私は矢野裕一朗。
NHK盛岡放送局勤務4年目の記者だ。
これまで警察担当や県庁担当を歴任。公共放送の理念を実現すべく、県民の皆様の安心安全に資するニュースを日々発信し続けている。
そんな私がこの冬、重大なミッションを担当することになった。
11月の衆議院選挙直後で皆が疲弊しきっていた時期でもあり、余人をもって代えがたい人選だったと言える。その緻密な調査報道の記録を以下に記したい。
きっかけは「岩手ぜんぶ推し」。NHK盛岡放送局が総力をあげて県内各自治体の魅力を掘り下げる人気コーナーだ。そして11月前半は「いわてまち推し」。
取材のヒントを得ようと、グーグルマップのストリートビューを眺めていると、プロレス風の緑のマスクマンが、何やら撮影に応じているのを見つけた。
画像を拡大しても表情が読めないこの男。
「何やら事件の匂いがする」。
騒ぎたてる事件記者の血をおさえながら、私たち取材班を結成。
真相を探るべく、調査を開始した。
事件取材の基本は現場にあり。
取材班は岩手町に急行し、さっそく町の人たちに聞き込みを開始。
もちろん、岩手町の皆さんに不安を与えないように配慮しながら、慎重に聞き込みを行った。
ん?
ほかの人たちに聞いてみても···。
バスを待っているおじさんも、買い物帰りのお母さんも口をそろえて「キャベツマン」だと証言。
「思った以上に事態は深刻かもしれない」。
騒ぎたてる事件記者の血を再びおさえ、取材の基本に立ち戻って役所に向かうことに。
その道中。
取材班のスタッフからは、『岩手町といえば「いわて春みどり」の名でブランド化している春キャベツが有名です』との情報が。
「春キャベツをPRするご当地キャラクター」ではないかという意見も出されたが、確証を得ないと記事にはできない。
“県政を担当して2年、その取材力をいかんなく発揮するときはいましかない”。
私は、冷静かつ慎重に、町の職員に質問をなげかけてみた。
「えっ?キャベツマン、役場にいるの?」
驚きを隠せない事件記者の私。
案内されて向かった先には、作業服姿の人物が···。
よく見ると、作業着の下にはキャベツ色のシャツが見える。
ここは直に聞くしかないと話しかけると、マスク姿の男性が顔をのぞかせました。
こちらは“主任キャベツマン”。
まちの安全に関する部署で働く役場の職員とのこと(ふだんはマスクを外しています)。
やはりキャベツマン、「春キャベツをPRするご当地キャラクター」というだけではないことがわかった。
役所での緻密な情報取材の結果、以下のことが判明した。
現在も、警察と協力して交通事故の防止を訴えたり、幅広く活動しているキャベツマンたち。主任キャベツマンは最後に、重要な情報を寄せてくれた。
レジェンド!?。
冷静沈着な事件記者の私も、さすがにたぎる血をおさえることはできない。
取材班は団子屋さんに急行。
おいしそうなお団子がならぶ清潔な店内。
元気の良い接客の男性が出迎えてくれた。
こうなったら直あたり取材しかないと、私は意を決して尋ねた。
呼んできますか?!どうやらこの男性、関係者か?
団子屋のお兄さんにお願いして、レジェンドキャベツマンを呼んできてもらいました。
現れたのは、全身緑づくめのキャベツマン。
取材班はグーグルアースで最初に見たマスクマンにたどり着くことに成功した。
店員の男性こそキャベツマンの生みの親、レジェンドだったことが判明した。
事情を聞くと、岩手町のキャベツを使った焼きうどんのPRイベントに、マスクをかぶって手伝いに行ったところ、お客さんに「キャベツマンだ!」と言われ、その日からキャベツマンとなったとのことだ。
なぜお団子屋さんがキャベツマン?
全身から「岩手町愛」があふれているが、事情を聞いていくと、岩手町のキャベツを思っているからこそ、人知れず葛藤しているという悩みを打ち明けてくれた。
「キャベツマン」とは、岩手町を盛り上げようと様々な活動に取り組んでいるマスクマン集団のこと。その条件はただ一つ、「岩手町愛にあふれていること」。
あなたも私も、キャベツマンになることができるかもしれない。
最後に、レジェンドの証言で、1日にわたる私の調査報道の報告を終わりとしたい。
盛岡放送局 記者
矢野 裕一朗
2018年入局。警察・司法担当を経て、2020年秋から県政担当。
キャベツは野菜の中ではピーマンの次に好きです。