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佐久発!世界最高峰“WRC”を制したブレーキ

  • 2023年02月16日

     

    WRC=世界ラリー選手権(画像は2017年)

    F1などと並ぶ世界最高峰のモータースポーツのひとつ、WRC=世界ラリー選手権。2年連続で年間優勝を果たした日本のトヨタにブレーキを提供している会社が長野県佐久市にあります。地方にありながら世界で実績を残し続ける高い技術力の背景に迫ります。
    (長野放送局 松下周平)


    とてつもなく過酷なWRC


    WRCは毎年、ほぼ丸1年をかけて世界各国で13戦が行われます。去年11月には、国内で12年ぶりとなる選手権が愛知県と岐阜県を舞台に開催され、多くのモータースポーツファンたちが、その迫力と高度なドライビングテクニックを堪能しました。

    12年ぶりに日本で開催されたWRC


    WRCの主なコースは、レース専用のサーキットではなく、一般車の乗り入れを規制した公道です。雪と氷に覆われた山道や、大きな石が転がる砂利道が舞台になることもあります。去年11月のラリージャパンは4日間の日程で行われ、総走行距離は900キロ以上。このうち300キロは険しい山道などでした。ラリーカーの最高時速は200キロを超えますが、コースは起伏が大きく、カーブも非常に多いことから、常に加速と減速を繰り返します。そこで鍵となるのがブレーキの性能です。
     

    世界一を支える佐久の企業

    佐久市に本社を置くエンドレス


    去年まで2年連続で年間優勝を果たしているチームが日本のトヨタ。その“世界一”のラリーカーにブレーキを提供している会社が、長野県東部・佐久市にある「エンドレス」です。社員が約80人という中小企業ですが、「カスタムカー」と呼ばれる改造車用のブレーキ製造で、国内シェアトップを誇ります。

    創業者 花里功会長


    創業者は地元出身の花里功会長。若いころは、プロのドライバーを目指し、さまざまなレースに参戦していましたが、資金が底を尽き夢を断念。自動車部品メーカーに就職しました。その後、自分の手で一から製品を作りたいと、1986年に会社を設立しました。

    花里功
    会長

    もともとはドライバーだったので、ブレーキのいい悪いは自分ですべて評価できます。その経験を生かそうと思ったのが、創業のきっかけです。


    そもそもブレーキの仕組みは?


    ここでブレーキの仕組みを、おさらいしたいと思います。車のブレーキは大きく2つのパーツに分かれています。タイヤと一緒に回転する円盤状の「ブレーキローター」と、その両側に配置されている「ブレーキパッド」です。


    走行中にブレーキペダルを踏むと、回転するローターを両側のパッドが挟み込み、その摩擦力によってスピードを落としたり、止まったりすることができるわけです。
    ブレーキの原理は「摩擦力」。それゆえに、走れば走るほどすり減っていくのですが、この会社のブレーキの特徴は、驚異的な耐久性にあります。
     


    部品交換なしで丸一日を走破

    去年6月に静岡県で開催された24時間耐久レースでは、その持ち味が遺憾なく発揮されました。

    前輪の赤く光る部分がブレーキ(画像提供 エンドレス)


    上の画像は、レース中のタイヤを捉えたものです。ホイールの奥で赤く光っている部分がブレーキ。摩擦熱のすさまじさが分かります。その分、摩耗も激しく、一般的には、レース中に最低1回の部品交換が必要とされています。ところが、この会社のブレーキは1度も交換することなく24時間のレースを耐え抜き、関係者を驚かせました。


    品質管理のたゆまない努力
     


    これだけの耐久性をいかに持ち得るのか。秘密の1つは、品質管理のこだわりです。高速で回転させたローターをパッドで挟みこむテストを自社で実施し、レースと同程度の負荷に耐えられるか調べます。

    テストで赤く光るローター


    私が見学したテストでも、あの24時間耐久レースと同じように、ブレーキが摩擦熱によって赤く変色していました。表面温度は500度にも達するといいます。

    花里功
    会長

    佐久という地方から世界を目指すという目標は、創業当時は絵に描いた餅みたいなものでした。それでも、なんとしても世界に通用するものを作るという意気込みは、この会社を作った時から同じです。


    自社のレーシングチーム

    テストが行われたサーキット


    耐久性を高めるための努力は工場の外でも重ねられています。自社のレーシングチームの社員ドライバーが頻繁にサーキットに出向き、ブレーキをテストしています。
    この日、テストを行ったのは埼玉県北西部にある比較的規模の小さいサーキット。花里会長の次男で、社員ドライバーを務める花里祐弥さんは、ブレーキの性能を確かめるには、うってつけの場所だと教えてくれました。

    テストドライバーの花里祐弥さん
    花里祐弥
    さん

    小さく距離が短いサーキットなのでブレーキをかける回数が多いんです。熱を持った部品が冷えるまでの時間があまりなく、パッドの消耗が進みやすいので、ブレーキのテストにはとてもいい環境です。

    ブレーキパッドを交換


    丸1日かけてコースを何周も走り、複数のパッドをテスト。ブレーキに強い負荷をかけて、どの程度まで耐えられるのかデータを集めます。お金のかかるレーシングチームを中小企業が所有するケースは極めて珍しいといいますが、ドライバーの生の声をフィードバックして製品作りに生かせるという大きなメリットがあります。

    花里祐弥
    さん

    中小企業は社員がしっかり協力して、大企業に認めてもらうような商品作りをしていかないと、どんどんなくなっていくと思います。レースで結果を出すことで商品が売れるというサイクルを常に作れるよう頑張りたい。


    サーキットでは、この会社のブレーキを愛用する一般ドライバーの姿も見られました。安全性への信頼は、レース業界以外にも広まっています。

    ブレーキを使用するユーザー

    サーキットだけでなく、一般の公道でも安心して止まることができるブレーキだと思います。世界の舞台で使われていますし、僕たちユーザーもその良さを発信していきたいです。


    地方から世界を驚かす。その高い志と品質へのこだわりが、世界最高峰レースでの活躍を支えています。

    花里功
    会長

    日本で1番大きいメーカーのトヨタさんが、私たちの会社が作ったブレーキを使ったんです。それを見て初めて、頑張りが少し報われたように思います。


    取材後記

    今回の取材でお話を伺った創業者の花里功さんが、ことし2月3日に亡くなりました。71歳でした。短いインタビューでしたが、ことばの端々からものづくりへの熱い情熱がほとばしり、ブレーキの仕組みなどもわかりやすく教えていただきました。心よりご冥福をお祈りいたします。

      • 松下周平

        長野放送局

        松下周平

        遊軍で主にスポーツを担当。去年、初めて鈴鹿サーキットに行きました。感動しました。

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