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”子ども騒がしい”1軒苦情で公園廃止”存続も選択肢”の迷走

  • 2023年03月24日
住民説明会後の荻原健司市長(2023年2月11日)

去年12月、1軒の住民の騒音への訴えで長野市が公園を廃止したというニュースが広がり、住民はネット上で「クレーマー」「上級国民」などと一方的な非難にさらされました。住民が傷つけられ、公園存続を求める声も挙がるなど、地域の混乱が続いた2023年3月。長野市は公園廃止の決定は変えないと表明しました。一時は存続も選択肢に入れたという荻原健司市長。しかし、結末はあまりにあっけなく、子どもの遊び場に関する課題は残ったままです。
(長野放送局 橋本慎也記者)

開設から廃止決定まで

まずは公園開設から廃止までを簡単に振り返ります。
長野市は2004年に借地に公園、「青木島遊園地」を開設。地元では隣接する学童保育施設のために作られたとされています。2021年3月、この施設が子どもたちを一斉に遊ばせたところ、開設前から住んでいた住民が騒音の悩みを訴えました。これを受け施設は公園の利用を中止。さらに、施設は「使わない公園の管理を担えない」と市に相談。 区長会も「子どもが使わないのに管理できない」と回答。騒音を訴えた人も、もともと廃止を求めていたわけではありませんでしたが、市は管理者が見つからないなどとして2022年2月に廃止を決定。廃止期限は2023年3月末でした。一方、区長会以外の住民は10月まで経緯を知らされず、12月の報道後、公園存続を求める声が高まりました。
これまでの経緯 詳しくはこちら 

報道加熱後の経緯は

青木島遊園地
 

2022年

12月8日

報道過熱やネット炎上で長野市が会見

  28日

「公園は児童施設が集中する
特殊な立地条件に問題」と市が見解示す
 

2023年

1月6日 

市に住民との対話と公園存続求め
8286人分署名提出 (追加分含む)

 23日

地元住民が公園存続求める団体設立 会見

 25日

荻原市長が区長会と非公開懇談

2月11日

荻原市長出席し初の住民説明会

 公園存続を求める住民による署名活動が行われたり、公園の管理を担うという地元住民団体も設立されたりするなど、報道をきっかけに新たな動きが出るなか、2023年2月11日には、長野市が初めて住民説明会を実施。およそ270人の出席者からは存続を求める声が相次ぎました。
荻原市長は終了後、「区長会に任せすぎた点を反省している」と廃止にあたって広く市民に説明をしてこなかった対応に問題があったことを認めました。そして、「廃止のままでいいのか、今回の多くの意見を材料に廃止か存続か、これから私の責任で判断したい」と話しました。
これを聞いて、私は長野市が廃止の方針を見直したように感じました。参加者からも期待の声が聞かれました。

説明会参加者

聞く耳はあるという印象があったので、これからも、こういう説明会をやって意見を聞いてから決めてほしい。地域の公園が少ないので存続に向けて話が進めばいい。

しかし”廃止”覆らず

実はこの時、長野市は公園存続に向けて借地契約を延長できないか、地権者とすでに交渉を始めていました。

荻原市長(2023年3月1日)

そして3月1日の長野市議会。私はこの日、荻原市長が今後の方針を示すと聞き、取材に向かいました。ふだんはそれほど傍聴者がいない議場には多くの人が訪れていました。荻原市長は議員からの質問に答える形で以下のように述べました。

(長野市 荻原市長)
地権者はすでに新たな土地利用を計画しており、これ以上、土地を借りることは断念せざるを得ない。公園存続を選択肢として真剣に検討し、関係者とも調整してきたが、結果として存続を望んだ住民の期待に応えられなかったのは大変申し訳ない。

そして、4月末までに遊具や樹木の撤去を行ったうえで公園を廃止するとしました。
結局、市民は廃止の判断を改めて突きつけられただけでした。さらに、「土地を継続して借りることができないか交渉した」という、住民説明会や記者会見で出ていなかった市側の説明。議会を傍聴していた市民からは、ため息が漏れました。

議会傍聴者

説明会は時間を引き延ばすためだけだったのかと思います。
無駄に時間だけ使わされた気がします。子どもたちも嫌な思い、悲しい思いをしています。

住民説明会出席者

住民説明会で土地利用が進んでいると説明があれば、しかたがないという人もいたかもしれない。しかし、土地利用が決まった中で議論を行っていたので、どうしようもない。

保護者

廃止はしかたがないですね。今ある環境で遊ばせるしかないですね。

騒音訴えた住民

市側から説明が無く詳細が分からないのでお答えできません。市にお任せします。

公園の地権者の考えは?

長野市と地権者のやりとり(市公文書の写し)

公園の土地利用の計画が進んでいるという話は、2022年12月に私が取材を始めた時、すでに地元住民の間で知られていました。
地元の新聞が公園を残すべきだという記事を多数掲載するなか、私は地権者の都合も聞かずに報道を続けていいのかと思い、2023年1月、地権者のもとを訪れました。市が議会で改めて廃止を表明した3月にも訪れましたが、いずれも具体的な話を聞くことはできませんでした。

一部では「地権者が土地利用を考えたから長野市が公園廃止を決めた」という誤解も生じています。しかし、私が長野市に情報公開請求を行って手に入れた文書を読む限り、地権者は公園の廃止が決まるまで土地利用を考えていなかったことが分かります。
2022年2月に市が地権者に公園廃止と土地の返還を打診した際に、地権者は次のように答えています。

(公園の地権者)〔長野市公文書より〕
どうしても必要な遊園地だから、 ぜひ協力してほしいとお願いされて貸したのに、そんなに簡単に廃止していいのか。突然廃止にすると言われても困る。

 

その後のやりとり

2022年3月

 1年後に返還 同意書交わす

その後

 地権者が土地利用進めるため
不動産業者と契約

2022年8月

 地権者の新たな契約を長野市が把握

交渉経過の公文書は無い

存続交渉の経過文書は「不存在」

長野市が公園の存続を模索し、借地契約を延長できないか地権者と改めて交渉を始めたのは、2023年1月下旬。そして、2月下旬まで交渉したといいます。しかし、返還期限が迫っていて地権者がすでに業者と契約をした土地について、どう交渉が進められたのか明らかにされていません。
私が情報公開請求をしたところ、長野市は「個人的なメモしか残しておらず、交渉経過を記録した公文書は存在せず作成予定もない」と回答しました。

(行政の情報公開に詳しいNPO法人 情報公開クリアリングハウス 三木由希子理事長)
幹部など職員の間で共有されるはずの情報を、公文書として作成しないのは行政上問題がある。長野市と地権者の交渉が、きちんと行われたという担保になるものが何もなく、交渉自体がどう行われ、妥当なものか、判断や検証ができなくなってしまっている。

この報道をしたあと、長野市は「早急に市長に報告するため、文書ではなく口頭で報告していた」としたうえで、今後、交渉経過についての公文書を作る方針を明らかにしました。

なぜ?これまで説明しなかった

議会で説明する長野市幹部

公園廃止を伝えた以上、地権者が土地を活用することは長野市も想定していたといいます。しかし、住民に説明する機会があったにもかかわらず、土地利用の計画が進んでいることを説明しませんでした。市の幹部は「隠していたわけではない」と議会の答弁で釈明しました。廃止を覆せない決定的な要因を明らかにしないまま、説明会で住民に期待を持たせてしまった長野市。説明しなかった理由として、以下の点を挙げています。

住民に説明しなかった理由

土地の利用計画は公園の廃止とは直接関係ない
地権者と不動産業者の民間同士の契約のため
地権者に迷惑がかかることを懸念した
地権者と借地契約を延長できないか交渉中だった

土地の利用計画が進んでいたことを3月の議会になってから明らかにしたことについて長野市公園緑地課は、「青木島遊園地を存続できない直接的な理由のため説明した」としています。 

「オギワラヴィジョン」めど立たず

公園が廃止されたあと、子どもの遊び場はどうなるのか。公園に隣接する学童保育施設は、2021年3月以降、公園を利用せず施設内で子どもたちを遊ばせてきました。

学童保育施設で遊ぶ児童

しかし、2023年2月末からは、気候がよくなってきたとして2年ぶりに利用を再開。一度に利用する子どもを10人程度に制限して、短時間での利用を公園廃止まで続けるとしています。また、夏休みなど長期の休み中に引率スタッフを確保できる日は、近隣の小学校の校庭を利用する計画です。 

公園周辺の児童施設

公園廃止とあわせて荻原市長は小学校や公園の利用を進める”オギワラヴィジョン”を発表。青木島地区の学童保育施設をめぐっては次のような計画を進めるとしています。

青木島地区での対策

学童保育施設を将来、小学校内に移転し校庭を利用
校庭を地域の遊び場として休日・平日ともに開放
保護者が送迎しやすいよう小学校の駐車場を増やす

この計画は、2023年2月24日に各部署に指示されました。しかし、駐車場が狭い小学校に新たな駐車場を確保するのは難しい状況です。3月に入っても、市は方策の見通しが立っていないことを議会で認めました。
また、近いとはいえ小学校1、2年生が利用する学童保育施設の子どもたちを、地域の遊び場としての校庭まで引率するスタッフを平日、確保する見通しは立っていません。さらに、小学校には空き教室がありません。市は放課後だけでも利用できるように調整するとしていますが、計画の開始時期の見通しはいずれもたっていません。

今回の教訓どう生かす?

「青木島遊園地」を巡っては「周辺に児童施設が集中して、子どもが多数集まる特殊な立地のため問題を解決できなかった」などとする見解を2022年の12月末に市は公表しています。
そうであるならば、「公園の存廃にかかわらず、もっと早く対策を指示できたのでは」
3月7日に開かれた定例会見で、私は荻原市長にそんな質問をしました。
しかし市長からは「できる限り存続に向けて調整を進めてきたという結果だ」という説明にとどまり、明確な答えは返ってきませんでした。
わたしを含めて、会見に出席したほかの記者からも質問が相次ぎました。荻原市長は「区長会に任せすぎたのが反省点だ」とした一方で、再度、住民説明会を行うかなど、今後の対応については、地元区長会と相談した上で決めるとしています。
さらに「一連の課題をどう検証していくのか」と質問したところ、「今回、明らかになった課題をこれから整理し、検証していきたい」と述べましたが検証の方法や期限など具体的な説明はありませんでした。
また、説明会などを通じて公園存続への期待を持った住民に対する考えについても聞きましたが、「過ぎた時間は戻らないので、今後皆さまからいただくご意見も、反省材料として、今後に生かしていきたいと思う」として正面からは答えませんでした。

取材後記

「せっかくの公園に不満があるなら、ここから引っ越せばいい」
これは、公園の近隣住民の1人が、子どもの遊び声の悩みを訴えた人について発した言葉です。
今回の問題は地域に亀裂を残し、ネット上にも、この人を非難する投稿は残ったままです。
情報公開請求で入手した長野市の資料からは、公園存続が難しい理由として「(子どもたちを遊ばせられないなど)ある意味、皆が被害者。この状況を終わらせる必要がある」というやりとりがあったことが記録されていたことがわかりました。しかし結局、公園廃止によっても皆が被害者となりました。

こうした結果はとても残念ですが、一方で、周辺住民の合意形成や情報発信のあり方など、長野市の行政としての、さまざまな課題が顕在化したのではないでしょうか。
同じような失敗を繰り返さず市民の信頼を取り戻すためにも、一連の経緯をしっかりと検証する必要があります。
そして、この地域の新たな子どもの遊び場の確保を早期に実現してもらいたい。地域の人たちが、これまで以上に暮らしやすくなるように、市政運営の課題改善のきっかけにしてもらいたい。1人の市民として、そう願わずにはいられません。

  • 橋本慎也

    長野放送局記者

    橋本慎也

    平成26年入局。鳥取局などを経て現在、長野放送局で長野市政担当。 

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