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なぜ信州で昆虫食は盛ん? 子どもから大人まで親しまれる理由

  • 2023年03月27日

イナゴ、蜂の子、ザザムシ。長野県の食文化の1つに昆虫食を思い浮かべる人もいると思います。
松本市の女性からは「信州ではなぜ昆虫食が盛んなのか?」という身近な疑問が寄せられました。調べてみると、意外な理由が!?
(浅野怜央)

疑問に思ったきっかけは

疑問を寄せてくれた松本市在住の宮野美希さんと夫の郁也さん。
美希さんは松本市で生まれ育ち、幼いころからイナゴを食べていました。

疑問を寄せてくれた宮野美希さん・郁也さん夫婦

自宅の周りに田んぼが多かったので、祖父と一緒にイナゴを捕っていました。捕ったイナゴは自宅で祖母がつくだ煮にしてくれて、家族で食べていました。

美希さんは東京で過ごした大学時代、友人との会話をきっかけに昆虫食が長野県特有の文化だと知ったといいます。

宮野美希さん

大学の時に地元のおもしろいものを持ってお酒を飲もうということがあったんですけど、その時にイナゴと蜂の子を持って行ったら、「これを食べるのか」と友人からびっくりされました。

それ以来、どうして長野県は昆虫食が盛んなのかと疑問に思っていたという宮野さん。答えを予想してもらいました。

宮野美希さん

やっぱり長野県は周りに海がないので、貴重なたんぱく源として食べていたのかなと思います。

そもそも昆虫食とは?

長野県では南信地域を中心にイナゴやザザムシ、蜂の子などを食べる習慣があります。
県内のスーパーの総菜コーナーにはそれらのつくだ煮が並んでいます。

買い物客

物心がついたころからイナゴや蜂の子は食べていました。孫たちはイナゴが好物なので買いに来ました。

ザザムシ漁師は自宅で調理して食べているといいます。

ザザムシ漁師の男性

おいしいです。お酒が好きなんで、つまみに毎日食べています。

そもそも長野県特有?

宮野さんが予想した「長野県は海がないため、たんぱく源として食べていた」は本当なのでしょうか?
昆虫食の研究を20年以上続けるNPO法人・昆虫食普及ネットワークの内山昭一理事長に聞いてみました。

昆虫食普及ネットワーク 内山昭一 理事長

大正時代、農林水産省が「食用及薬用昆虫二関スル調査」という昆虫食の全国調査をしました。その結果、55種類ほどの虫が全国で食べられていたことが分かっています。このことから虫を食べるという文化は、特に長野県特有のものではなかったと言えると思います。

100年前の日本では長野県だけでなく日本全国で昆虫を食べ、それは珍しいことでもなんでもなかったというのです。
では、なぜ昆虫食といえば長野県というイメージがあるのでしょうか。

内山理事長

“もうかる”昆虫食にしたことが一番大きいと思います。

“もうかる”とはどういうことなのか?
内山さんは100年ほど前に全国的に家庭で食べられていたイナゴや蜂の子のつくだ煮を長野県の会社が全国で初めて商品化したことが、県内で昆虫食が普及することになったと見ています。
さらに、県内だけではなく東京に販路を広げたことで“もうかる昆虫食”を確立させたといいます。

内山理事長

当時、県内の食品会社がイナゴやザザムシのつくだ煮を缶詰にして商品化し、非常によく売れたそうです。つまみ、珍味として評価されたんだと思います。長野県の食品会社が東京の赤坂などの料亭に足しげく通って、「食べてみませんか」と営業をしたそうです。そういう活動が実を結んで東京でも食べられるようになったようです。商品化したことが長野県の昆虫食を今に伝える原動力になったのだと思います。

昆虫食はもうかった?

伊那市の食品会社

80年前から伊那市でイナゴやザザムシなど4種類のつくだ煮を扱う食品会社です。
東京に卸すようになって売り上げがそれまでの3倍になった時期もあり、中には虫を売り込んでくる人がいたというエピソードを披露してくれました。
そして、味の改良を重ねたことも、昆虫食が子どもから大人まで広く親しまれることにつながったと語ります。

つかはら珍味店 塚原保治社長

一般の人が誰でも捕るような感じで、イナゴを300gとか500g捕って持ってくる人もいました。商売になると聞きつけた人たちが「私もやってみよう」と増えていって、昆虫食がさらにいっそう盛り上がったという流れがあったと思います。
“おいしい昆虫食”として確立したことも要因として大きく、例えばイナゴのつくだ煮は、昔は主に塩味で食べていましたが、時代ごとにお客さんの舌に合うように改良され、今はしょうゆ味が定番になっています。
このような努力が今も昆虫食が親しまれている要因の1つだと思います。

なぜ親しまれる?

信州で昆虫食の結論です。

▼全国で食べられていた昆虫だが、県内の会社が初めて商品化。
▼“もうかる”と考え東京でも販売して、扱う料理店やデパートが出現。
▼幅広い世代に食べてもらえるように味を改良。

実は危機 立ち上がる高校生

そんな信州の昆虫食ですが、実は近年、漁師など担い手の不足が課題になっています。
そんな中、この食文化を残そうと県南部の南箕輪村にある農業高校でザザムシの養殖に取り組んでいるのです。

上伊那農業高校の生徒たち

ザザムシ漁の捕り手が不足していることを知った生徒たちが養殖を始めました。水槽の中に川の環境を再現し、去年初めてザザムシのふ化に成功しました。

上伊那農業高校が開発したザザムシのふりかけ

さらに商品開発にも挑戦し、ザザムシを粉末にしたふりかけを開発しました。地元の土産物店で販売し、半年で300個余りが売れました。
今後はザザムシの粉末を使ったカップラーメンも開発していきたいと意気込んでいます。

上伊那農業高校 伊藤颯香さん

私たちの力で減少しているザザムシを増やして、みなさんに知ってもらえるように活動を始めました。伝統的なこの昆虫食の文化を次の世代へ受け継いでいけるように、これからも守っていきたいと思います。

取材後記

疑問を寄せてくれた宮野さんに調査結果を伝えたところ、「驚きました。長野県人特有の商売気質なところも大きかったんですね」という感想が返ってきました。
近年、将来の食糧危機を救うのではないかと昆虫食は世界中から注目されています。高校生の活動も含めて、今後も昆虫食の取材を続けていきたいと思います。
ちなみに私は蜂の子が大好きで、ごはんにのせてかき込むと最高です。

  • 浅野怜央

    長野放送局映像取材

    浅野怜央

    2018年入局。名古屋局をへて2020年から長野局。カメラマンとして幅広く地域のニュースの取材や撮影を行う。

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