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長野五輪25年 なぜ五輪の遺産が自治体の負担に?

  • 2023年02月14日

    1998年2月に開催された長野オリンピック。あれから25年になりますが、長野駅には長野オリンピックの巨大なメモリアルが展示され、街なかのマンホールにはオリンピックのマークがデザインされているなど、長野にはオリンピックを開催したことを示すものがたくさん残されています。ところが今、この長野オリンピックのレガシー=遺産が、地元自治体の負担になっています。(橋本慎也)

    日本選手団の活躍 

     20世紀最後の冬季オリンピックとなった長野オリンピックの開会式は、善光寺の鐘の音で始まりました。世界72の国や地域から2300人を超すアスリートが集まり、日本はスキージャンプの船木和喜さんやスピードスケートの清水宏保さんらが獲得した金メダル5つを含む10個のメダルを獲得しました。選手たちの活躍を小学生のころに見た日本人女子初のスピードスケートのオリンピック金メダリスト、小平奈緒さんは、このときの感動と興奮が世界を目指す原点になったと言います。

     オリンピックの開催にあたり長野市、野沢温泉村、白馬村、軽井沢町の4市町村にスキージャンプやスピードスケートの競技施設など10の施設が作られました。施設は、オリンピックの後も国際大会の会場やトップ選手の強化拠点となるナショナルトレーニングセンターなどとしても使われ、長野が日本有数のウインタースポーツの拠点となるのに大きな役割を果たしました。

    100億円かけた施設の利用休止

    長野市内に新設された施設

     ところが今、地元自治体にとって施設を維持することが負担になっています。維持・管理に巨額の費用がかかっているからです。特に負担が大きいのは、開閉会式が行われた「長野オリンピックスタジアム」や、国内有数のスケートリンク「エムウェーブ」など6か所の施設を抱える長野市です。

    長野市ボブスレー・リュージュパーク(通称:スパイラル)

     このため市は、少しでも維持管理費を抑えようと100億円あまりかけて作ったボブスレーやリュージュの競技施設「長野市ボブスレー・リュージュパーク」の製氷を2018年から休止しました。それにより年間の維持管理費を2億円以上抑えることができましたが、それでもなお施設6か所にかかる維持管理費の総額はおよそ14億円に上ります。また、長野市内の競技施設は、札幌市が招致を目指す2030年の冬季オリンピックで利用することが計画されていますが、東京オリンピック・パラリンピックをめぐる汚職などが相次いで発覚したため、積極的な招致活動が休止されていて実現するかは不透明です。

    さらに財政負担は増える見込み

    長野オリンピックスタジアムの外壁

     写真のひびは、開閉会式が行われた長野オリンピックスタジアムの外壁を撮影したものです。ほかにもスタジアムの階段など複数の場所が同じようにひび割れていました。オリンピックに合わせて長野市内に作られた施設は、いずれも建設から25年以上が経過しています。老朽化対策が必要なことに加え、市は2028年に開催される国民スポーツ大会で使うことも見据えて、すべての施設の大規模改修を計画しています。改修費の詳細は決まっていませんが、市は2032年度までの10年間に概算で200億円に上るとしていて、財政負担は今後さらに大きくなることが見込まれています。

    「ECI方式」の業者選定委員会(2023年1月19日)

     こうしたなか、市が採用するのが工事を施工する業者に設計段階から関わってもらう「ECI方式」と呼ばれる手法です。従来の改修工事では、構造などに不明点があればいったん作業を止めて設計業者や市に確認をしていましたが、これだと工期が長くなります。一方、特殊な構造の建物が多いなか新たに採用した方式では、設計業者が現場に立ち会うなどして設計業者と施工業者が一体となって改修を行うため、効率的に工事を進められることなどからコストを抑えられるといいます。市は、2023年1月に委員会を立ち上げて業者の選定を進めています。

    バスケットボールの大会などに使う「ホワイトリング」

     また、市はこうした改修とは別に施設をより魅力的に作り替えることも検討しています。さまざまなイベントにも使えるような大型ビジョンを備えたり、最新の照明器具を設置するなどして集客力を高め、収益を増やす狙いです。

    長野市 荻原市長の会見(2023年2月1日)

     施設では、スポーツ大会だけを開催すればいいということではなく、エンターテインメント性が必要だ。オリンピックで使われた大規模施設をこれだけ有する街は、この近隣では長野市しかない。施設の改修は、長野市の経済を活性化させていく上で必要な投資だ。

    長野五輪の遺産をどう受け継ぐか

    奈良女子大学 石坂友司准教授

     一方で、オリンピックによる社会への影響を調査・研究する専門家は、市の財政に負担がかかっているのは、当初の建設計画に問題があったと分析した上で、施設の改修については次のように指摘します。 

     当時は競技施設を、その後にどう使うか十分に議論せずにとりあえず大会に間に合わせるということで作ってしまった。施設があることで、長野県がウインタースポーツの中心地になっているという面では評価できるが、あまり使われていないという調査結果も出ている。改修費が200億円にも上ることを考えれば、施設を利用していない人の理解も得る必要があり、長野市は市民に対して施設の存続や改修の必要性について丁寧に説明していかなければならない。

    【取材後記】

     幼い頃、長野オリンピックの開会式やスキージャンプ競技を見た記憶がうっすらあります。長野放送局に赴任してから、長野オリンピックの「遺産=レガシー」である建物が多くあることや、マンホールにも五輪マークがついていることに驚きました。オリンピックを開催した街ならではの「レガシー」をどう活用していくのか、東京や札幌にも問われる課題だと思います。

      • 橋本慎也

        長野放送局記者

        橋本慎也

        平成26年入局。鳥取局などを経て現在、長野放送局で長野市政担当。 

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