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未来予測 2040年の担い手不足1100万人! 救世主は娯楽!?

  • 2023年03月28日

皆さん、わずか17年後・2040年の未来を想像したことがありますか?
少子化や団塊ジュニア世代の高齢化の影響で1100万人余りの働く人が不足するというのです。東京を除くすべての道府県で不足し、今、当たり前にあるサービスが受けにくい時代がすぐそばまで近づいています。この難局をどう乗り切ればいいのか。実は皆さん1人1人の「趣味」が救世主になるかもしれません。(長野局 峯田知幸記者)

初任給アップも担い手の確保は・・・

3月24日、私が取材に向かったのは長野県木曽町で江戸時代から続く従業員約10人の老舗旅館です。

おん宿蔦屋

夕方のチェックインの時間帯には、団体で訪れた外国人に加え、多くの日本人観光客がフロントに集まっていました。

老舗旅館によると、コロナ前の2019年よりも予約客が増えているといいます。

しかし、そんな稼ぎ時にも関わらず、14代目女将の宮崎昌美さんは働く人の確保に頭を悩ませています。

接客する宮崎さん

初任給を高卒で4万円、大卒で2万円引き上げて求人を出していますが応募がありません。今いるスタッフの休日も確保しなければならず、32部屋ある客室のうち5部屋ほどは予約を入れないようにせざるを得ない状況です。予約は増えているんですが・・・。

今の担い手不足「序の口に過ぎず」

情報サービス大手「リクルート」の研究機関による新たな予測では、企業などで働く担い手の不足は、いわゆる団塊ジュニアの世代が65歳以上となる2040年に全国で1100万人余りにのぼるとしています。

これを都道府県別でみると、東京以外のすべての道府県で不足し、不足率が20%を超える地域は18の道府県と、全体の3分の1を占めています。

調査を行ったリクルートワークス研究所の古屋星斗 主任研究員は、今の担い手不足は「序の口に過ぎない」と指摘します。

リクルートワークス研究所
古屋星斗 主任研究員

わずか17年後の2040年には、週4日必要なデイサービスに3日しか通えなかったり、災害後の復旧が遅れ重大な事故が起きる可能性が高まったり、品不足が顕在化したりします。今、当たり前にあるサービスが受けられなくなるのです。日本は2040年に果たして社会を維持できるのか、強い危機感を感じる結果となりました。

 “趣味”が担い手確保の救世主!?

避けては通れない深刻な担い手不足を解消するため、各地では自動化、機械化、シニアの活用に加えて、ムダな業務の削減などが進められていますが、今、人々の「趣味」や「娯楽」が担い手確保の救世主になり得るのではないかとの考え方が広がり始めています。一体どういうことなのでしょうか?

木曽町の老舗旅館は、深刻な担い手不足に悩んでいました。

そんな時、女将の宮崎さんが見つけたのが、東京のベンチャー企業が提供する「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた「おてつたび」と呼ばれる、一風変わったマッチングサービスでした。

“おてつたび”ホームページ

担い手不足に悩む経営者と観光好きな旅行者をインターネット上でマッチングして、旅先でちょっとだけ働いてもらおうというものです。

企業にとっては、繁忙期に全国各地から人材を確保することができ、旅行者は地域の旅を楽しみながら空き時間には稼ぎも得られます。ちなみに旅行者の宿泊場所は受け入れる企業が準備するため無料です。

女将の宮崎さんが求人を出したところ、木曽への旅に興味を抱いた全国各地の旅行者から応募があったといいます。

宮崎さん

旅行者を担い手にするという考え方は、新鮮で面白い取り組みだと思いました。地元で求人を出しても応募がなかったので80人近い応募が来て驚きました。

旅好きな学生が担い手に

「おてつたび」のサービスをどう活用しているのか。
実態を見てみたいと考えた私は、老舗旅館で2週間ほど働くことを決めた都内の大学に通う樋口暖人さん(19歳)に密着しました。

私が木曽町に到着したのは昼頃。午前の業務を終えた樋口さんは、昔の町並みが楽しめる中山道を散策したり、木曽川を眺めながら足湯に入ったりして旅を満喫していました。

樋口暖人さん

木曽町は初めてですが、景観もきれいで非日常を体験できて満足しています。

午後4時半。さむえに着替えた樋口さんは、日中の穏やかな雰囲気から一変して、緊張感を持ちながら海外からの団体客に英語を使って接客。チェックイン作業のサポートをしたり、宿泊客に提供する料理を席に並べたりしていました。

新たな旅館のカタチ目指して

「おてつたび」を利用して担い手の確保を進める老舗旅館ですが、その人材をうまく活用するための課題も見えてきました。

それは、旅行者の業務期間が短期間で、入っては去るの繰り返しとなるため、新たな人が来るたびに旅館の基準にあったおもてなしができるよう指導する必要があるのです。

もともと担い手不足で「猫の手も借りたい」と考えている老舗旅館にとっては、教育にあてられる時間はありません。
そこで女将の宮崎さんが始めたのが、次の担い手がスムーズに業務を理解でき、即戦力となってもらうためのマニュアル作りです。

マニュアル作り

私が旅館を訪れた日には、樋口さんに朝食や夕食の写真などを撮影してもらい、種類が豊富な料理の配置などを一目で理解してもらえるよう工夫していました。

樋口さん

みなさん温かくて、この宿をとっても気に入りました。もっといい宿になってほしいので、次に来る担い手が、どんどん活躍できるように僕たちも知恵を出して協力できればうれしいです。

宮崎さん

300年以上続くというのは、その時代、その時代にあった宿側の変化も必要だと思っています。おてつたびで来てくれた担い手の皆さんとのご縁も大切にしながら、新しい風を入れて、15代目、16代目と続く宿にしていきたいです。

「おてつたび」の広報、園田稚彩さんは、サービスの狙いを次のように話しています。

おてつたび広報
園田稚彩さん

宿泊業や農業など、あらゆる業種が少子高齢化で担い手不足に陥っていて、年々問い合わせが増えています。双方にメリットがある仕組みをうまく構築できれば持続可能な社会に一役買えるかもしれないと思っています。

広がる趣味・娯楽を生かした担い手確保

実は「おてつたび」のように人々の趣味などを生かして担い手不足を補おうという新たな仕組みやサービスは、ほかにも広がりつつあるのです。

その1つが、一般の人の力を借りて老朽化したインフラを察知する「社会貢献型ゲーム」です。

社会貢献型ゲーム

シンガポールに拠点を置く日本のIT企業が展開しているもので、市民がスマートフォンのアプリを使って、身近にあるマンホールや電柱を撮影。位置情報とともに登録します。

いたるところにある、マンホールや電柱の状況を自治体や電力会社などの担当だけですべて確認するには時間がかかりますが、一般の人がゲーム感覚で楽しみながら情報を提供してくれることで、自治体などは修繕が必要かどうかの見極めや交換作業に集中できます。

「パトロールランニング」という取り組みも注目されています。

パトロールランニング

市民ランナーが趣味のランニングをしながら地域の見守り活動を兼ねるもので、通称「パトラン」とも呼ばれています。警察など地域の安全を守る人たちの担い手不足も課題となる中、新たな可能性に期待が高まっています。

10年前、福岡県のNPO法人が5人で始めた取り組みが、今では全国各地に3000人のメンバーが登録されるまでに広がっています。
「パトラン」によって不審人物や不審車両の発見、人命救助ができているほか、迷子の子どもの保護などにもつながっていて、ランナーに警察から感謝状が贈られるという成果も出ています。 

“仕事を担う”考え方の大転換を!

リクルートワークス研究所の古屋主任研究員は、「仕事を担う」という考え方自体を大きく転換する必要があると指摘しています。

古屋さん

自動化やシニアの活用だけでなく、趣味など人々のさまざまな活動が持つ可能性・潜在性にも注目するなど、発想の転換がなければ、今後、日本社会が直面する担い手不足という大きな課題は解決できません。

少子高齢化は待ったなしです。
ただ、私たちの趣味が担い手不足解消に大きく貢献するかもしれません。

今、当たり前にある豊かな生活をどう守っていくか。
1人1人が少し先の未来を見据えて行動していくことが大切になりそうです。

データ①)都道府県別 担い手不足率

2040年、東京以外のすべての道府県で担い手が不足する見通しです。

不足率が高かった順にみていきます。
30%以上は京都39.4% 新潟34.4% 長野33.5% 愛媛32.4% 山形32.1% 北海道31.8% 茨城30.8% 徳島30%

20%以上が栃木29.8% 静岡29.6% 岡山29.5% 鳥取28.1% 高知27.5% 愛知26.9% 滋賀25.8% 岐阜25.4% 群馬22.4% 三重21.5%
不足率が20%を超える地域は18の道府県と全体の3分の1を占めました。

このほか埼玉19.8% 鹿児島19.7% 宮城19.1% 沖縄17.5%山口17% 福島16.3% 熊本15.3% 広島15% 山梨14.8% 神奈川13.9% 奈良13.8% 千葉12.9% 福岡12.1% 兵庫11.6% 宮崎10.9% 大阪10.3% 長崎7.4% 岩手7.1% 秋田6.3% 大分5.8% 青森5.6% 福井4.4% 佐賀4.1% 石川3.7% 和歌山2.2% 富山2.1% 香川1.6% 島根0.9%

そして、東京は不足率がマイナス8.8%となり、担い手は不足しない見通しです。

データ②)職種別 担い手不足率

2040年に暮らしに身近な8つの職種は、どの程度担い手が不足し、どのような影響が及ぶか詳しくみていきます。

不足率が25.3%と最も高かったのは介護サービスの担い手で、『週4日必要なデイサービスに3日しか通えない』という状況が起こり得ると指摘しています。

次いで商品の販売は不足率が24.8%に上り、特に地方の小売店は無人化によるサービスの低下が避けられないとしています。

ドライバーの不足率は24.2%で、配送が著しく遅れることが前提となる地域が生まれると予測しています。

建築・土木工事に携わる人は不足率22%。インフラの維持管理や災害後の復旧が遅れ、重大な事故や壊れたままにせざるを得ないインフラが出てしまう可能性が高いとしています。

医師・看護師・薬剤師などの医療従事者は不足率17.5%。診察を受けられなかったり、救急車を呼んでも受け入れ可能な病院が見つからないなど、生活に大きな悪影響を及ぼす恐れがあるとしています。

旅館や飲食店などで接客や調理を担っている人の不足率は15.1%。廃業に追い込まれるおそれがあり、とりわけ老舗の廃業は日本文化の損失にもつながるなどと指摘しています。

モノの生産に携わる人の不足率は13.3%。徐々に品不足が顕在化する恐れがあるとしています。

事務職・技術職・教員などの専門職の不足率は6.8%となっていますが、需給のバランスがほぼ均衡しているとしています。

  • 峯田知幸 

    長野放送局記者

    峯田知幸 

    2009年入局 富山局、名古屋局、経済部を経て現在は長野局で経済・行政担当。地域課題をきめ細かく発信します!

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