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バックカントリーに潜む危険とは!?

  • 2023年03月02日

今シーズン、全国で相次いでいるバックカントリーでの遭難事故。長野県では、スキーの国際大会で優勝経験があるアメリカ人スキーヤーも亡くなりました。そもそもバックカントリーとは?バックカントリーでスキーやスノーボードを楽しむとはどういうことなのか?バックカントリーに潜む危険を警察の山岳遭難救助隊長に説明してもらいました。

(川村允俊)

日本の雪は憧れ

バックカントリーは、山岳エリアの整備がされていないところで、登山と同じように規制されておらず、こうしたエリアに入ることを禁止する法律もありません。

この手つかずの自然の中でスキーすることを「バックカントリースキー」と呼びます。スキー場にはない急な傾斜や、まだ誰も滑っていないふかふかの雪の上を滑ることができます。また、バックカントリーをスノーボードで滑る人たちもいます。

日本のバックカントリーは外国人にも人気です。外国人向けのガイド会社を運営するジョン・モレルさんによると、今シーズンの予約はいっぱいで、来シーズンの予約もすでに入ってきているということです。その魅力についてジョンさんは次のように話します。

ジョン・モレルさん

目的はパウダースノーだ。雪がふわふわで、気持ちがいい。海の中にいるみたいで、日本の雪は世界一だ。

海外では、「JAPAN」と「POWDER SNOW」を組み合わせた「JAPOW(じゃぱう)」ということばもあって、日本で滑ることが海外の人の憧れになっているといいます。

日本の雪

毎年100人、現場では

人気を集める一方で、急な傾斜や未整備のところを滑るため、事故も相次いでいます。

警察庁によると、全国で毎年100人前後がバックカントリーでのスキーやスノーボードで遭難し、おととし(令和3年)の死者は8人にのぼっています。

ことし(令和5年)1月に小谷村で外国人が巻き込まれた遭難事故では、長野県警察本部山岳遭難救助隊が救助にあたりましたが、吹雪で視界や足場が悪く、想定していたよりも多くの時間がかかったということです。また、現場は引き続き雪崩の危険性が高かったため、通常より大きくう回せざるを得ず、寒さと雪で救助するための機械を何度もメンテナンスすることになりました。

救助に向かう長野県警の山岳遭難救助隊

どんな危険が?

その山岳遭難救助隊の岸本俊朗隊長にバックカントリーで滑ることのリスクを説明してもらいました。

1つ目は滑落です。

長野県警察本部山岳遭難救助隊 岸本俊朗隊長

大きな崖に気づかずに転落してしまったり、雪がアイスバーンみたいになってバランスを崩して滑落したりすることがある。雪と雪の間の割れ目みたいなところに落ちてしまうということもある。

リスクの2つ目は衝突です。

長野県警
岸本隊長

樹林帯を滑っていてコントロールがきかなくなって、木にぶつかって亡くなってしまう人もいる。

3つ目は、道に迷ってしまうことです。

長野県警
岸本隊長

スピードを出したり、視界が悪かったりして間違った方向に滑ってしまうと、とんでもない方向に行ってしまって、自分の居場所が分からなくなる。登って元に戻ろうとしても、そんなに簡単にはいかないケースがある。

けがや遭難した場合に怖いのが低体温症です。

長野県警
岸本隊長

骨折などのけがをして動けなくなってしまうと、低体温症になりやすくなる。重度の低体温症になると、現場での蘇生がかなり厳しい。意識がほぼ混濁している場合は動かすのもリスクが高い。すぐに医療機関に搬送して専門の治療を受けないと命の危険につながる。

怖いのは表層雪崩

そして、バックカントリーで危険が高いとされるのが表層雪崩です。

表層雪崩の様子

雪崩が起きるメカニズムに詳しい防災科学技術研究所によると、新たに降った雪の表面付近が崩れる表層雪崩は予測が難しく、見た目ではわかりにくいということです。この表層雪崩は、何の前触れもなく発生し、時速200キロに達することもあり、気づいてから逃げるのはほぼ不可能とされます。

安全に滑るために

では、できるだけ安全に滑るためには、どうすればいいのか。岸本隊長は、バックカントリーに行く際は、1人での行動は避けてほしいと指摘します。

長野県警
岸本隊長

できれば経験のある人と滑ること。グループの中に経験がある人がいれば、万が一何があっても初期的な救助対応ができる。ガイドと一緒に楽しむことも安全を確保する上で非常に大事だ。

その上で遭難した場合を考え、自分の位置情報を電波で知らせるビーコン、雪に突き立てて埋もれた人を探すゾンデ棒、人を掘り起こすためのシャベルを必ず持参するべきだといいます。

左からビーコン・ゾンデ棒・シャベル

岸本隊長は、バックカントリーを滑る人たちの安全意識が低いように感じるとも話します。

長野県警
岸本隊長

冬の登山の1つの行動の原則は、特に新雪が積もった谷に入っていくことは基本的にしないことだ。そうしたところでは雪崩のリスクが高いが、バックカントリースキーやスノーボードはあえてそういったところを滑るので、当然リスクは高くなる。しかし、安全対策をせずに興味本位でバックカントリーを滑っている人が多いと感じる。実際にことしの野沢温泉村で起きたバックカントリーの遭難では、ビーコンを持っていなかった。

悲しむのは家族

ことし(令和5年)1月、外国人たちが小谷村のバックカントリーで雪崩に巻き込まれて2人が死亡しました。このうちの1人は、アメリカのプロスキーヤーのカイル・スメインさんでした。

カイル・スメインさん(U.S.Freeski Teamより)

雪崩が発生した1月29日、スメインさんが自身のSNSに投稿した内容です。

信じられない雪質、やむことのない嵐、そして探検をすればするほど見つかる楽しい地形。これらが、私を毎年冬に日本に来させる理由だ。

スメインさんは、去年11月に結婚をしたばかりでした。事故を受けてスメイン選手の妻はSNSで次のようにつづっています。

私はあなたと結婚し、そして一緒に暮らしてきたことに心から感謝している。私の人生で最もすばらしい時間だった。あなたが日本で、人生の中でも最高の滑りをしていたことは理解していて、あなたを責めるつもりはない。ただ愛していることを伝えたい。また会いたい。

岸本隊長は過去に遭難事故の遺族の対応をした経験から、残された家族のことも考えてほしいと訴えます。

長野県警
岸本隊長

残された家族は精神的にも経済的にも非常に苦労される。そういったことを想像して、危険な場所に足を踏み入れる前にブレーキをかけ、悲しい思いをする人が増えないようにしてもらいたい。

  • 川村允俊

    長野放送局記者

    川村允俊

    2018年入局。警察・司法担当として軽井沢町で起きたバス事故や動物に関わる社会問題を取材。

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