いちのせき推し
2022/01/11

ここにもリアル二刀流?
公務員×道化師

記者をしていると、価値観を揺さぶられるような出会いが度々あります。今回取材した、松谷俊克さんもその1人です。大谷翔平だけじゃないんです。岩手県一関市の“リアル二刀流”を追いました。

2022年1月11日『おばんですいわて』で放送

放送時の情報を基づいて構成

ラフな格好のこの人が?

くじで決まった特定の自治体の話題を2週間集中的に取り上げる、NHK盛岡放送局で今年度から始まったキャンペーン「いわて全部推し!」。1月前半は「いちのせき推し」だったんですが、早速、一関市役所からある情報が寄せられました。
それがこちら。

なんと!これは行くしかない。
早速、一関市役所に突撃しました。

「こちらにリアル二刀流がいらっしゃると聞いて、やってきたんですが・・・」
一関市職員 「二刀流?松谷係長のことだと思います」

紹介されたのは、公務員にしてはずいぶんラフな格好で、(お笑い芸人の)「小峠さん!」と声をかけたくなる男性でした。
移住支援やふるさと納税などを担当する、一関市交流推進課の松谷俊克係長(47)です。

ここでは説明できないと言います。
松谷さんに指定された市の公共施設で待つことに。すると···。

「高橋さーん!!」

そう。松谷さんは、ふだんは一関市の職員で、週末になると道化師になって地域のイベントで笑いを届ける「リアル二刀流」だったんです。公演はボランティアで行っています。
その名も「クラウンろっく」。クラウンは、英語で道化師。ろっくは、松谷さんの大好きな「ロックンロール」と岩手の「岩」から来ています。

一冊の本から始まった

もともとバンド活動や演劇に励んでいた松谷さん。
2007年に、入院中の子どもたちを笑いで癒やす「ホスピタルクラウン」の存在を本で知って感銘を受け、自ら取り組むことにしたといいます。

松谷さん 「(本を)見たときに体に電流が走るような感覚で、あ、これじゃないかなと本当に思ったのは、今でも覚えてます。音楽だったら音楽だけ、演劇だったら演劇だけなんですけど、道化師だったらマジックもあり、歌うのもあり、ダンスもあり、何でもできるというところも魅力だなと思いましたね」

実はクラウンになって間もない2009年の松谷さんをNHKが取材していました。

舞台の上には、6歳の長女と3歳の長男の姿も。
休日に子どもたちを家に置いて、父親が出かけていくのはよくないと考え、一緒にやればいいと考えたのがきっかけだったとか。

“奇跡“の共演

取材から13年。コロナ禍で減ったものの、ずっと公演を続けています。
そして、なんと、なんと!

高校3年生になった娘・空歩(らぶ)さん、中学3年生の息子・侍虎(しど)さんが、いまもいっしょなんです。

親子3人で、生まれながらの道化師、「ナチュラルボーンクラウンズ」と名乗っています。

土日を中心に地元のイベントや行事に呼ばれては、ジャグリングやマジック、喜劇などを披露しています。この日は、こども園のクリスマス会に登場し、ろっくとじゅにあが交互に得意技を見せ合って、どちらがろーるのハートを射止めるか、という場面もありました。
会場は、爆笑の渦でした。

貫かれている思い

年頃になっても父親と同じ舞台に立つのって、恥ずかしくないの?実はちょとイヤなんじゃないの?ズバリ!2人に聞いてみました(松谷さんのいないところでこっそり聞きました)。

長女 空歩さん(クラウンろーる) 「人前に出るのがもともと好きなので、何ならもっと出させて欲しいです。『いま人と違うことやっている!』『快感!』という感じでやってます。人を笑顔にすることで、自分が幸せになったりするので、ずっとこういう活動を続けていきたいと思っています」
「(お父さんのことは?)常に笑顔を人に届けている人。自分もそういう人になれるように、もっと大きくなったら父のような存在になりたいなと。友達の中には、『お父さんと話すとかありえない』という子もいます。特殊だなとは思いますが、父からは『そういう育て方をしたんだ』と言われるので、いい育ち方をしたんだなと思います(笑)」
長男 侍虎さん(クラウンじゅにあ) 「小さいころから、父さんと一緒にたくさんのステージに立って多くの人に見てもらったことで、表現の楽しさを知れたし、表現が好きになりました。『世界で活躍するダンサーになる』という自分のやりたいこともはっきりしました」
「(お父さんのことは?)尊敬していて、目標にするべき人。自分の夢をずっと応援してくれていて、僕もそんな人になりたいっていうのがあります」

表現、そして父親へのまっすぐな思いがあふれ出ていました。
2人とも松谷さんの知らない間に、新しい技を身につけていたり、ダンスやバレエを本格的に学んでいたりと、観客を楽しませたいという気持ちは、成長とともに増しています。

松谷さん 「この時点で、親子で一緒にパフォーマンスできているのは最高ですよね」
「悩んでいる人が多い時代だと思いますし、私も悩みながら活動していますが、これからもクラウンを見て私も頑張ってみようとか、元気になったと思ってもらえれば最高かなって。あわせて一関市の職員として広い面で頑張りたいなと思っています」

生涯クラウンでありたい

最後に新作を見せてもらいました。
松谷さんは、体力づくりのため毎朝3キロのランニングを課していますが、いつまでも舞台に立ち、仮に子どもたちが実家を離れて1人になってもパフォーマンスが減ることのないよう、常に新ネタづくりにも挑戦しているんです。 2年前から取り組んでいるのがこちら。

体中に身につけた10の楽器を両足も使って1人で演奏する「ワンマンバンド」です。
(見ているだけで楽しい気分になるので、ぜひこのページ下の動画をご覧ください)

「クラウンろっく」を生涯続け、多くの人に笑いを届けたい。
きょうも芸に磨きをかけています。

取材後記 中世ヨーロッパでは、王や貴族に仕える道化師がいて、時に主人に苦言を呈すこともあったとされています。松谷さんは「道化師は、ネタバレを恐れ、地域をくまなく回って芸を披露していたそうです。その中で、さまざまな世の実情を知れたからこそ、主人に注文をつけられたのではないでしょうか」と話していました。松谷さんも様々な地域で公演する中で、知り合いが増え、市役所の仕事にとても役立っているそうです。さらに、職員有志で「ハミダシ隊」というグループを結成して、行政の課題を話し合う研修会を自主的に開いたりしていて、公務員の方の“刀“もしっかり磨かれていました。
松谷さんには、子育てのコツも聞いてみたくなりますが、すでに子育てに関する講演依頼も来ています。「コツやこだわりは何ですか?」と聞いてみると「自分が人生を楽しんでいる姿を見せることですかね」と話していました。納得です。弟子入りさせてください。
橋記者

盛岡放送局 記者

橋 広行

2006年入局。広島局、社会部、成田支局を経て2019年から盛岡局。

7歳と4歳の暴れん坊将軍がいる。雪かきは3回目の冬も慣れません。