震災関連
2021/09/16

取り残された被災跡地
湧き水で活用へ 〜大槌町〜

10年前、たった2か月ほどですが、私は沿岸の被災地に応援取材に入っていました。記者として何ができるのか、何もかもが失われた街を見て、強い無力感を覚えたことは忘れることがありません。それから8年後、おととしになって盛岡局に勤務することになり、被災地を再び取材しています。
真新しい住宅や立派な公共施設に10年の歩みを感じる一方で、あちこちに残されたままの「空き地」を見ると、非常に悔しい、もどかしいような気持ちがこみ上げます。それでも、ほんの少しでも、そこでいまを生きる人たちの力やヒントになればと、活用の成功例を探し、取材を重ねてきました。
すると、大槌町で、その場所にしかない“あるもの”を使って、空き地をよみがえらせようという動きがあるという話を耳にし、私はすぐに現地に向かいました。

訪ねたのは、大槌町中心部の町方地区です。
大規模なかさ上げ工事は4年前に終了し、真新しい住宅が建ち並んでいて、復興の歩みを感じました。
しかし、一歩、大槌駅の南側に入ると・・・

6ヘクタールもの空き地が広がっていました。

町方地区のまちづくりの現状はこうです。

黄色はかさ上げされ、住宅が再建されたエリア。
それ以外は「災害危険区域」に指定されて住宅は建てられなくなったため、野球場やサッカー場がつくられたほか、オレンジ色の産業用地として整備した土地にも企業や商店の立地が進みました。
問題の空き地は、赤色のエリア。
「まちの顔」とも言うべき場所が手つかずのままになっているのです。

現地を案内してもらったのは、大槌町の産業振興課長、岡本克美さんです。

第一声が強く印象に残りました。

この場所、長く復興工事の残土置き場になっていたこともあって、活用の議論が遅れたといいます。

岡本課長

「被災者の方の住居の再建を大槌町では最優先にしてきましたので、被災跡地(空き地)の問題は、二の次、三の次になっていたのが現実ですね」。

復興を次のステップを進めたいと、町は企業にも働きかけましたが、誘致を難しくする別の要因がありました。

地区一帯の雨水などを引き込む排水路が土地を分断していて、防災上、この上に建物は建てられないというのです。排水路を移設するとなれば、億単位の予算が必要になります。

岡本課長

「広くまとまった土地ではあるので、興味を示してくれた企業も数社いましたが、この排水路が原因で、話が頓挫してしまった」。

しかし、ここにしかない「武器」もありました。

この地域で見られる「湧き水」です。
純度の高い水で、古くから生活用水として親しまれてきました。

震災後、ミズアオイの群生地ができたり、珍しいイトヨの生息も確認され、駅裏の一角はこうした貴重な自然を保護する「郷土財活用エリア」として、ことし新たに整備されました。

問題の空き地でも湧き水はくみ上げることができることから、岡本さんは、ある魚の養殖施設を整備できないか、最近になって検討を進めているのです。

ある魚というのは

ここ数年の深刻な秋サケの不漁を背景に、町では漁協や大手水産会社などが連携して、去年から試験的に海面養殖を行っていて、「岩手大槌サーモン」の名で順調に出荷量を増やしています。

養殖にあたっては「稚魚」の育成が欠かせません。

いま町内では地元の建設会社のグループが育成を担っていますが、養殖事業の拡大には、さらに稚魚を育てる場が必要です。その育成施設を空き地に整備しようというのです。

岡本さんはいま、復興庁や民間のコンサルタントの支援も受けながら、来年1月ごろをメドに実現に向けた計画案をまとめる予定です。

岡本課長

「大槌町が、真の意味で復興したと言えるのは、町民のみなさんが暮らしていくための働く場所であったりとか、大槌町ってこういったおいしいものがあるよ、こういったものをつくってるんだっていう、自慢できるような産品をつくっていくためには、やはり次のステップである駅裏の活用が重要かなと思っていますね」

純度の高い水があることに加え、駅裏という位置も魚にとって利点だと言えます。

いま養殖は、卵をふ化させた後、淡水で稚魚を育てて、海に移しています。
この稚魚を育てる場と海の距離が養殖事業にとって重要だからです。

大槌町では、地図の左上にある町営養魚場で稚魚を育てていて、そこから車で30分ほど走った先の海に魚を大きくする、養殖場(生けす)があります。稚魚をトラックで海に移動させる際、一部はストレスで死んでしまうそうですが、移動時間が短いほど、魚への負担は少ないと言われています。
いまも近い、適した距離ですが、もし駅裏に追加で施設ができれば、より近くなるので魚にとってもいいという訳です。

実現に向けてはハードルも

稚魚の育成にはたくさんの水が必要なので、自噴している湧き水では足りず、ポンプでくみ上げなくてはなりません。そうした場合、周辺環境に影響が出るおそれも指摘されていて、調査が必要です。そのための基礎的な調査は、まだ始まったばかりです。

また、6ヘクタール全てを稚魚を育てる場にはできないので、例えば、町内で栽培が盛んなクレソンをつくるといった、一部を農地に転用する案も出ています。
排水路の問題は解消できないので、こうした組み合わせで活路を見出そうというのです。

今回取材した土地のように、一度浸水し、かさ上げもされていないことから、住宅は建てられない土地は「被災跡地」と呼ばれています。活用の難しさは被災地共通の課題ですが、よみがえらせることができるのか、取材を継続したいと思います。

(2021年9月16日「おばんですいわて」で放送 放送時の情報に基づいて構成)

〈取材後記〉

力強い言葉で空き地の展望を語ってくれた岡本さんですが、2年前に現在の担当になった当初は、活用に乗り出すか、迷いがあったと打ち明けてくれました。「一度、手をつけたら、やり切らないといけない重みがある」「自分1人でできる事業ではない」からでした。部下の職員たちに聞いたところ「やりましょうよ」と背中を押されたと聞き、私も追い風を送りたいと感じました。

高橋記者

盛岡放送局 記者

橋 広行

2006年入局 広島局、社会部、成田支局を経て2019年から盛岡局。

休日は6歳と4歳の息子2人と岩手の大自然を満喫しています。

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