【2018年1月29日(月)放送 ゆる〜り信州 「防災の話」より】


長野市鬼無里地区の取り組み


冬の信州で注意が必要なのが、屋根からの雪下ろしや雪かき中の事故です。県危機管理防災課によりますと、去年(平成29年)12月1日から1月23日までの集計で、雪下ろしなど除雪作業に伴う事故で、死者3人、重傷7人、軽傷10人が出ているということです。長野県では、「特別豪雪地帯」に2市2町6村が指定されています。長野市鬼無里・長野市戸隠・飯山市・山ノ内町・信濃町・白馬村・小谷村・高山村・木島平村・野沢温泉村・栄村です。県では、これらの特別豪雪地帯の高齢者世帯や生活保護世帯を対象に、市町村とともに、屋根の雪下ろしや雪かきをする「雪害救助員」を派遣する事業を行っています。また、飯山市では、今年度(平成29年度)から新しい事業が始まっています。高齢者世帯などの玄関先に雪が積もると、緊急時の避難路がなくなってしまいます。そこで始まったのが、15p以上の積雪があった場合、除雪作業員が高齢者世帯の玄関先の幅1メートルを雪かきして、緊急時の避難路を確保する事業です。今回の「防災の話」のゲストも、特別豪雪地帯で、雪に関する活動を続けている方です。長野市の鬼無里地区住民自治協議会の樋口綾(ひぐち・あや)さんです。
樋口さん、この冬はどんな印象でしょうか?


樋口さん:今年は降り始めが早く、大雪になるんじゃないかと地域の皆さんは心配していたのですが、先週まではほとんど降らず安心していたところ、先週の大寒波がきました。毎日雪が降り続いて、地区内の中心部でも40センチほど、山間部では60〜70センチほど積雪があります。


Q:鬼無里地区の鬼無里活性化センターで、2月10日(土)と11日(日)に開かれるイベントがあります。その名も「雪かき道場in鬼無里」。樋口さん、どんなイベントなんでしょうか?


樋口さん:このイベントは、鬼無里地区住民自治協議会と、新潟県のNPO法人中越防災フロンティアが主催するもので、今年で3年目です。内容としては、雪かきから雪下ろしまで、さまざまな除雪技術の体験を通して楽しく学ぶことができます。


Q:このイベント、定員は30人ということで、既に応募多数で募集は締め切ってしまったそうですが、皆さんにイベントの概要と、除雪に関する知識を教えて下さい。雪かき道場には、「初級コース」と「中級コース」があるそうですが、まずは「初級コース」についてご紹介ください。


樋口さん:「初級コース」では、雪かきの基礎を学ぶことができます。雪かきをするときの服装や道具などをまとめた「指南書」を使いながら、スコップ、スノーダンプなどを実際にどう使えば効率的に雪かきできるのかご説明します。実際にかまくらを作ったり、楽しみながら学べるので子どもたちは夢中になって取り組んでくれます。


Q: 続いて、「中級コース」についてご紹介ください。


樋口さん: 「中級コース」は、主に、屋根の雪下ろしの技術を学ぶことができます。安全な屋根の雪下ろしをするために、命綱やロープに関する講習を行います。そして、実際に屋根に上がり命綱をつけて作業を体験します。


Q: この冬、県内では、雪下ろし中の事故などが相次いでいます。樋口さん、改めて、雪下ろしの際に気をつけるべきポイントを教えていただきたいんですが、鬼無里地区では、去年、安全な雪下ろしのための手引きを地域の人々に配ったそうですね?


樋口さん: はい。雪かき歴何十年といういわばプロである、地域のお父さんたちと一緒に、鬼無里流の雪下ろしマニュアルを作成しました!鬼無里地区の全戸配布も行い、地区内の方々に雪下ろし中の安全を呼びかけました。中でも一番、力を入れた「雪下ろし十箇条」が、作業中には大切なことです。

一、【大人数(おおにんじょう)で 声かけ合って 雪下ろし。】「おおにんじょう」というのは、鬼無里地区でよく使われる言葉で、「おおにんずう」という意味です。おおにんずうで声をかけあうことが大事だよ、という意味です。

二、【あんじゃあねぇ 慣れと油断が 事故をよぶ。】「あんじゃあね」というのも、鬼無里地区でよく使われる言葉で、「心配ねぇ」といった意味です。

三、【雪下ろし 最初と最後が 命取り。】

四、【かぶるだけ 命をつなぐ ヘルメット。】

五、【作業前 その日の条件 よく確認。】

六、【知っておこう 雪降る前に ウチの屋根。】

七、【『まめってぇ』 屋根の上では 過信せず。】「まめってぇ」も鬼無里地区でよく使われる言葉で、「元気だよ」といった意味です。元気だからといって、屋根の上で油断してはならないよ、といった意味です。

八、【派手な色 着てると皆に すぐ分かる。】

九、【セットでね 携帯電話と スコップと。】

十、【家よりも 優先すべきは その命。】

以上が鬼無里地区の「雪下ろし十箇条」です。安全に作業するためにも、覚えておいて損はないと思います。


Q: 雪下ろしの際に気をつけたいさまざまなポイントが盛り込まれていましたね。ヘルメットや派手な服を着用すること、家族や隣近所に声をかけあって、大人数で行うこと、事故が起きた場合にすぐに助けを呼べるよう携帯電話を持っておくことなど、どれも大切なことですよね。さて、樋口さん、「雪かき道場」には、市内だけではなく、市外の人も参加するそうですが、どんな思いから、このイベントを開こうと思われたんでしょうか?


樋口さん: ここ数年、除雪ボランティアが増えています。とても助かるので、鬼無里地区でも利用希望される方も多いです。ですが、やっぱり町中の雪と、特別豪雪地帯の雪は違うので、けがを防ぐ意味でもちょっとスキルが必要なんです。ここ、鬼無里で雪かきや雪下ろしができれば、どこに行っても安全にできると思うので多くの人たちに除雪技術を身に付けて欲しいと考えています。もうひとつは、平成26年11月に、県北部を震源に震度6弱の揺れを観測した地震がありました。鬼無里地区でも、民家などに被害があり、その時、県外の方から「災害ボランティアとして鬼無里に行きましょうか?」といった問い合わせがあったんです。ただ、その時地域にボランティアの受け入れ態勢がなかったんです。その時の経験もあって、地区外の人にも鬼無里に来てもらって、炊き出しや受け入れ環境の整備などを住民主体で行うことで防災への意識を高めたいなと思っていたんです。


Q: 今回の「雪かき道場」をきっかけに、地区外の人との連携を深めることも、いざというときに有効でしょうね。最後に、これからの防災・減災を考えるうえで、樋口さんはどんなことが重要だと思いますか?


樋口さん: 私は2人子供がいるのですが、恥ずかしながら地震を経験するまで、防災と言われてもあまりピンときていませんでした。実践していたのは、防災バッグくらいで、中身の点検もいつが最後か分からない状態でした。でも地震を経験し、防災こそ身近なものでなければならないと痛感しました。いざというとき、それは明日かもしれないし1時間後かもしれません。この雪かき道場が、鬼無里地区でこんなにも浸透したのは、住民が防災を身近に感じ必要性を感じたからこそだと思っています。なので、今後も活動を継続する中で、家族が食卓で防災についてちょっと話せるような、そんな身近なキッカケ作りをしていきたいなと思います。


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