いわてびと
2021/06/09

“特別でない”1品を 伝統の小久慈焼

“淡く緑がかった乳白色”。“素朴で優しい曲線”。

久慈市に伝わる「小久慈焼」という焼き物です。

発祥は江戸時代。
久慈市などを舞台にしたNHKの連続テレビ小説、「あまちゃん」でも多くのシーンに登場しています。
こちらのコーヒーカップも、小泉今日子さんが実際に撮影で使用したものです。

200年以上の歴史を紡ぐ「小久慈焼」。
その工房を訪ねてみました。

久慈市の中心部から南西におよそ2キロ。
山間の小久慈町。
木々に囲まれるように工房があります。

小久慈焼 8代目 下嶽智美さん

「小久慈焼は日用雑器としてスタートして、日々の、特別な日ではなくて、本当に日常の中で使われる物だと思って作っています」。

8代目の職人、下嶽智美さん(54)です。
従業員は合わせて3人。
顧客からの依頼を受けながら、一から手作りで陶器の製作を行っています。

小久慈焼 8代目 下嶽智美さん

「料理が盛りつけされている、喫茶店であれば、コーヒーが入ってお客さんの前に出される。
そのときが(小久慈焼として)1番かっこいいですよ/
お客さんのところに(商品が)行って使われて、初めて完成されると思っています」。

下嶽さんの陶器づくりは、原料となる粘土の採取から始まります。
使うのは、地元で取れる、粒子の細かい良質な粘土のみ。
不純物が少なく、焼き上がりで透明度の高い白色を出すための決め手となります。

そして始まる陶器づくり。
はじめに、粘土の空気を抜いて堅さを均一にするため、粘土を力強く練り続ける、「菊練り」と呼ばれる作業が皮切りとなります。
続いて、粘土をろくろに置いて、ろくろを回しながら形を整えます。
手や竹串を使って、ミリ単位で傾きや厚さなどを調整します。

続いて、2〜3週間かけて粘土を乾燥させるなどしたあと、「本焼き」に入ります。
火力を微調整しながら、18時間焼き続けます。
焼き物の色合いや質感が決まる重要な作業です。

粘土の採取から完成まで、かかる時間は1ヶ月ほど。
滑らかな光沢と素朴で優しい味わいが日常の食卓に溶け込みます。

女性客

「料理の見た目も素敵に見えますし、食べていてもおいしいなと思います」。

飲食店店主の青松慶一さん

「どんなシーンにも合うといいますか、料理だけでは出せない価値観、プラスの価値というのを小久慈焼さんのほうで後押ししてもらっている」。

江戸時代から続く工房のもとに生まれた下嶽さんは、当初は職人ではなく、営業担当として工房に就職しました。
しかし、時代の移り変わりと共に、工房の売り上げはピーク時の半分ほどにまで減少します。

この間、下嶽さんは、営業先で顧客のニーズの変化を感じていました。
そこで、伝統的な物とは形や色が異なる、新たな陶器の製作を提案しましたが、受け入れてもらえなかったといいます。

小久慈焼 8代目 下嶽智美さん

「職人さんたちからすると、自分の腕、技術に対して自信を持っていますから。
「(職人からすると)『だったらお前が作れよ』という話になりますからね/
本当に売りことばに買いことばみたいな感じですかね。
だったらやってやるよという感じですね」

こうして、下嶽さんは、みずから陶器づくりに取り組むことになりました。

ただ、7代目の職人で父親の毅さんは、簡単には陶器づくりを教えてくれませんでした。
下嶽さんは父がろくろに向かう姿の見よう見まねで修行を始めました。
ときには営業の仕事が終わる夕方から、翌日の朝までろくろを回し続け、およそ10年の修行をへて、42歳でようやく職人の1人となりました。

そんな下嶽さんの陶器は、使いやすさを追求したデザインが特徴です。
こちらは主力商品の1つ、「片口」です。
主に液体を別の器に注ぐために使われてきました。
左側はおよそ60年前の作品。右側が下嶽さんの作品です。
比べてみると、下嶽さんが手がけた物は注ぎ口がより大きく、そして深くなっているため、液体がこぼれにくいといいます。

小久慈焼 8代目 下嶽智美さん

「この形自体は代々作り続けられていますから、その時代時代の中で求められる形とか、求められる機能なんかが変わってくると思うんですよ。
それをその形に表していければいいかな」。

こうした下嶽さんの創作を支えているのは、工房を訪れる客との会話です。
商品の使い勝手などをみずから聞き取ります。

小久慈焼 8代目 下嶽智美さん

「お茶碗とかで、ちょうどいいなみたいな感じのサイズ感ってどうですかね、という相談をしてもいいですか」

女性客

「一回りぐらい小さいといいかもしれないですね」

小久慈焼 8代目 下嶽智美さん

「アイデアをもらう部分でもありますし、使ってもらうというのが前提ですから。
(形は)大きくは変わりませんけれども、マイナーチェンジを繰り返してはいきたいなとは思っています」

”生活になじみ、使いやすい陶器を”。
時代の変化に合わせデザインは変えつつも、下嶽さんが目指す小久慈焼きの本質は変わりません。

小久慈焼 8代目 下嶽智美さん

「今までの代々いる人たちが精一杯つないできています。
今たまたま私が預かっている物だと思っています。
なので、できるんだったら、その預かっている物を次の人(後継者)に渡したい。
そのためには、自分がこれをちゃんと守っていかなければいけない。
小久慈焼として恥ずかしくない物を出していきたいですね」。

人々の日常に寄り添い続ける小久慈焼。
下嶽さんの工房では、陶器作りの体験教室も開いています。
下嶽さんは、「世界に1つだけの陶器づくりを楽しみながら、その歴史にも思いをはせてほしい」と話していました。

下京記者

盛岡放送局 宮古支局 記者

下京 翔一朗

2013年入局 千葉局、館山支局、盛岡局を経て、2017年から宮古支局。

鹿児島県出身ですが、東北の寒さにはすっかり慣れました。