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赤門戦士の苦闘を煮込む!

2022年5月27日

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NHKの若手職員が、自分のラブやライクを煮込みます。NHKの番組に触れながら話すので
ちょっと手前味噌…かもしれませんがNABEの具材に添えるMISOだと思って、
お気軽にご賞味ください。
第二弾は、沖縄放送局のギーダさん(ペンネーム)の記事です!
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小さい頃から野球をしていた私にとって、忘れられない光景があります。

2015年5月23日、明治神宮野球場は異様な空気に包まれていました。
当時94連敗中だった東京大学が、勝利まであとわずかのところまで法政大学を追い詰めていたからです。

最終回、アウト1つ、ストライク1つ取るたびに緊張のこもったどよめきが観客から巻き起こります。

最後の打者は空振りでゲームセット。

東京大学にとって、実に4年半ぶりの勝利の瞬間でした。
その時の応援席、涙を流して抱き合う人たち。
初めて見る光景で、戦っている選手だけでなく、
応援団やファンの方々も1勝にこんなに強い思いを懸けているのかと衝撃を受けました。

(94連敗ストップの日のスコアボードです。延長10回の激闘の末、勝利を掴みました。)

当時東京大学野球部を目指していた私にとって、
「この舞台で野球部の一員として勝利に貢献する」
と改めて強く意識した日でもありました。

翌年、私は東京大学野球部にマネージャーとして入部しました。
高校までは選手としてプレーをしていましたが、チームの状況や自分の実力を考えて、
途中からマネージャーとしてチームを支える仕事をしていました。
東京六大学の舞台でも、引き続きマネージャーとしてチームやリーグ戦の運営に携わりたいと思い、
マネージャーとしての入部を選択しました。

東京大学野球部は東京六大学野球連盟に所属しています。
リーグ戦は2戦先勝方式で、先に2勝したほうが「勝ち点」を獲得します。
他の5校はすべて私学。しかも甲子園で活躍した選手がゴロゴロいて、
かたや東大は厳しい受験戦争を勝ち抜かないとスタートラインにすら立てません。
そんな東大はリーグ戦10試合をこなして全敗で終わることもざらにあります。
勝率0割でもニュースにならない。半ば当然のように受け取られてしまう。
普段プロ野球を中心に見ている方にとっては想像のできない世界かもしれません。

10回やって1回勝てるかどうかの相手に挑み続けるメンタルは、私も入学前は想像できませんでした。
でも、入学して先輩方の姿を見るうちに、少しずつわかってきました。
負けても、負けても、なんで戦い続けられるのか。
それは、シンプルに勝ちたいからにほかなりません。

その瞬間のために学生生活を捧げられる集団、それが東京大学野球部です。

「東大で野球をしている人にしか、この喜びはわからない」

2017年、15年ぶりに勝ち点を獲得した時の、エース宮台投手の言葉です。

毎日毎日野球に打ち込んで、それでも勝てず、時にはぼこぼこに負ける時もあるし、
あとちょっとのところで負けることだってあるし、本当に様々なものを経てたどり着いた勝利は、
やっぱり他の舞台で味わう勝利の味とは違う、唯一無二のものになる。
先輩の言葉を解説するのはおこがましいですが、自分なりにこう解釈しています。

(2017年、勝ち点を取った試合で応援席に挨拶に行く場面です。)

この勝ち点獲得は私が2年生の時の出来事で、その翌年から私が上級生の時は1勝もできませんでした。
正直、3年生の時は勝ちたいと思いつつも、そこまで深刻に捉えていませんでしたが、
4年生になり、連敗が30を超えたあたりからは本当にしんどかったです。

『選手は、この場面で打てなかったからとか、自分が活躍していればとか、それなりに負けの要因をフィードバックすることは容易だと思うのですが、マネージャーは結果が出ないことに対して、もっとこうしようという明確な答えがありません。あるのは"チームのために時間も労力も費やした、だけど結果は出なかった"という事実だけです。こうなると、今までやって来た努力すらも、本当に正しかったのか疑いたくなります。』
東京大学野球部「僕の野球人生」より

かなり恥ずかしいですが、4年生の時の私の言葉からの引用です…笑
久々に見ましたが、4年生の頃は自分なりに勝利に対しての思いがあり、悩んでいたんだなと懐かしくなりました。
私はマネージャーとして、いわば“裏方”の仕事をしていて、試合でホームランを打ったり、
マウンドで三振を取りまくったりとわかりやすい形でチームに貢献する立場ではありませんでした。
試合に出る選手だけではなく、チームの運営を担うマネージャー、試合の戦略を練る学生コーチ、
練習のサポートをする控えメンバーも含めて、100人以上いるチームの全員が何らかの形でチームに貢献するのが大学野球です。
勝利にかける思いはグラウンドに立つ者と変わらなかったからこその辛さでした。

でも、もう一回チャンスがあって学生生活を送れるとしたら同じ道を選ぶと思います。

ある意味狂っているのかもしれませんが、そんな変わり者の集まりが東大野球部です。
「野球部に入るために東大を目指す」人がほとんどで、経歴も多種多様。2浪どころか3浪、
中には40歳手前で入部した人だっています。

そして、そんなある意味変わった野球部を応援してくれるファンの方々がいます。

私も今は東京大学野球部を推すファンの一人として後輩たちの活躍を応援していますが、
立場が変わり、少し心境に変化があったことがあります。
現役として戦っていたときは、大袈裟に言うと「勝利以外はすべて意味がない」と感じていました。

今はその時とは気持ちが変わっていて、もちろんスポーツという勝負の舞台で戦う以上、
勝ちにこだわることは大前提なのですが、いちファンとなった今の立場から言わせてもらうと、

「負けている試合でも与えてくれるものがある」

ということを感じています。

リーグ戦初登板のピッチャーが1点リードというしびれる場面で登場してピシャリと抑える姿や、
下級生の頃はなかなか出場機会に恵まれなかった選手が代走のスペシャリストと出てきて盗塁を決める場面など、
どんな展開であっても、素晴らしいプレーが出る度に、
「やったぞ!」「すごい!!」と盛り上がることができます。

もちろん勝ってなんぼの世界ですし、選手は勝利だけを目指して毎日全力で戦っています。
ただ、たとえ負けている場面であっても、選手たちの一挙手一投足に注目し、心を動かされる瞬間があります。

そんな瞬間を求めて、どんなに苦しい場面も声援を送り続けること。

それが、スポーツの世界でそのチームを「推す」ということなのかなと今は考えています。
勝ちの試合に巡り会えることは他のチームに比べてすこーしだけレアかもしれませんが、
その勝利数だけでは計れない素晴らしさもあるということを皆さんにお伝えしたいです。

ここで東大野球部が戦いを繰り広げる大学野球の舞台について少し紹介させてください。
正直、魅力はここでは書ききれないほどたくさんあります!
その中から、特にアピールしたい2点を挙げます。

○その大学ならではの応援
六大学野球の歴史は応援団なしには語れません。高校野球とも、プロ野球とも異なる独自の応援風景があります。
東大ファンの中にも、東大の応援に魅了されたのがきっかけという方もいるくらいです。
かくいう私も応援席での応援が大好きで、入学前は東大応援席でタオルを回しながら声を張り上げていました。
(東大はチャンスになるとタオルを回した応援が見どころです!)
慶應義塾大学の応援では、明治戦でしか使わない銅鑼を使った応援歌があるなど、各校特色があって非常に面白いです。
今まで野球に関わりがなかった方でも、応援で盛り上がるだけで楽しめます!!

(私が4年生の時の得点時の応援風景です。今はマスクをつけての応援となっています。)

○プロ野球選手予備軍のハイレベルな戦い
東京六大学は古くはミスタープロ野球長嶋選手を始め、多くの名選手を生んできました。
近年も毎年複数の選手がドラフト上位で指名されています。
例えば、2020東京五輪の決勝戦で先発した広島カープの森下投手は明治大学のエースでした。
(ちなみに東大は森下投手相手に延長12回の激戦を繰り広げています…!!)

ドラフト候補同士のガチンコ対決を楽しめるのもいいですし、
東大がドラフト候補相手に一泡吹かせるところを見るのも醍醐味の1つです。
かの有名な斎藤佑樹投手も、4年生時に東大に黒星をつけられています。
甲子園を沸かせた選手も多く、高校野球好き・プロ野球好きの方にも、
少しでも大学野球の舞台に目を向けてほしいと思っています。

ここまで読んで、六大学に興味は出てきたけど、球場に見に行くのは、、というそこのあなた!
なんと今週末はNHKで六大学野球の中継があります。
早大vs慶大という伝統の一戦です。
ホントは東大の試合を見ていただきたいところですが…笑
伝統の一戦と聞くと、プロ野球の阪神vs巨人を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、
歴史自体はこの早慶戦のほうが遥かに古く、その始まりは100年以上前まで遡ります。
だからこそ、OBや在校生も含めた盛り上がりは凄まじいものがあります。

東京六大学では通常は1日に2試合ずつ実施されるのですが、
早慶戦だけは最終節に単独で行われるという“特別扱い”になっています。
それがちょっとだけ妬ましかったりもするのですが…
ただ、神宮球場を埋め尽くす観衆、選手たちの気迫、そして名勝負の数々。
東京六大学の千秋楽を飾るに値するものを早慶戦は持っていると思います。
今回は優勝こそかかっていませんが、観客数の上限も緩和され、盛り上がること間違いなしです!!
テレビ越しにその雰囲気を味わってみてはいかがですか??

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東京六大学野球「慶応」対「早稲田」
5月29日(日) Eテレサブチャンネル 午後1:00~2:00
       Eテレ 午後2:00~
https://www.nhk.jp/p/ts/B2375MKJR1/schedule/ =================================================================
                                  (沖縄放送局・ギーダ)