたのが「龍江の誉」でした。地元・龍江小学校の校歌にある「ほまれも高い龍江小」という一節から発想を得た名前です。

森田さんの妻・昭子さん

実は、この名前を応募したのは、森田さんの妻、昭子さんでした。選考は、応募者の名前を伏せて行われ、地区の役員たちも昭子さんの案とは知らなかったといいます。

昭子さん

応募数が少ないといけないと思って私も応募したんです。子どもが通っていた龍江小学校の校歌を口ずさんでいたときに思いつきました。役員の会議の後、主人が帰ってきて「おまえのが決まった」と言われてびっくりしました。子どもたちと同じようにのびのび大きく育ってほしいなと思います。

森田さんは、みずからの「桜好き」を静かに見守ってくれた昭子さんに、ひとつ恩返しができたと感じています。

森田さん

長年苦労させたので、ひとつくらいこういうことがあってもいいかなと思います。

天龍峡八重桜街道

1961年の「三六災害」の治水対策をきっかけに整備された「天龍峡八重桜街道」。いまではおよそ200本の桜が見事な景観を作り出しています。

龍江の誉

ほかの桜に比べると、まだ若く、背丈も低い「龍江の誉」。立派に成長してほしいと願う
森田さんの気持ちに応えるかのように、お披露目式の日には満開の花を咲かせていました。

訪れた人

とてもきれいだなと思います。早い時期に咲く桜で、いいのかなと思います。

(森田さん)「これだけ多くの方に集まってもらってうれしく思います。桜を見て美しいなと思ってもらうことが1番ですし、そこにある物語も分かってもらえればうれしいです」。

【取材後記】

桜について語り出すと話が止まらなくなる森田さん。その“桜愛”に、取材している私も思わず笑顔がこぼれました。お披露目式の日、生みの親の和市さんと名付け親の昭子さんが夫婦でうれしそうに「龍江の誉」を眺めている姿が印象的でした。森田さんはこれからも新品種発見を目指して、自宅で桜を育て続けるそうです。 

  • 篠田祐樹

    長野放送局記者

    篠田祐樹

    2020年入局。初任地が長野局。警察・司法担当を経て現在は飯田支局。

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