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野沢温泉だからこそ味わえる料理!?

  • 2023年02月21日

長野県北部に位置する野沢温泉村。日本にある村の中で、唯一「温泉」と名が付く村で、その温泉は全国的に有名です。ここでは、その温泉水を利用した料理が評判を呼んでいます。どんな料理なのか、訪ねることにしました。

(谷田希)

高温の源泉を持つ“野沢温泉”

野沢温泉の温泉街

野沢温泉は、東大寺の大仏建立などに携わった行基が奈良時代に発見したとも言われています。江戸時代になると多くの湯治客でにぎわい、現在も年間40万人以上が訪れる人気の温泉です。

温泉街には、“外湯”と呼ばれる地域住民が維持・管理する公衆温泉施設が13か所あります。これらの外湯はそれぞれ泉質が違うため、訪れた人たちはいろんな種類の温泉を楽しむことができます。

温泉施設

源泉は90度前後と高温で、地元の人たちはこの熱いお湯を昔から「食べ物」に生かしてきました。

特産の野沢菜

この野沢温泉で最も有名な食べ物といえば、きっと誰もが一度は耳にしたことがある野沢菜でしょう。

野沢菜畑

野沢菜の起源は、江戸時代に温泉街にあるお寺の住職が京都からかぶの種を持ち帰って植えたところ、かぶの実が大きくならずに葉の部分が大きくなったという言い伝えが残されています。この菜っぱがいつしか野沢菜と呼ばれるようになり、この地域で広く栽培されるようになりました。

温泉を利用した野沢菜漬

温泉街では、この野沢菜を漬物にする時に温泉水で洗っているのです。毎年11月ごろには温泉街の外湯で、民宿のおかみさんたちが温泉水で野沢菜を洗う光景が見られます。

お菜洗い

温泉水をたっぷり使って洗うことで、野沢菜についた汚れや虫をまるごと落とすことができるというのです。

そして、きれいになった野沢菜を塩やしょうゆ、昆布などにつけて漬物にします。野沢温泉では各家庭や各民宿で野沢菜漬を作っていて、村全体で年間およそ100トンの野沢菜漬を出荷しています。

野沢菜漬をある料理に!?

温泉街の中心部にある民宿では、この野沢菜漬を使ったある食べ物が人気になっています。民宿のおかみさんの竹井孝子さん(80)は50年以上にもわたって、愛情たっぷりの自家製の野沢菜漬を作っています。

竹井孝子さん

もちろん竹井さんは毎年、温泉水で野沢菜を洗ってから漬物にしています。

この野沢菜漬を使ってもっとお客さんを喜ばせたいと考えた竹井さんは、10年ほど前から炒めた野沢菜漬と、豚肉やニンニクなどを独自の配分で混ぜた“野沢菜ギョーザ”を開発し、提供しています。

竹井さん考案の野沢菜ギョーザ

野沢菜漬の独特の酸味と、豚肉やニンニクのジューシーな甘みが口の中で広がる、ここでしか味わえない料理です。このギョーザを目当てに毎年宿泊しに来る常連もいます。

竹井さんの民宿の常連客

30年以上来ているが、野沢菜のシャキシャキ感に、酸味がきいていて、ふつうの餃子とはひと味違ってとてもおいしいです。

竹井さん

野沢菜ギョーザが、温泉街を活性化させるような料理になってくれればいいと思います。県外からもどんどん野沢温泉に足を運んでもらい、たくさん野沢菜漬を食べて、温泉につかって野沢温泉全体を満喫してもらえればうれしいです。

温泉を活用した新たな料理も登場!

さらに、温泉水そのものを使った新しい料理が生み出されていました。

温泉水で野菜を“料理”

シェフで温泉街で古くから続く旅館を経営する片桐健策さんは、ほぼ毎日、この源泉で野菜をゆでているというのです。200年以上前から、温泉街で湧く90度前後の“源泉”を使って、野菜や竹などをゆでる慣習があった野沢温泉ならではのことです。

これまで何気なく源泉でゆでて料理を作ってきた片桐さんですが、特にここ4、5年で海外から来る観光客と交流する中で、源泉でゆでて料理を作ることは珍しいことだと気づかされました。

この特有の文化を理解してもらおうと去年の春に考案したのが温泉水を使ったサラダでした。

片桐さんが考えたサラダ

温泉街では、降った雨や雪が水分として森に吸収され、再び高温の源泉として地表に湧出するまで数十年かかると言われています。この非常に長い温泉の循環サイクルを1枚のプレートに表現したというのです。

つけた名前は“循環のサラダ”で、10種類以上の野菜を源泉だけでゆで、味付けは塩とオリーブオイルだけ。食べてみると、温泉のミネラルなどの成分が野菜に吸収されるのか、野菜自体にほのかな甘味とうまみが感じられ、人気を集めています。

片桐さんはこのサラダにとどまらず、野沢温泉ならではの料理をどんどん開発していきたいと意気込みます。

片桐健策さん

普通のお湯と違って温泉でゆでると、野菜のうまみが外に流れ出ない印象があります。自分の故郷である野沢温泉の素晴らしさを、料理を通じてもっと伝えていきたいですし、料理をより進化させていきたいです。温泉だけでなく料理でも野沢温泉に来てみたいと思う人が増えてほしいです。

取材後記

“野沢菜ギョーザ”、温泉水でゆでたサラダ。スキーや保養地として有名な野沢温泉には、知られざる「食」の魅力がありました。長野県には一般には知られていないその土地ならではの料理がまだまだあると聞いています。今後も信州の隠れた「郷土料理」を取材していきます。

  • 谷田希

    長野放送局映像取材

    谷田希

    2005年入局。福井、岡山、報道局映像センターなどで勤務。2020年から長野局。カメラマンとして長野各地で取材・撮影。

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