いわてまち推し
2021/11/12

いわてまち推し!
キャベツマンに迫る

私は矢野裕一朗。
NHK盛岡放送局勤務4年目の記者だ。
これまで警察担当や県庁担当を歴任。公共放送の理念を実現すべく、県民の皆様の安心安全に資するニュースを日々発信し続けている。
そんな私がこの冬、重大なミッションを担当することになった。

「緑のマスクマンの謎を追え」

11月の衆議院選挙直後で皆が疲弊しきっていた時期でもあり、余人をもって代えがたい人選だったと言える。その緻密な調査報道の記録を以下に記したい。

【調査報道 岩手町の“キャベツマン”の正体に迫る】

きっかけは「岩手ぜんぶ推し」。NHK盛岡放送局が総力をあげて県内各自治体の魅力を掘り下げる人気コーナーだ。そして11月前半は「いわてまち推し」。
取材のヒントを得ようと、グーグルマップのストリートビューを眺めていると、プロレス風の緑のマスクマンが、何やら撮影に応じているのを見つけた。

画像を拡大しても表情が読めないこの男。

「何やら事件の匂いがする」。

騒ぎたてる事件記者の血をおさえながら、私たち取材班を結成。
真相を探るべく、調査を開始した。

【取材の基本@聞き込み 知名度抜群の“キャベツマン”】

事件取材の基本は現場にあり。
取材班は岩手町に急行し、さっそく町の人たちに聞き込みを開始。

もちろん、岩手町の皆さんに不安を与えないように配慮しながら、慎重に聞き込みを行った。

「お母さん、このマスクマン見たことあります?」
「ない…あっ、この人?キャベツマン」

ん?

ほかの人たちに聞いてみても···。

「キャベツマンでしょ」
「キャベツマンだな」

バスを待っているおじさんも、買い物帰りのお母さんも口をそろえて「キャベツマン」だと証言。

【取材の基本A信頼できる情報を キャベツマンとは?】

「思った以上に事態は深刻かもしれない」。

騒ぎたてる事件記者の血を再びおさえ、取材の基本に立ち戻って役所に向かうことに。

その道中。
取材班のスタッフからは、『岩手町といえば「いわて春みどり」の名でブランド化している春キャベツが有名です』との情報が。
「春キャベツをPRするご当地キャラクター」ではないかという意見も出されたが、確証を得ないと記事にはできない。

“県政を担当して2年、その取材力をいかんなく発揮するときはいましかない”。
私は、冷静かつ慎重に、町の職員に質問をなげかけてみた。

「すみません。いま、キャベツマンについて調べているんですが···」
「実は役場にもキャベツマンがいまして、先ほど作業をしているのを見かけたので、行ってみましょうか」

「えっ?キャベツマン、役場にいるの?」
驚きを隠せない事件記者の私。
案内されて向かった先には、作業服姿の人物が···。

よく見ると、作業着の下にはキャベツ色のシャツが見える。
ここは直に聞くしかないと話しかけると、マスク姿の男性が顔をのぞかせました。

「あなたはもしかして、キャベツマンさんですか?」
「はい!キャベツマンです」

こちらは“主任キャベツマン”。
まちの安全に関する部署で働く役場の職員とのこと(ふだんはマスクを外しています)。
やはりキャベツマン、「春キャベツをPRするご当地キャラクター」というだけではないことがわかった。

役所での緻密な情報取材の結果、以下のことが判明した。

【キャベツマン】 ▼10年ほど前に誕生した、町”非公認”のキャラクター。
▼岩手町の魅力をPRするために、さまざまな人が“勝手”に参加。
▼現在は4体。
▼キャベツウーマンの「キャベ子」さんも。
※キャベ子さんは隣町に引っ越してしまい、活動頻度は少なくなっているそう。
「岩手町の名前が全国に広がっていって、町のみんなを元気に、そしてキャベツをもっとたくさん消費していただけるように活動しています。
グルメのほかには交通安全のイベントも重点的に行っています。ドライバーがぼーっとして、疲れた体で運転することのないよう、元気を出してもらえるよう活動しています」

現在も、警察と協力して交通事故の防止を訴えたり、幅広く活動しているキャベツマンたち。主任キャベツマンは最後に、重要な情報を寄せてくれた。

「われわれのリーダー・レジェンドキャベツマンにぜひ会っていただければと思います。
レジェンドキャベツマンは町内の西田だんご店で遭遇できますので、ぜひお立ち寄りください」

【取材の基本B最後は直あたりも レジェンドとの遭遇】

レジェンド!?。

冷静沈着な事件記者の私も、さすがにたぎる血をおさえることはできない。
取材班は団子屋さんに急行。
おいしそうなお団子がならぶ清潔な店内。
元気の良い接客の男性が出迎えてくれた。
こうなったら直あたり取材しかないと、私は意を決して尋ねた。

「レジェンドキャベツマンがいると聞いたんですけども、ご存じでしょうか」
「呼んできますか?」

呼んできますか?!どうやらこの男性、関係者か?
団子屋のお兄さんにお願いして、レジェンドキャベツマンを呼んできてもらいました。

現れたのは、全身緑づくめのキャベツマン。
取材班はグーグルアースで最初に見たマスクマンにたどり着くことに成功した。

店員の男性こそキャベツマンの生みの親、レジェンドだったことが判明した。

事情を聞くと、岩手町のキャベツを使った焼きうどんのPRイベントに、マスクをかぶって手伝いに行ったところ、お客さんに「キャベツマンだ!」と言われ、その日からキャベツマンとなったとのことだ。

「キャベツマンさんの装い、こだわりはどんなところにありますか」
「やはり緑であるということですね!岩手町のカラー、緑!そしてキャベツの緑!
それがこだわりです!」 ※衣装は地元・沼宮内中学校のジャージ。

なぜお団子屋さんがキャベツマン?
全身から「岩手町愛」があふれているが、事情を聞いていくと、岩手町のキャベツを思っているからこそ、人知れず葛藤しているという悩みを打ち明けてくれた。

「キャベツがけがれるじゃないですけど、俺と岩手町のキャベツを一緒にしちゃっていいのかなと、それでいいのかなと思っちゃいます。葛藤だらけです!」
「でも、キャベツマンをやって、岩手町に来てもらった人、そして西田商店に来てもらった人に楽しんでもらえるように今後もやっていきたいなと思っております」。

「キャベツマン」とは、岩手町を盛り上げようと様々な活動に取り組んでいるマスクマン集団のこと。その条件はただ一つ、「岩手町愛にあふれていること」。

あなたも私も、キャベツマンになることができるかもしれない。

最後に、レジェンドの証言で、1日にわたる私の調査報道の報告を終わりとしたい。

「キャベツマンの素質って何ですか?」
「第一は、岩手町を広く知ってもらうために本気になれることですね。楽しいだけではやれないですね。そんな生半可な気持ちでは。でも、私自身も楽しみながら岩手町を盛り上げていきたいです」
取材後記 取材から2週間後、「盛岡市の“よ市”でレジェンドキャベツマンを見た」という情報が相次いで寄せられました。後日、西田さんに話を聞くと、グルメイベントの縁で交流のある「いわいずみ炭鉱ホルモン鍋発掘隊」のブースで団子を焼いていたそう。「イベントを盛り上げるために、こういった出張も多々あります!」とのこと。キャベツにとどまらず、地域を盛り上げるために幅広く活躍しているキャベツマンなのでした。
矢野記者

盛岡放送局 記者

矢野 裕一朗

2018年入局。警察・司法担当を経て、2020年秋から県政担当。

キャベツは野菜の中ではピーマンの次に好きです。